はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

白い靴下

2011-01-15 11:23:05 | はがき随筆
 私はカットしてしまった。LL教室が大好きな生徒。その日は羽目を外し過ぎ。教室で、毒づきながら黒板に目標を書き直し。すると男女2人が「すみません」。「私はあなたたちのことは、ちっとも怒ってません」。ピリピリしつつ書き続け。「私はここで授業をします。LLなら好き放題。勝手にしていいの?」まくしたてていた。
 気づくと全員が冷たい冬の廊下。私1人悪者。「よし、帰ろう!」小走りに駆けていく足元に白い靴下。LLは土足厳禁だから。その靴下たちの白さがやけに目にしみた。
  霧島市 福崎康代 2011/1/15 毎日新聞鹿児島版掲載

あなたは誰でしょう

2011-01-15 10:26:12 | アカショウビンのつぶやき


 種子島に住む友人、よっちゃんのブログからお借りした画像です。
よっちゃんはヒヨドリと思われたようですが…。
たしかに体のウロコ模様はイソヒヨドリの雌にそっくりです。
でも嘴の黄色や、翼と尾羽の短さを考えると、雛鳥?

いくら暖かい種子島といっても今ごろ雛鳥はいないでしょうねぇ。
詳しい方、教えてくださーい。

by 悩めるアカショウビン



名字の変わった賀状に

2011-01-14 22:05:17 | 女の気持ち/男の気持ち
 今年も多くの年賀状を頂いた。その中に確かに見覚えのある筆跡、下の名前も頭にこびりついている女性からの1枚があった。
 「昨年は色々ご迷惑、ご心配をおかけしました。新しい職場で働いており体調も良好・・・」と、近況が記されている。
 昨年までは、倅との連名で届いた年賀状。名字は我が家のものだった。今年は名字が変わっている。隣に倅の名前もない。
 6年間の結婚生活。共働きの利を活かして二人名義でマンションも買った。子どもこそ出来なかったが、順調でリッチな生活ぶりに親としては安心していた。それまで不穏な兆候もなく夫婦の間にすきま風が吹いていようとは思いもしなかった。我々には遠く及ばない、二人にしか分からぬ理由があったのだろう。昨年初め、お互い大人の感覚で円満な離婚に調印した。
 確かな家庭で育てられ、看護師として嘱望された彼女。その聡明さ、利発さは舅の私からみても好ましいものだっただけに、残念に思う。彼女の助けを求める声や、倅の気持ちの揺れをもっと早く感じ取ってやれなかったか。親としての不甲斐なさに悶々とした一年を過ごした。彼女から新しい住所を記した年賀状をもらって、やっと少し胸のつかえが取れた。
 次は、彼女からも、倅からも、新たな幸せが訪れたとの報告を受けたい。
 人生いつだってやり直しは出来るのだから。

山口県岩国市 吉岡賢一 2011/1/14 毎日新聞「男の気持ち」 掲載

そろばん

2011-01-14 21:53:49 | はがき随筆
 今夜も傷だらけのそろばんを手に家計簿を付けていると声なき声がささやきかけてくる。
 そう僕、そろばんです。医療事務の仕事が始まった昭和50年からの付き合い。仕事も悪戦苦闘しつつ17年、頑張りました。教育の悩みや家計のやりくりに僕を振り回したり涙でぬれたり、とばっちりもしばしば。家計簿の帳尻が合わないと「主人へ」と記帳し、物を買ったようにして貯金ツボに入れたりしたことも知ってるよ! 玉が外れたのはお孫さんが僕に乗って滑ったからだよ。痛かったよな-。
 歴史を走馬灯のように語りかけるそろばんがなぜか愛しい。
  薩摩川内市 田中由利子 2011/1/14 毎日新聞鹿児島版掲載

