はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

「花香る秋」

2013-10-21 19:54:30 | 岩国エッセイサロンより


2013年10月21日 (月)

岩国市  会 員   山下治子

 新聞を取りにドアを開けると、朝の透けた風と共に、思いっきり甘い香りが飛び込んできた。玄関脇のキンモクセイが満開だ。三十数年前、産院の窓からふわっと漂ってきたのが、この香りだった。「ようこそ、すてきな季節に生まれてくれて」と授乳しながら、母になれた至福の思いに浸ったあの日を懐かしむ。  

その子は元気でさわやかに育ったが、10年前の事故で人生が変わり、思いに任せぬ障害を道連れにしながら、社会の波に戻ろうとゆっくり頑張っている。今朝も弁当をかついで出かけた。キンモクセイの香りが後を追う。

(2013.10.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

記念樹

2013-10-21 19:45:37 | はがき随筆
 腕を組み一つ葉の大木を仰ぎ見る夫の姿をよく見かける。
 祖父は定年を迎えると木に凝り、タブやケヤキを手に入れ独身の夫と家を建てたという。
 嫁いだ時、人目を引くくほどの一つ葉は池に影を映し錦鯉は一層鮮やかに泳いだ。和む庭に満足そうだった祖父。孫に喜び、命名しながらも病には勝てず、私の誕生日に亡くなった。
 今年の夏、我が家のシンボルの木が見事に枯れてしまった。さてはうわさのチョウの仕業なのか? 見守り続けてくれた記念樹なのに……。もうすぐ祖父の五十回忌。たたずむ夫の思いが伝わってくる。
  薩摩川内市 田中由利子 2013/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載

新聞週間に思う

2013-10-21 19:39:06 | はがき随筆
 15日から始まった新聞週間。「つながり大事に読者と触れ合う」の見出しで特集された。
 私は指導者に恵まれない野球少年チームがあれば、出かけていってコーチをしてあげたい。例え3人、5人であっても指導したい。その願いを実行。
 地域の野球少年との触れ合いが写真、新聞記事に掲載され、少年も指導者も元気をもらった頃が懐かしく思い出される。
 現在、投稿しているはがき随筆は、その人にしか書けない貴重な体験など輝く魅力がコンパクトにつまり、新聞と投稿者、読者の懸け橋となり感動、元気をもらう玉手箱になっている。
  鹿児島市 鵜家育男 2013/10/20 毎日新聞鹿児島版掲載

防災無線

2013-10-19 17:19:30 | アカショウビンのつぶやき





今年は台風の当たり年でしょうか。
次々に日本列島を襲う強い台風。
伊豆大島の惨状は目を覆うばかりです。
以前は台風常襲地帯で、
諦めムードだった、鹿児島県。
最近はコースから外れ、大きな被害を受けていませんが
地球温暖化で凶暴になった気象災害は
いつどこで発生するかわかりません。

鹿屋市は、各戸に防災無線をとりつけることになりました。

「自分の事は自分で守る・常に新しい情報をキャッチする」

でも、無線機の取り付け期限が迫っても、市民の関心が低く
申し込みの少ない町内もあるとのこと…。

但し伊豆大島のように、
その情報が発せられないのではどうしようもありませんが。

大隅ペンクラブ勉強会です

2013-10-19 17:02:36 | アカショウビンのつぶやき

毎日新聞の投稿者で作る同好会「毎日ペンクラブ鹿児島」。
大隅地区の勉強会がありました。
毎回、作品を持ち寄り合評会形式の勉強会をしていました。
今回は、気楽に集まれる、交流会にしました。
春に着任され鹿屋を第二の故郷とおっしゃる、
三嶋祐一郎支局長を、講師に迎え、和やかな会になりました。


なぜ新聞記者を目指したのか、など、ご自分の人生を語ってくださり
あっという間に楽しい時間が過ぎてしまいました。










志布志の専念寺住職のI.法明氏。タブレット端末で
ブログを書いています。ことだま日記どうぞごらんください。


御世話役のI.咲子さん。今回も大変お世話になりました。
度々の声かけなと有難うございました。
おかげで今回は8人が参加してくださいました。

母の後ろ姿

2013-10-19 12:19:22 | はがき随筆
 実りの秋、刈り取った稲は架け干しにかけ、天日乾燥していた。それが終わると稲を家まで背負って運び脱穀していた。
 学校からモドイモドイ稲運びの手伝いをよくした。小さな背中に稲をうずたかく積み上げて運ぶ母の後ろ姿を見ながら、僕も稲を運んだ。途中疲れたので何度も「イットッ ヨクイガ」と言うと、母ちゃんが「ヨクテ バッカイデ イッチョン シゴチナラン」と気合を入れていた。僕の記憶の中には「よく働いていた母の姿」しかない。当時は米の収穫が少なくカライモご飯が主食だったが、よくあんなに元気があったものである。
  さつま町 小向井一成 2013/10/19 毎日新聞鹿児島版掲載

