はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

夏の終わりに

2009-09-21 17:10:40 | はがき随筆
 朝の大合唱は、玄関を開けると更にボリュームを上げてのセミしぐれ。今年は殊の外うるさく感じられたのは年のせいだろうか。それがお盆をピークに、日ごとに鳴き声が静かになっていった。そのうち全然聞こえなくなって「あれ?」と思ったのは8月も終りのころだった。はかない命を精いっぱい生きたセミが哀れにさえも感じられた。
 40年前、子供たちの夏休みは昆虫採集だった。真っ赤な顔でセミを捕まえ、大きさや形を競い合っていた。今や孫たちは、エコ対策や自由研究がテーマというから、まさに時代の移り変わりを感じる。
  鹿児島市 竹之内美知子(75) 2009/9/13 毎日新聞鹿児島版掲載

妻権交替

2009-09-21 17:07:38 | はがき随筆
 健康体操講師の妻は忙しい日々。よって家事を手伝う。米を研ぐという言葉通り、炊飯の米は研いで洗う。始めは右手で次は左手で力強く研ぐ。朝ドラの好きな妻はその時間帯、洗濯機がとまっても動かない。数十枚のシャツや下着をたたんでカゴの中へという仕事は私の役目。布団の上げ下げも私。毎朝押し入れにしまい込むのだ。料理の領域だけはまだだが、魚ならおいしく焼ける。芋やクリやトウモロコシの煮かたは私の専門。総選挙が終わり深夜まで2人して開票速報を見ていたが、妻が寝入りばな政権交代だねと言ったのが妻権交代と聞こえた。
  志布志市 武田佐俊(66) 2009/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

ぼくらの世代

2009-09-21 17:04:09 | はがき随筆
 父が迎えることの出来なかった古希を迎えることになった。特別な感慨など無いが、振り返る気持ちにはなる。そして、記憶の最初に現われたのは戦争である。やはり恐怖が根底にある記憶は消し難いのだろうか。
 盛岡の連隊で父と面会した時のこと。Bー29の編隊が針の先を並べたようにキラキラ光りながら青空に浮き、妹を背負った母に手を引かれ、夜空を染めて燃える立川と調布の飛行場を雑木林から眺めた記憶。さらにアブラゼミが鳴く暑い日の終戦。
 就学前の記憶であり、戦争の恐怖を見た最後の世代かもしれない。
  志布志市 若宮庸成(69) 2009/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

「点の記憶」

2009-09-10 15:14:34 | 岩国エッセイサロンより
 大連港を出た引き揚げ船は佐世保港に着いた。岸壁に立つや否や、頭にDDTの真っ白い粉をかけられた。

 長い行列を作って汽車に乗る。客車は窓の上まで荷物でいっぱい。その上にかがみこんだ。早朝、岩国駅に着いた。黒く底の見えない池を縫うようにして家に向かって歩いた。

 岩国の空襲は終戦の前日、8月14日だったという。あとわずか一日を待たず、五百余名の命が散った。あの池は数千発の爆弾穴だったことを後になって知った。

 5歳児にとっての敗戦は、線にならない点の記憶。不気味なまん丸い水たまりは、今でもはっきりと覚えている。
 岩国市  岩国エッセイサロン会員 沖 義照(2009.08.14 毎日新聞「はがき随筆」掲載)





一足お先に

2009-09-10 14:40:20 | アカショウビンのつぶやき










 私たちの教会では、毎年、手作りのプレゼントを70歳以上の方々に贈ります。
 今年のプレゼントは「時代の流れに逆行かなあ…」などと、つぶやきながら、スーパーのレジ袋を入れる可愛い袋を作りました。毎週金曜日の会堂清掃後、少しずつ作り、80個のプレゼントは9月始めにようやく完成、お一人お一人に心を込めて書いたお便りを添えて、全国に発送しました。
 
 今年は9月の第一日曜礼拝後に、80歳以上の方々をお招きして敬老祝会を持ちました。教会員全員が集まり、ささやかな会ですが、楽しい会となりました。
 
 聖書の中に「白髪は栄えの冠…」と言う言葉があります。ご高齢の方々に感謝と祝福を祈りつつ、喜びあうひとときでした。

とら焼き?

