はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

人生の教科書

2010-09-03 21:01:53 | 女の気持ち/男の気持ち
 私が河野裕子さんの歌と出合ったのは今から10年前、長男が2歳のころのこと。当時の私は初めての子育てで戸惑ったり迷ったり、なによりくたびれていた。
 そのころの息子は、夜は寝ないし、日中もおんぶしないと眠らない。そして私以外には絶対にだっこされないのだった。
 もちろん息子はとても可愛いが「いつになったらゆっくり眠れるのかしら」と、そんなことばかり考えていた。河野さんの歌を知ったのはそんな時だった。
《朝に見て昼には呼びて夜は触れ確かめおらねは子は消ゆるもの》 
 この歌は私の心の奥に深くやさしく入ってきて「ああそうだ。私はこの一瞬をもっと大切にしなければ」と気づかせてくれた。
 今では12歳、9歳、5歳の3人の男の子の母となった私だが、子育てに迷うといつもこの歌を暗唱する。
 けれど、たったの10年の間に長男と次男は1人で何でもできるようになり、放課後などは自転車でさっそうと出かけていってしまう。ああ私は置いてきぼりだなあと思ったこのごろは、心の奥からこんな歌を取り出して涙したりする勝手な母だ。
 《さびしいよ息子が大人になることもこんな青空の日にきっと出てゆく》
 河野さんの歌に、私はどれだけ励まされ、助けられたことだろう。
 河野さんありがとうございました。あなたの歌は、私の人生の参考書です。
  福岡市南区 藤崎 智子(42) 2010/9/3 毎日新聞の気持ち欄掲載

感動

2010-09-03 20:54:56 | はがき随筆
 山間の清流に沿って、長い山道が続く。この道が好きでよく散歩する。7月中旬、早朝のこと、小雨の降る中を歩いていると、大きな木が倒れて山道をふさいでいる。後ろを見ると、1台の車がバックしながら迂回している。そこに青年が、雨にぬれながら、倒木を取り除く作業をしている。「おはようございます。大変ですね」と言うと青年は「車が通れないと皆さんが困るから」と言い、作業を続けている。
 この光景を見た私は心温まる青年の親切、真心にふれ感動した。あれから2ヶ月。白いは並びの顔が忘れられない。
  出水市 橋口礼子(76) 2010/9/3 毎日新聞鹿児島版掲載

魔法の靴?

2010-09-02 21:28:22 | 女の気持ち/男の気持ち
 駅前通りの小さな、ありふれた靴店。店主夫妻が懇切なアドバイスをしながら、靴を見たててくれると、知人が教えてくれた。
 若いころは、先のとがったおしゃれなハイヒールを痛みをこらえて履いていた。しかし外反母趾がひどくなり、近ごろはかかとの低い靴ばかりを愛用している。それでも長時間靴を履いていると足が痛くてたまらす、行儀が悪いが、椅子に座るとすぐ靴を脱いでしまうありさまだ。
 そんな悩みを話すと、素足になるように言われる。外反母趾に加え、高が薄くて足が長いと見立てられ、数足の靴を選んでくれた。
 次々と履きながら、今までと違う感覚に驚く。さらに靴の内側に薄いクッション材を入れると、ぴったりと足に吸い付くようだ。合わせてもらった靴で店内を歩いてみると、ついさっきまで履いていた靴と全然履き心地が違う。
 「足は第二の心臓ですからね。足に合う靴を選ばないといけないですよ」と言われ、2作を購入した。「そんなに痛かったのなら、買った靴を履いて替えればいいじゃないか」と夫に言われ、軽やかな足取りで車に乗り込む。
 後日、夫と外出した時に、家に着くまで一日中一度も靴を脱ぐことがなかっのにおどろいた。いつも車の中で脱いでいたのにであ。
いつみ車の中で脱いでいたのにである。まるで魔法の靴を履いているかのようだ。「赤い靴」のカレンのように、いつまでも踊れそうなこのごろ。
  福岡県飯塚市 西田磨美(54) 2010/9/2 毎日新聞の気持ち欄掲載



そのままだ!