朝のあいさつ

2013-10-19 12:12:59 | はがき随筆
 琥珀色した木の葉が秋風に揺れて舞い落ちる。歩道の落ち葉掃きをする。
 自転車の女学生が通る。目と目が合ったので「おはようございます」とあいさつする。女学生も「おはようございます」と笑顔であいさつ。次に、知らないおじさんにもあいさつすると、返してくれた。
 朝な夕なに散歩する隣家の犬のタローは毛並みに光沢がある。鼻をクンクンしているタローと目を合わす。「目が笑ってるよ!」。タローのあいさつだろう。落ち葉掃きを続け片付けると、整然として心地よい。爽快な朝に至福のひとときを!
  姶良市 堀美代子 2013/10/18 毎日新聞鹿児島版掲載

郷愁

2013-10-19 12:06:46 | はがき随筆
 「今日は来ないからね」と週末に訪れる孫から断りの電話がくる。用意した鍋いっぱいのカレーをはて、どうしたものか。
 大鍋を温めながら、子供の頃を思い出す。当時ごちそうだったカレーにおおはしゃぎ。兄妹3人で鍋の底が見えるまでお代わりをした。父母も若く、にぎやかだった。家族のありがたさをおもう。久しぶりの帰省を何より喜んだ父の笑顔、帰り際の寂しそうな背中が浮かぶ。そして今、一人でいる母を思う。立ち込めるカレーの匂いも今夜は懐かしく、優しく心にしみる。
 かすかな虫の音に心吸い寄せられ、秋の夜長を郷愁に浸る。
  出水市 伊尻清子 2013/10/17 毎日新聞鹿児島版掲載

「元気の出た朝」

2013-10-18 13:53:04 | 岩国エッセイサロンより
2013年10月18日 (金)

岩国市  会 員   森重 和枝

 今日は、朝市の月1回の当番の日たった。メンバーは6人。長く続けている朝市で、お客さんも多く、開始30分は大忙しでおしゃべりする暇もない。
 一段落すると、持ち寄りのおやつをつまみながらお茶タイム。今朝は失敗談になる。1人が「軽トラを出そうとした時、窓をたたかれて、やっと自分のじゃないと気がついたのいね」。次の人は「お疲れさん、と助手席に乗ったら、主人じゃなかったのいね」と大笑い。忘れ物や勘違いの種は尽きず、みんなでワッハッハ! ワッハッハ! 元気で明るい仲間のおかけで、大いに活力をもらった。

(2013.10.18 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「がん早期発見まずは受診を」

2013-10-18 13:50:46 | 岩国エッセイサロンより
岩国市  会 員   山下 治子

坂東三津五郎さんが「膵臓がんに勝った」という笑顔の記事は、6年前の自分と重なる部分があってうれしくなった。 

それは、退職して間もない秋の夕暮れ時だった。「健診受けよるかね」と食生活改善推進員の方から受診を勧められた。元気印を自負し、健診など何年もご無沙汰だったことに気付かされ、その年最後の健診日ぎりぎりに間に合った。再検査の通知が来た。がんが見つかった。自覚症状など全くなかったが「知らないままだったら、あと1年くらいだったかも」と術後に担当医から聞かされた。

三津五郎さんは勘三郎さんを思い、いつもより早く受診されたことで、極めて難しい部位の腫瘍が発見できたとか。どんな特効薬や神の手よりまず早期発見。私の場合は「受けよるかね」の声掛けが、がんへの意識を目覚めさせてくれた。命の分かれ目とは、そんなふとしたことに気付くことかもしれない。その後、私も推進員になり、健診促進の活動を行っている。
 (2013.10.18 毎日新聞「みんなの声」掲載)岩国エッセイサロンより転載

旅するチョウを撮影

2013-10-18 13:43:47 | 岩国エッセイサロンより


2013年10月18日 (金)

   岩国市   会 員  片山 清勝

 アサギマダラというチョウは、遠く南西諸島や台湾近くまで移動すると聞く。そんなチョウを見ることはないだろうと思っていたが、近くにいると聞いた。
 その場所は錦帯橋近くの吉香公園。秋の七草の一つであるフジバカマの周りを、何種類かのチョウが飛んでいる。カメラを構えた人に「あの大形の数匹がアサギマダラ」と教えられた。
 羽は青灰色で半透明、前羽の外縁に沿う部分は黒く、後羽の外周部は鮮やかな濃褐色。羽を開けば、10センチほどもありそうだ。
 フジバカマの蜜を吸う。一回に吸う時間は長い。カメラを近づけてものぞき込んでも、人を恐れる様子もなく吸い続ける。
 ほかのチヨウのように羽ばたかず、ふわふわと心地よさそうに飛ぶ。上品な舞のようだ。俊敏さはないのに、あれで何千キロも移動するのかと驚く。
 間もなく南へ旅立つそうで、その前の蜜吸いという。写真をしっかり撮らせてもらった。次の出会いまでに彼らのことを学習しておこう。 
    (2013.10.18 中国新聞「広場」掲載)岩国エッセイサロンより転載