夢の途中

2011-01-14 21:49:37 | ペン&ぺん
 新成人のNさんへ。
元気で素直な20歳の男性を紹介してくれて、本当に助かりました。
彼は新成人のアンケートにも、しっかり答えてくれたよ。「政治に関心はありますが、政治家は足の引っ張り合いしている悪いイメージが強いです」。そんな率直な回答をしてくれた。
 でも、サッカー部員の彼と話が盛り上がったのは、やっぱりサッカーの話。サッカーのことになると、声の張り、目の輝きが違ってきて、この子は本当にサッカーが好きなんだって分かった。
 昨年11月の高校サッカー福岡県予選。同点でPK戦になり、しかも決着がつかず、22人がゴールに向かって、蹴り続けた。「あれ、すごいですよね」「うん、うん」。そんな話で、盛り上がった。
 20歳。僕の長男も新成人。地方の国立大の2年生。お祝いに、エリック・クラプトンのCDを贈った。Nさん、クラプトンは 知ってるかな? 有名なギタリストで、歌手でもある。一番有名な曲は「レイラ」かな。長男に贈ったCDは、ブルース・シンガーに歌わせてクラプトン自身はギターだけを弾いている。その演奏が、すんごく楽しそうに聞こえるんだ。クラプトンって、結局、ギターが好きなんだよ。
 紹介してもらったサッカー部の彼と、僕の長男には共通点がある。長男はギターを弾き、バンドをやっているのだが、「どこに就職できるか分からんけど、ずっとギターは弾いていく」と言う。サッカー部の彼も「アマチュアチームでもいい。社会人になってもサッカーを続けたい」という。
 Nさん、これって大切じゃない? おカネを稼ぐだけが、大人になることではない。自分の夢を、ずっと持ち続けることが、きっと大事だよね。Nさんの夢は「世界を旅して、いろんな人と友だちになる」だね。あきらめないで。強く願えば、夢はかなうよ。きっと。
 鹿児島支局長 馬原浩 2010/1/11 毎日新聞掲載

感謝!

2011-01-13 17:07:39 | はがき随筆
 雪景色は普段と違って風情があるが、車の運転は危ない。
 10年前、パートの帰りの国道3号線。みぞれ状態の轍にも雪は容赦なく降りかかる。金山峠の下りに入った。前の車が1台、また1台とスリップして、次は自分の番か、と生きた心地がしなかった。スリップした車が障害物となり前に進めない。私の後ろの車から出て来て、すぐにそれらを道の脇に動かしてくれた男の人たち。おかげ様で無事、家に帰れた。
 機敏な動作は、ありがたく今でも忘れない。弱いものを守るのはやはり男性か。世の中、男女不平等でいいこともある。
  いちき串木野市 奥吉志代子 2011/1/13 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆12月度入選

2011-01-13 16:30:45 | 受賞作品
 はがき随筆9月度入選作品が決まりました。

▽出水市上知識町、年神貞子さん(74)の「この1年」(30日)
▽同市高尾野町下水流、畠中大喜さん(74)の「ロウ梅の花」(22日)
▽霧島市霧島大窪、久野茂樹さん(61)の「じいじの涙」(10日)

──の3点です。

 この選評が掲載されるのは1月も中旬になりますが、遅ればせながら、皆様にとって、今年こそ明るい穏やかな年になりますように、新年のご挨拶を申し上げます。とはいいましても、どうも今年も見通しは暗いようです。こんな時は、首をすくめて、じっと嵐の通り過ぎるのを待つのも、一つの智恵かもしれません。
 12月のせいもあってか、ご自分の人生や過ぎし一年を回顧しての文章が目立ちました。
 年神さんの「この一年」は、庭に飛来した冬鳥を眺めながら、一年を振り返った文章です。いろいろのことが思い出されるなかでも、念頭の誓いはどこへやら、至る所に「怠け」が目に付いたという、身につまされる内容です。考えてみると、私達の一生も、毎年毎年同じことを反省して暮らしているようにも思われます。
 畠中大喜さんの「ロウ梅の花」は、陰暦12月(蠟月)に咲くからこの名があるのですが、ロウ梅の上品な香りで散りやすい花の描写がみごとです。可憐ではかない花をいとおしむ気持ちがよく表されています。
 久野茂樹さんの「じいじの涙」は、2歳のお孫さんが帰ってしまった後の寂しさが描かれています。今までそこに有ったものがすでに無い、という不在感からくる孤独の情念が、あけっぴろげに表現されていて、それがむしろ微笑ましさを感じさせています。
 入選作の他に3編を紹介します。
 鹿児島市武、鵜家育男さん(65)の「懐かしい路地」(7日)は、鹿児島市役所の裏側一体の名山町への懐旧の念が描かれています。かつてのこの街の賑わいの描写が巧みになされています。
 出水市上鯖淵、橋口礼子さん(76)の「鶴見吟行」(20日)は、最初に渡来してくる鶴が、怪我で保護している鶴の檻の上を旋回するという心温まる内容です。「燦々と小春の空や夫婦鶴」。同市大野原町、小村忍さん(67)の「車椅子」(22日)は、車椅子にまつわり心境です。同窓生の車椅子を押してあげてみて、母親の車椅子を押してあげなかったことが悔やまれるという内容です。本当に後悔先に立たずですね。
(鹿児島大学名誉教授・石田忠彦)

