はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「いとしき日々」

2011-02-20 16:51:18 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   横山 恵子

鬼、いや、節分の時期になると思い出す。次男が2年生ぐらいだったか。ひどくしかったら私の頭を指し「あっ、お母さんの頭から角が……」と大声で叫んだ。思わず頭に手をやったら続けて「生えてくるかと思った」ときた。

私は怒ることも忘れて大笑い。きっと鬼の形相をしてたのだろう。0、1、2歳のだんご3兄弟を髪振り乱して束にして育てた。ダイエットしなくても体重40㌔。寝顔を見て、日々反省。今で言うイクメンの夫に助けられた。今はあのころが懐かしい。過ぎ去って感じる幸せもあるんだなあ。
  (2011.02.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載



「デジタル放送に利点」

2011-02-20 16:48:18 | 岩国エッセイサロンより
岩国市
  会 員   山本 一

私は軽度の難聴である。日常会話は、ほとんど支障がない。困るのはテレビを見る時である。ニュースやコマーシャルは比較的明瞭な声で何とか聞き取れるが、テレビ・ドラマの会話はなかなか聞き取れない。そんな悩みをデジタル放送が解決してくれた。

ある時、テレビのリモコンを見ていて「字幕」というボタンを何気なく押した。何とドラマの会話が、そのまま口の動きに合わせ、文字になって画面へ示されるではないか。

これまでは「テレビの音が大きいわよ」と、妻に言われていた。今は、より小さい音量でも十分である。デジタル放送は、高価な機器への買い替えが必要なことを除けば、いいことばかりである。

画面は鮮明だし、字幕は出るし、番組表や天気予報などデータ放送を見ることのできる優れものだ。目下、20インチの比較的安価なもので、寝室と食事室の2箇所をデジタル化している。残る3箇所にあるアナログテレビの更新までは手が廻らない。

難聴の方にはデジタル・テレビがぜひお勧めである。

(2011.02.16 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

ママの理髪店

2011-02-14 21:56:58 | はがき随筆
 小3のころまで娘の散髪は私がした。ナイロン製の風呂敷を身にまとい、イスに腰掛け、型は「おかっぱさんよ」。ハサミでチョキン、チョキン切ると「痛い」と娘が声を発した。耳に少し切り傷が……。「痛かったね」。血がにじんでいた。娘は「耳は付いている?」と心配したが「耳はしっかり付いているよ」
 私は「ごめんね」と謝った。髪はおおよそ真っすぐに切れた。娘は鏡を見てほほえんだ。
 髪も清楚になり、学童らしい装いで登校した。ママの散髪を先生は褒めてくれた。ほのぼのとした心の小さな達成感……。
  姶良市 堀美代子 2011/2/13 毎日新聞鹿児島版掲載

寒さを楽しむ

2011-02-14 21:50:19 | はがき随筆
 この冬一番とか、観測を初めて以来という言葉が頻繁に飛び出すこの冬。陋屋で暮らす僕たち2人、かろうじて寒さを凌いでいる。しかし、寒いと言っても南国の寒さ。雪国のそれを思えば「ごめんなさい」と頭を下げるしかない。
 夜明け前、星空を見上げ、愛犬「遼太郎」に引かれ2人で歩けば、火照るような温もりを感じる。渋茶を口に背を丸めていては寒さを楽しむことはできない。庭に出れば早咲きの水仙は開花したし、梅の蕾も花弁の色が分かるまで膨らんだ。河津桜の花芽を確かめる時、枯れ葉舞う庭もいいものだ。
  志布志市 若宮庸成 2011/212 毎日新聞鹿児島版掲載

躍動

2011-02-14 21:43:37 | はがき随筆
 ひ孫のような孫を預かることになった。できるかなと思いながら、半分以上、娘のお世話をあてにしている。雪の日、いよいよやって来た。私は体調不良で困っていたが、娘親子が先に来てくれて助かった。
 車から降りて娘にだっこして半ベソをかいていたが、歳の離れた従弟のおかげで、たちまち笑顔になった。そして終日、ピアノを弾く娘の膝に乗り、お手玉投げ、ボール投げ、かくれんぼと大騒ぎ、その揚げ句お昼寝。まあ寝る前の泣き方のすごいこと。娘が抱いて寝かせたくれたので「新しいママは上手ね」と孫へ賛辞を送る。
  鹿児島市 東郷久子 2011/2/11 毎日新聞鹿児島版掲載

