柔らかい優しい風が顔面から足元へと流れていく。この快い風に、川の字に寝ている幼い姉妹は眠りに就いた。
この優しい風にふと気付いてうっすら目を開けると、浴衣姿の母がうちわ片手に座っていた。その風は今も脳裏に残っている。当時は扇風機も冷房も普及しておらず、うちわや扇子で涼をとっていた。母親たちは実に細やかで子思いだ。
今、冷房などで瞬時に暑さがしのげる。私は南北に開け放した座敷で、うちわであおいでみた。優しいゆったりした涼風が頬をなで、気持ちまで和ませる。母にあおいでやりたかった。
出水市 年神貞子 2013/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載