2009-09-10 13:07:24 | アカショウビンのつぶやき
 友人から佐賀のお土産をいただきました。それは「とら焼き」。

えっ、どら焼きじゃないの…。

でも、よく見ると、ほんとに「虎焼き」。
シマシマに焼けた模様が虎なんです。村岡総本舗 「とら焼き 宗歓」 とありました。

目先を変えて興味をそそる…。
長く続くものもあるでしょうし、いつの間にか消えてしまうのもいっぱい。

自民から民主へと世の政治も180℃転換しましたが、小沢チルドレンと騒ぎたてられる新人代議士さん、しっかりお勉強して下さいね。
これからがお手並み拝見…です。

ブドウ狩り

2009-09-10 12:28:44 | はがき随筆
 種子島生活13年目にして初めてブドウ狩りに行ってきた。中種子の納官という集落にある、ハウス栽培のブドウ園だ。
 千葉県の船橋市に住んでいたころは隣の鎌ケ谷市にブドウ園があり、今は亡き母が来た時も連れて行ったものである。その時□にしたブドウは酸味があったが、納官のは甘味が勝った。
 入園は無料だが、もいだ分を買い取るシステム。調子に乗って5㌔以上ももぎ取った。
 家に帰り着いてカミさんは早速、神棚へ。「母さんは甘いほうが好きだったわよね。たくさん食べてね」。真夏の″よきブドウデー″ではあった。
  西之表市 武田静瞭(73) 2009/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載
  写真は武田さん提供

熱戦

2009-09-10 12:20:40 | はがき随筆
 今年の夏はスイカでにぎわった。5月に植えた苗があれよあれよという間に成長。7月にはポッチャリと愛らしい実をあちこちに付けた。毎日のぞき込む。
 8月には熟れごろをポンポンと音で確かめながら収穫。甘くて水分たっぷり。ところがこの時期にカラスにつつかれ、夜は何者かが皮だけ残して平らげる始末。あわててネットを張りさくを作って撃退作戦。しかし敵もさる者。夜な夜な現れ、あの手この手で立ち向かうも功を奏さず。ついには早めの取り入れでご近所へ夏休みの孫たちへとせわしく届ける。知恵比べの白熱戦にもやっと幕がおりた。
  出水市 伊尻清子(59) 2009/9/9 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はふみちゃんさん

人生の味を

2009-09-10 12:16:23 | はがき随筆
 8月23日、満70歳になった。古希の言葉がのしかかる。今までの人生、基礎固め、基礎づくりであった。神仏人の恩恵でこの時まで生きることができた。すべてのものに感謝の一言に尽きる。自分一人では到底、無理な人生であっただろう。
 今からが人生の勝負である。こつこつと喜寿までには、と思う。喜寿に至るまでは、今まで以上に喜怒哀楽を味わうことも多々あろう。辛抱・我慢の一途で生きようと思う。
 その後の傘寿、米寿は「快さ・惚れ・憧れ・愉しみ」の人生か。ひとつひとつ出会うことによって、人生の味を味わうか。

  出水市 岩田昭治(70) 2009/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載

バランス

2009-09-10 11:36:39 | かごんま便り
 夏の嵐のような衆院選から1週間。民主、自民両党は4年前の「小泉郵政選挙」の裏返しの結果となり民主が大勝。伝統的に自民支持が根強い鹿児島県でも、5小選挙区のうち二つで自民が議席を明け渡した。

 民主が県内で初めて小選挙区で勝利した鹿児島1区を例に有権者の投票行動を振り返ってみる。まずは小選挙区。前回約2万4000票差で勝利した自民・保岡興治氏は今回、民主・川内博史氏に逆に約2万3000票差で及ばなかった。

 鹿児島支局が期日前投票を含めて実施した出□調査(有効回答650人)によると前回、保岡氏に投票した人のうち今回も保岡氏に投票したのは65%。34%は川内氏に票を投じたと答えた。保岡氏から「離反」したのは「支持政党なし」の人々だけでなく、自民支持層も少なからず含まれていた。一方、前回川内氏に入れた人の96%は、今回も川内氏を選んでいた。

 比例代表はどうか。回答者の支持政党は自民39%、民主26%の割合だったが、投票先は自民24%に対し民主49%。自民支持層の3分のIは自民ではなく他の政党(多くは民主)に投票していた。

 いわば身内からも「ノー」を突きつけられた自民党。民主の勝ちよりむしろ自民の負けが印象として際立った背景はこういうことだったのだ。

 個人的に興味深かったのは、自民退潮、民主躍進の流れの中、やや違った投票行動に出た人たちの存在である。小選挙区では民主の候補に投票しながら、比例では他の政党を選んだ回答が思いの外あり、それは「自民離反組」だけでなく民主支持層にも散見された。