2010-09-02 21:11:43 | 女の気持ち/男の気持ち
 車いすに揺られ、2階の集中治療室から4階の脳外科病棟に戻ってきた。病室の大きな窓から、皿倉、帆柱山の緑の稜線がくっきり迫ってくる。
 「おかえり」
 私より前から入院していた若い2人が明るい声で迎えてくれた。
 「ただいま。元気ですよ」
 「本当だ。私負けそう」
 私の娘と同い年のYさんが少し笑って言う。彼女の手術はまだ先になりそう。
 病名、脳腫瘍。右前頭頭頂部、髄膜種。担当医から説明を聞き、手術承諾の署名、捺印を終え、7月半ばの雨の続く日に入院。2日後に摘出手術を受けた。
 「髪はそのままで、手術室で消毒します」
 「えっ、剃らなくていいの。うれしい!」
 手術を前にうれしくなった。
 「尼さん頭は美人しか似合わんもん」
 そばにいた人たちが皆笑った。
 「おばちゃん頑張って」とYさんの声。
 夫と息子夫婦に励まされて、深い眠りから目覚めたのは手術の翌日の朝。
 「分かりますか。あなたのお名前と生年月日を言ってください」
 すらすら答えられた。
 ベッドの上に起こしてもらい、熱いタオルで顔をそっとぬぐい、歯を磨いてすっきり朝を迎えた。鏡を見る。頭の上に白い絆創膏が帽子のように載っていて、顔が丸く膨らんでいた。でも、髪はそのままだ!
  北九州市 金色 鞽子(74) 2010/9/1毎日新聞の気持ち欄掲載

ムツゴロ釣り

2010-09-02 21:04:45 | はがき随筆
 今日はムツゴロ(カワムツ)釣りだ。ヤマセミに遠慮をしつつ、瀬を釣って行く。この川の釣り人は私一人。それも10年ぶりとあって、4時間もすると、びくは満杯に。さて、最後の好猟場の堰で仕上げとするか。
 やぶを抜けると、釣り人に遭遇。私のびくを見た3人は「餌は?」「仕掛けは?」「この釣果は何時間で?」と矢継ぎ早の質問攻めである。
 久留米から来たと言う。彼らのびくには数匹泳いでいる。同情を覚えて、200を超える私の釣果をそっくり差し上げた。「ムツゴロは脈釣りに限る」とアドバイスした。
  出水市 道田道範(61) 2010/9/2 毎日新聞鹿児島版掲載

2010-09-02 20:53:17 | はがき随筆
 聖堂入り口の錨はキリストと共に旅する民の象徴だが、実際旅をしていると実感する毎日だ。善意の医師団が殺害されたと知った日は、砂漠に不時着した心地がした。
 ほほえみかけたところ「こんにちは」と元気な声が帰って来た日は、陽気な港に錨を下ろし、自分の言動を恥じる日は、人里離れた岩かげに野宿する。
 喜びや悲しみや苦しみなどをまぜこぜにしてプレゼントされる一日一日を、感謝して受け取り、祈りながら生き、旅をしている。
 人生は、スリルに富んでファンタスティックである。
  鹿屋市 伊地知咲子(73) 2010/9/1 毎日新聞鹿児島版掲載

小さな秋

2010-09-01 17:27:38 | アカショウビンのつぶやき


 やっとタマスダレが咲き始めた。
  
 異常気象のせいだろうか…今まで害虫の被害は、殆どなかったタマスダレだが、今年は葉っぱを全部食べられてしまった。鉢植えのタマスダレだけが元気に成長し、次々に開き始めた。
この花を見ると、あぁ秋もそろそろだ…とホッとする。
夕立のあと、一陣の涼風が…。

残暑どころか猛暑日が続く毎日だけれど、小さな秋がそこまで来ているんだなぁ。

by アカショウビン