働く

2011-01-13 16:24:24 | はがき随筆
 「パートやアルバイトという形があるんですよ」
 去年、ある方からいただいたハガキに書かれた言葉。心に、グサッときたまま答えが出ない。夢は10代で消え、挫折してから、2年間アルバイトをした。その間、ストレスが原因で入院や手術をして職場の方々に白い目で見られ、再就職をしても体調を崩し、1日で辞める有様。
 また、イジメに遭わないかという恐怖感で、職場が見えるとお腹が痛む。誰にも分かってもらえない苦しみ。自分を責める。答えじゃないかもしれない。でも知ってほしい現実だ。
  いちき串木野市 森みゆき 2011/1/12 毎日新聞鹿児島版掲載

桜島噴く

2011-01-13 16:10:37 | はがき随筆
 9年前、霧島にUターンした時に、さほど気に留めなかったことが二つある。一つは台風。だが、実際にはケタ外れの雨と風の猛威に舌を巻いた。そして、今一つが桜島。黄土色の雲が渦巻く空。目の前を流れて行く噴煙の粒子が、はっきり見える。「なんだ、こりぁあ!」。妻と顔を見合わす。道路に降り積もった粉塵を対向車が煙のごとく巻き上げて走り去る。「こんなの初めてだ!」
 街はどんより薄暗く、ベスビオ火山によって埋没したローマの古代都市ポンペイのことが一瞬、頭をよぎったのだった。
  霧島市 久野茂樹 2011/1/11 毎日新聞鹿児島版掲載

天国の兎

2011-01-13 16:07:49 | はがき随筆
 我が家に兎を飼って7年。主人が癌で手術をした。癌を患うと気分が落ち込むので心と体を癒すための兎。日本兎とパンダ系兎。「みー子とゲンキ」と名付けた。白い毛のふんわりしたメスうさぎ、目が命のパンダ兎。キャベツやニンジンを与えると目が輝く。「みー子」と呼ぶと手をペロペロとなめる。「ゲンキ」と呼ぶと飛びつくように跳ねる。暑い8月、ゲンキは感染症にかかり息絶えた。寒い大晦日にみー子も息絶えた。潮をひいたような静寂感。神様の思し召しか。真夏と真冬の死は偶然か不思議か。天国の兎は夢中に跳びはねる。
  堀美代子 2011/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

万羽鶴

2011-01-13 16:00:06 | はがき随筆
 1万2192羽、12月初旬、出水市荒崎に飛来した鶴の数である。今年も万羽鶴になった。14季連続という。喜ばしい。
 九州の十数カ所に分散していたのを熱心に餌付けなどした結果、今の状態になった。それらが「鶴の一声」ならぬ「鶴の万羽声」をあげたら、すごい。その道に明るい者は「音の百選」に、ふさわしいと言うだろう。人間の背よりも高い鶴が群れをなし飛ぶ姿は勇壮である。いつまでも眺めていたい。
 願わくば鳥インフルエンザなど関係なく、縁起のよい鶴が千年も万年も渡って来てくれますように祈ってやまない。
  出水市 田頭行堂 2011/1/10 毎日新聞鹿児島版掲載