 自民にはいいかげん退場願いたいが、かと言って民主の独走も困るということだろう。前回の自民大勝への反省からか、2大政党制への抵抗感なのか、いずれにせよ2票をバランスよく行使したい有権者が少なくないことを改めて感じた次第。

鹿児島支局長 平山千里 2009/9/7 毎日新聞掲載

味覚

2009-09-09 15:00:13 | 岩国エッセイサロンより
 秋は一年中で一番好きな季節。果物は豊富で、なかでも無花果がおいしい。子供のころ我が家ではあちこちに植えてあり、学校から帰ると木に登り、手当たり次第食べた。大人の□にはなかなか入らなかった。

 そのうち、クレームがついた。兄の提案で、自分の持ち木を決めた。生(な)り木はけんかをすると枯れるという言い伝えがあった。なんとその年、見事に枯れた。うそのようなほんとの話。遠い昔の苦い思い出。

 今スーパーでは、ふっくらと柔らかく熟れた無花果が並んでいる。値段もそこそこ高い。買って食べてみるが、やはり我が家のあの味は忘れられない。 
  岩国市  岩国エッセイサロン会員   檜原冨美枝
   (2009.09.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)
写真はyushitaさん





妻の消費期限

2009-09-09 14:07:13 | 岩国エッセイサロンより
 ある朝「もっと早く出せよ」「これ、もう食べられないよ」と私は妻を怒鳴る。妻はたちまち不機嫌になり「まだ大丈夫よ」と食べてみせる。一昨日の夕食用に作ったポテト・サラダで、既に36時間を経過している。

 こういう諍いは、これまでも度々である。妻は食あたりらしきことの経験がない、細菌に強い胃腸の持ち主。私は全く逆で、いとも簡単に食あたりする。この体質の違いは深刻である。 

 おおらかな夫でありたいと思うが、身を守る方が先決で悩ましい。これから年を重ねると、さらに妻の食品に対する消費期限が延びそうで心配が募る。
  岩国市  岩国エッセイサロン会員   山本 一
    (2009.08.20 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

 



登山

2009-09-07 21:31:33 | はがき随筆
 富山県のある小学校で6年生になると立山登山を経験して一人前になるという映像を見た。
 そういえば初めての霧島登山も6年生の時。途中で断念した数人の中に私もいて、頂上を極めなかった後味の悪さを、ずっと引きずっていた。
 20歳の夏、立山に登ってからの私は、山のとりこになってしまった。のどの乾きを潤すために雪を食べ過ぎて数日、体が水ぶくれ状態になったことも懐かしい。当時丸々と太っていた私に仲間は「転がって下りた方が早い」などと言ったりもした。登頂のさわやかさときたら何ものにも代えがたいものだった。
  霧島市 □町円子(69) 2009/9/7 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はこばやんさん

せみしぐれ

2009-09-07 21:26:49 | はがき随筆
 小学3年生の学芸会、劇の海幸彦、山幸彦。私は釣り針のかかった魚の役。セリフは一言だったが、物語を盛り上げる大事な役目だったと思う。先生の合図で舞台挟しと転げ回り「イタイ! イタイ!」。満席の父母がドッと笑う。テレビや自動車も少なかった時代。平和で、のどかなあのころを心のどこかでいつも思い出している。
 私を育ててくれた山深き懐かしい小学校が近々閉校になるとの記事に1日訪ねた。人けのない校庭に、1人たたずむ。昔のままのせみしぐれ。
 ふと先生の声が、同級生の声が、聞こえたような気がした。
  指宿市 有村好一(60) 2009/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載


目撃

2009-09-05 16:02:28 | はがき随筆
 「万引きは犯罪である」という言葉をよく耳にするが、その万引きを目撃してしまった。
 私に背を向け中腰で左右を確認するとまんじゅうらしき物をポケットに押し込み、小走りで店の片隅に行き、地図を広げ上目遣いに周囲を警戒している。
 サービスエリアでのわずか1、2秒の出来事。そして地図とお茶を手にツアーバスに乗った。同世代の初老の男性は何食わぬ顔をして隣人と談笑している。
 真意を測りかね、ただ傍観していた私……。
 ほのかな新宿の灯とはうらはらに新緑の乗鞍、上高地の旅はむなしさで薄らいでしまった。
  薩摩川内市 田中由利子(68) 2009/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はよこちんさんより