「味覚の秋  山の恵み活用思う」

2013-10-18 13:40:40 | 岩国エッセイサロンより
2013年10月17日 (木)

    岩国市  会員  吉岡 賢一 

 秋の味覚といえば、まずはマッタケ。次いでクリにカキ・・・・・・。
 忘れてはならないのが、かめばかむほどに味わい深いとれたての新米のホクホク銀飯。
 ただ、それらは店で購入するものばかりだ。
 かつてはマッタケもクリも、妻の実家からふんだんに届いていたものである。
 特にクリは、剪定や下刈りなど十分手入れをして、クリ拾いに里帰りする私たちを義父母が待ってくれていた。やがて義父母が逝き、義兄夫婦は年老いる。山の手入れをする人手がなくなり、今では大やぶに戻ってしまった。
 働き手が減っていく山間の集落は、山の恵みを自ら放棄せざるを得なくなり、過疎化の要因ともなっている。
 国土の70%近くが森林の日本。眠れる森林資源を有効活用し、食料自給率のアップと、経済活性化につなげられないものか。
 山津波などの自然災害防止にも大きく貢献すると思うのだが。 

         2013.10.17 朝日新聞「声」 掲載 岩国エッセイサロンより転載

しょろトンボ

2013-10-16 16:12:04 | はがき随筆


 ウスバキトンボは夏にはどこでも見られるトンボで、他のトンボは減っているのに、今も変わらず大空を多く飛び交っている。8月の盆の頃は特に多く、私どもは「しょろ(精霊)トンボ」と呼んでいた。
 子どもの頃、親から「ご先祖様がしょろトンボに乗ってあの世から帰って来るから捕っては駄目」と聞かされていた。今でもしょろトンボは越冬はせず、毎年、南方から海を渡って飛来することを最近知った。ウスバキトンボは今日も、澄みきった秋空を悠然と飛んでいる。
  志布志市 一木法明 2013/10/16 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はことだま日記より



こちらはフォトライブラリより

故郷忘じがたく候

2013-10-14 19:35:53 | ペン&ぺん


 「故郷忘じがたく候」はもちろん、「坂の上の雲」「竜馬がゆく」などで知られる作家、司馬遼太郎さん(1923~96)が、薩摩焼宗家十四代沈寿官さん(86)の生い立ちなどを描いた作品だ。68年に文芸春秋から発行され、今も文庫本で読まれている。
 400年前、朝鮮から連れてこられた初代沈家や今に至る一族の作品へのこだわり、日本人について、歴史観などを、わずかな時間で聞けるはずはないと分かってはいても、一度お会いしたいと思っていた。念願かなって、先日うかがった。
 十四代沈寿官さんが待つ日置市へ向かうと、ここは東郷茂徳・元外相(1882~1950)の出身地で、朝鮮の陶工の子孫であることを知った。
 お会いすると、日韓関係など時間の許す限り話してもらった。私の父と同じ1926(大正15)年生まれ。少年時代や戦前戦後の激流を生きてこられた。時代に翻弄され、境遇は筆舌に尽くしがたいものであったろう。
 早大を卒業し、郷里で薩摩焼を継ぐ旨の話を東京の知り合いに告げると「やっばり、鹿児島ですね。サツマイモを焼いて暮らしていくんですか」と、就職先を心配してくれたという。「当時、それくらい薩摩焼は知られていなかったのです」
 司馬さんの文章にもあるように、十四代沈寿官さんは多くをユーモアを交えて薩摩弁で話した。でも一つだけ険しい表情で「この道で生きていこうと決めた時、友人、知人に頼らないよう大学の卒業名簿や住所録を全て焼きました」と打ち明けた。まさに鹿児島で生きる決意、覚悟の強い表れだった。沈家の歴史と十四代沈寿官さんの半生はすなわなち、日本史だ。己の生き方や作品には厳しい目を持ちつつ、訪ねてくる他者へのまなざしは柔和だ。朝鮮、日本、薩摩でできたDNAは何て熱くて優しいのだろう。
  鹿児島支局長 三嶋祐一郎 2013/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載

平和のバラ

2013-10-14 18:41:07 | はがき随筆




 前に読んだ名作「アンネの日記」に強い感動が残っている。アンネゆかりのバラがある、かのやバラ園へと出かけた。広いバラ園が眼下に広がる。学名スヴェニール・ドゥ・アンネ、通称「アンネのバラ」が鮮やかにかれんに咲いて哀惜の思いが。
 白いボードにバラの由来、歴史が詳しく説明されている。わずか13歳の少女が「今度生まれる時には世界平和に役立つ人に」と書き残し、強制収容所で消えた。遠いオランダの空から「私は死んでなんかいません。千の風になり、この風光明美なバラ園で生きています」との声が心の中に聞こえる思いがした。
  鹿屋市 小幡晋一郎 2013/10/14 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はアンネのバラの教会写真集より