初日礼拝

2011-01-08 11:56:07 | はがき随筆
 元日の朝、障子が明るくなって目覚めた。雲の切れ間からの初日の出を礼拝する。
 胃がん全摘以来6年目になるが、さしたる異常はなく元気で過ごして来た。本年も夫婦共々こよなく生きて行けるようにと念仏する。
 妻の初朝餉の支度ができた。屠蘇酒とお雑煮をいただいて、この町の平和の喜びを感じます。
 年末のすごい雪降り、今日は晴天で日が輝いて近ごろにない眩いばかりの銀世界である。 私は、山紫水明のこの里に暮らして57年だ。お世話になり続けている。寸志でも、お返し出来たらと、元日に思うのである。
  伊佐市 宮園続 2011/1/8 毎日新聞鹿児島版掲載

命のはかなさ

2011-01-07 21:15:06 | はがき随筆
 年を取るごとに、喪中の知らせのはがきの数が増えてくる。
 私も義母を3月に失った。88歳の誕生日の電話の声はすごく元気だった。それが、2週間後には病院のベッドだ。闘病生活2ヵ月で他界。息が途絶え「ご臨終です」で亡骸だけが残る。なんとまあ、あっけないことか。病魔との壮絶な戦いの痕跡は瞬時に消滅する。遺族さえ葬儀の手配で悲しむ暇などはない。日がたつにつれ、笑いながら個人を語る。
 己の死もかくやあらんと「命の重さ」とやらを測りかねている。と言いつつ生きようとする本能のまま今日も医者通いだ。
  肝付町 吉井三男 2011/1/7 毎日新聞鹿児島版掲載

長い一日

2011-01-06 15:03:58 | 女の気持ち/男の気持ち
 年末、交通事故で折った足の骨を固定していた金具の抜針手術をした。
 車いすで手術室に入ると医師や看護師が何やら忙しく動き回っていた。2人がかりで「よっこらしょ」と小さな手術台に乗せられた私に、担当医が一つ一つ優しく声をかけてくれる。
 「海老のように丸くなって」
 「ハイ、消毒しますよ」
 「次は麻酔をしますよ、ちょっとチクッとしますから我慢してね」
 まるでだだをこねる子どもをあやしているようだ。
 下半身が少しずつ温かくなってきた。麻酔が効いてきたようだ。足を動かそうとするが、まったく動かない。しばらくして「さあ始めようか」との担当医の言葉に、「はい」と看護師の声が聞こえた。「いよいよか」と深いため息をついた。
 痛くもかゆくもない足元で数人の医師が手術を始めたようだ。寝ている手術台がかすかに振動する。
 「ドライバー取って」と担当医の声が聞こえた。
 「それは違う。うんそれそれ」と看護師に指示している様子がよく分かる。
 手術台の揺れがさっきよりも大きくなった。骨に固定していたねじを抜いているんだと思いながら、体は緊張していた。
 「金づち取って」と、また担当医の声が聞こえた。
 「ウッソー」と思った瞬間、カン、カン、カンと音が手術室に鳴り響いた。私は完全に体が固まった。
 長い長い一日だった。
  長崎市 小浜武蔵 2011/1/6 毎日新聞の気持ち欄掲載

大雪の朝

2011-01-06 15:02:16 | はがき随筆
 大晦日の早朝、外に白い気配がする寝室の窓を開けた。高台にある自宅前の道路はパウダースノーの絨毯のようだ。隣の駐車場は雪のプール状態だった。
 毎朝の習慣で玄関を開けポストに手を入れたが、感触がない。「そうだよな、この積もり具合では無理か」。今日は新聞が午前中に読めないと観念した。
 手持ちぶさたに週刊誌で時間をつぶし、めったにない雪景色をカメラに収めようと外に出た。玄関から道路に向かう雪に、真新しい靴跡があった。ポストを覗くとビニール袋に包まれた新聞が。このドカ雪の中を。
  鹿児島市 高橋誠 2011/1/6 毎日新聞鹿児島版掲載