娘からのメールに

2011-02-10 15:34:03 | 女の気持ち/男の気持ち
 「園のおばあちゃんが亡くなって今夜はお葬式だよ」
 「そう。大変なお仕事だね」「亡くなるのは寂しいし悲しいし大変なことが多いけど、お世話してると皆かわいいよ。手がかかる人ほどかわいいよ。人生の最後を看取る事ができて家族の人に感謝されて、やって良かったと思えるよ」
 特別養護老人ホームで介護福祉士をしている娘とのメールのやりとりです。
 職員の皆さんはきっと娘と同じ気持ちでお年寄りに接してくださっていて、家族の方々にもその気持ちが通じていることでしょう。
 娘は脳梗塞で寝たきりだったおじいちゃんと小さい時から一緒に生活していました。
 「小さい時にはおじいちゃんに何もしてあげられなかったけど、おばあちゃんや、先々お父さんたちの介護もちゃんとしてあげられるようになったから安心してね」と言ってくれます。
 職場ではそんな気持ちを持った沢山の介護職員の皆さんが働いてくれているに違いありません。利用者の皆さんや家族の方の思い通りにできないことは多々あると思います。高齢化社会のなかでさまざまな問題が起きています。私もいずれは施設の御世話になって介護を受けたり、その家族の立場になったりするでしょう。その時には職員の皆さんに感謝の気持ちを持って接していきたい。そう思わせてくれた娘のメールでした。
  垂水市 宮下康 2011/2/10 毎日新聞の気持ち欄掲載

旅の抄その3

2011-02-10 15:29:32 | はがき随筆
 「野菜、果物は自給。リンゴだけは輸入。失業者が多く、公務員の給料は安く、学校に行けない子どもが多い。貧しい人々の住まう所……」と、エジプトの現状を包み隠さず話し、見せてくれた。
 日本の現状も、きちんと把握していた。
 ガイドを通して、接する人々との親善を目指している気配が感じられた。
 バスからムバラク大統領の写真が見えた。「彼は世襲制をもくろんでいるのではないかと私は心配しているんだ」と言った彼の言葉を思い出している。
  鹿屋市 伊地知咲子 2011/2/10 毎日新聞鹿児島版掲載

そうだ、指輪と!

2011-02-09 19:04:39 | はがき随筆
 夫が旅立ち7ヵ月が過ぎた。この寂しさは、どうしようもない。人生の折り返し点も過ぎ、いずれ、どちらかが1人になるのだと漠然と思ってはいたが、こんなに早く現実になるとは想定外だった。夫の写真をバッグに忍ばせ、持ち歩いていた。
 ある日、鏡台の引き出しの奥の結婚指輪が目に留まった。38年経たプラチナは鈍い光を放っていた。左手の薬指にはめようとするが、寄る年波の弛みに難渋。何とか納まった。
 夫の勤務は多忙で、私と出かけることはめったになかった。これからは、このきつめの指輪と一緒に歩いていこう。
  伊佐市 山室浩子 2011/2/9 毎日新聞鹿児島版掲載

クヌギ割り

2011-02-08 16:44:14 | はがき随筆
 裏の畑に父が植えたクヌギがある。大きくなったので昨年末に7本切り倒した。シイタケ栽培を楽しむためだ。枝も、たくさん出た。この枝を約40㌢に切りそろえ、太い枝は割って小屋の北側に積んでおく。この割る作業が難しく、オノが真ん中に当たるとポーンと割れるが、ちょっとでもはずれると何度もオノを振ることになる。今度こそと狙いながら割る。すると体はポカポカ温まってくる。切る、割る、積む。この一連の作業は寒い冬を暖かくしてくれるし、風呂の燃料としても最高だ。今夜も父は重い足を引いて風呂を楽しんで寝た。
  出水市 畠中大喜 2011/2/8 毎日新聞鹿児島版掲載

2人旅

2011-02-08 16:37:57 | はがき随筆
 ロンドンとスペインのバルセロナを娘と2人で旅した。ロンドンでは、運良くバッキンガム宮殿の交代式も見ることが出来た。古代美術のコレクションで世界屈指の大英博物館は圧巻。
 バルセロナではガウディ建築を堪能した。浄財のみで建築されているサグラダ・ファミリア。曲線美に魅せられたカサ・ミラやグエル公園。
 思えば、娘が高3の夏。高校と大学は、日本と米国の両方の教育を受けたいと1人で机上の人となる娘を夫と見送った。
 毎回充実した2人旅が出来るのも、娘の留学経験の賜物と思う旅でもあった。
  垂水市 竹之内政子 2011/2/7 毎日新聞鹿児島版掲載

あっ、まさか!

2011-02-08 16:31:56 | はがき随筆
 夕食後、決めた所に置いたはずの前3本の義歯がない。
 妻に「また始まった」と軽口をたたかれ、意地になり探す。
 鏡に映る義歯なしの顔は、我ながら薄気味悪く早く見つけたいとくまなく探すが、ない。
 焦る私の気持ちをよそに、還暦を過ぎた愛犬のミニダックスフント、クロはコタツからちょんと首を出してスヤスヤと寝入っている。
 近く、竹馬の友5人が集う。「若いぞ」と歯の抜けた姿などは彼らに絶対に見せられない。
 翌朝「こたつの中で、ガリガリ音が!」と妻がびっくり声で2度叫んだ……。
  鹿児島市 鵜家育男 2011/2/6 毎日新聞鹿児島版掲載

自分へのケア

2011-02-08 16:26:15 | はがき随筆
 もう決して若くない自分を、ケアすることを毎日の暮らしの中で心がけてみたい。
加齢による体力的な衰えと、外見の変化は心にまで影響を及ぼす。年を取ったという自覚のないままに、無理を重ねると、心も体もバランスを崩してしまう。生活の質を改善し、食事に気をつけ、体を動かし歩くようにする。睡眠を十分にとり、規則正しい生活をする。自分へのケアが行き届いている人は、生き生きして見える。日々の暮らしの小さな事柄や自然を愛おしく思い感動する。残り少ない人生を、もっと豊かで味わい深く精いっぱい生きてゆきたい。
  出水市 橋口礼子 2011/2/5 毎日新聞鹿児島版掲載

記念同窓会

2011-02-08 16:19:08 | はがき随筆
 教え子たちは、平成22年正月から企画を始めた。思い出の残る、しかも満50歳記念同窓会にと心をはせてきた。
 校章、校名入りのハンカチやDVDも作り、1人でも多くの同窓の出席を切に願っていた。私にも20分ほどの話が組み込まれていた。A4判2㌻に満50歳のころの生き方や現在の姿を詰め込んだ。心に食い込むことを表そうと必死であった。「先生の生き方をマネして生きていきます」と話してくれた教え子。互いに人間として睦まじく語り合った。還暦祝いの再会を誓い合った。教え子よ、ほんとうに嬉しかったよ。
  出水市 岩田昭治 2011/2/4 毎日新聞鹿児島版掲載

「思わぬ幕切れ」

2011-02-05 00:09:26 | 岩国エッセイサロンより
2011年2月 4日 (金)

  岩国市  会 員   山本 一 


「うまい!」。一口食べて思わず声が出た。初めてつくね芋を口にした時のことだ。通常の山芋(長芋)に比べて粘りと味の深みがまるで違う。外見もソフトボール大で丸くいびつな形である。

昨年春、やっと種芋が手に入り、庭の一角、1坪くらいの場所に植えた。7月ごろ、幅、高さ共に約2メートルの見事な垣になった。暖かい時期は庭で度々妻と食事をする。この垣は格好の目隠しになってくれた。

12月初旬に掘る。直径15cm前後のずんぐりむっくりした大物が11個収穫出来た。小芋は来年の種芋用とする。早速1個をすりおろして試食。「おいしいわよ!」と、今度は妻の声が出る。お隣に1個、娘二人に2個ずつ配り、残り5個を保存した。

明けて1月20日過ぎ、保存用に包んでいた新聞紙を手に持つといやに軽い。「もしや?」と思い、開けてびっくり仰天。芋が全部ぐにゃぐにゃになり、白いカビが生えていた。結局私の口に入ったのは、最初に試食したわずか1個だけだった。

植付けから収穫まで全て完璧だったのに、思わぬ幕切れである。最後の詰めの甘さを痛感した。今年の再挑戦が楽しみだ。

(2011.02.4 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「こんにゃくを手作り」

2011-02-03 22:06:52 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   横山 恵子

 田舎に住む叔母夫婦が、毎年コンニャクイモを届けてくれる。母はその芋で刺し身こんにゃくを作り、知人に珍しがられ、喜ばれている。

 私も挑戦してみようとインターネットで調べてみた。色々な作り方はあるが、手下ろしで作るとひと味違うと書かれていた。水の中で芋を下ろし金ですり、火にかけ15分くらい弱火で練り込む。書いてある通りに作ったつもりだが、混ぜ方が足りなかったのか、いま一つの出来だった。

 母は「初めてにしては上出来よ。最初から上手には出来んよ」と慰めてくれた。何度か作ってみて、何とか納得のいく物が出来た。

 父によると、祖父はコンニャクイモを薄く切って竹ざおに干し、水車で粉にしていたという。母は「おじいちゃんは、孫がこんにゃくを作ったと聞いたら喜ぶじゃろうね」と言う。

 こんにゃく作りから、亡くなった祖父母の話で盛り上がった。2人の優しい眼差し。時を超えて、その思い出とぬくもりは私の心に生き続けている。

  (2011.02.03 朝日新聞「声」掲載)岩国エッセイサロンより転載