はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

花束との出会い

2018-08-23 15:10:36 | はがき随筆


 縁あって、花束を届ける仕事をしています。苦しみ、悲しみ、つらさを笑顔に変えてくれる。
 花束にはそんな不思議な力があると感じています。受け取ってくださる方は誰しも両手いっぱいに大事そうに腕の中に収めてくれます。その後一言二言会話を交わすのですが、さまざまな体験を経て今日まである方のお話はどれも貴重でありがたい限りです。たった一つの花束が大きな花の輪を紡いでいき、私はいつも皆様に育てられているのです。
 今日もそんなすてきな出会いを求めて花束を届けるのです。
 熊本県 宇城市 野澤美和(53) 2018/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

人目も引かず

2018-08-23 15:00:15 | はがき随筆
 認知症の母の受診に付き添った日のこと。最初の病院は朝6時半の予約だったので、母をせかしながら、自分もバタバタと準備をして出かけました。
 次の病院に行く途中、スーパーで買い物もしました。そして次の病院での診察も終わり、ほっとして私はトイレにたったのです。用を済ませ手を洗おうとしたとき、驚愕! 朝、前髪に巻いたカーラーがそのまま……。二つの病院とスーパーで、私はたくさんの人と会って話をしたが、誰も教えてくれなかった……。
 私は人目も引かず、介護の日々に明け暮れています。
  鹿児島県出水市 清水昌子(65) 2018/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

真夏の一夜

2018-08-23 14:54:08 | はがき随筆
 その夜、夢の中の私は50代で昭和の時代の見知らぬ景色の中にいた。大きな川のそばに広がる商店街の一角に住まいがある。午前中私は散歩に出た。2本の大通りを横切り、大型店舗を横目に見て、周辺を一巡して帰ろうとするも、どうしても帰りつけない。私は専業主婦だが、夢の中ではなぜか勤めを持っていた。「遅刻する。社長に怒られる」と狼狽えまくっている。
 暑さで幾度も目が覚めトイレに起きたりパジャマの上着を脱いだり……。しかし夢は続き、結局途方に暮れたままで終わった。朝眼を見開くと逆さまに寝ていた。ああしんど。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(70) 2018/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

にくじ

2018-08-23 14:47:24 | はがき随筆
 父が転勤族だったこともあり、生粋の方言をうまく使いこなせない。それなのに、娘との会話の中で、唐突に「にくじじゃないの」と発していた。
 「なあに? 何て言ったの」。娘に聞き返されて自分でもびっくりしてしまった。「聞いたことない?」「うん、初めて聞いた」「じゃあ、山口の言葉かしらねえ」。早速PCで検索してみる。「故意に」。山口地方の方言、熊本地方の方言、と併記してある。熊本で生まれ、山口で青春時代を過ごした私にとって、同じようなニュアンスの言葉が使われていたことに、何とはなしに愉快になった。
 熊本県菊陽町 有村貴代子(71) 2018/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

ぐうたら度

2018-08-23 14:22:37 | はがき随筆
 髄膜腫を患って30年以上。癒着がひどくて温存手術だったので残った腫瘍が視神経を圧迫し、視力障害に苦しんでいる。再発の不安に脅えながらも生き続けて、超ぐうたらババアになった。
 足の踏み場もないほど部屋が散らかっているのに、気にならない。外回り担当の夫も草ぼうぼう、車庫はゴミ置き場のようになっているのに「汚れていても死にはせん」。調子に乗って私はますます手抜きする。
 西日本水害で浸水した家を必死になって掃除する人々の大変さに触れ、ぐうたら度を下げようと心から思った。
 鹿児島市 馬渡浩子(70) 2018/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

18万円

2018-08-23 14:07:41 | はがき随筆


 ずらりといろんなタイプのコーヒーカップが店内に飾ってある。その数二千客余りという。その中から好みを選んでコーヒー淹れてもらえる。始めて訪れたときは、入念に色や形を吟味し、さらに少し欲も出て中身がたっぷり入るような器にしたと記憶している。
 今回は、選ぶのが面倒で、お店の人に任せた。すると「これにしましょう」と水色ベースに桜模様のを推薦された。「これ1客18万円もするんですよ」と告げられ正直たまげた。
 おすましのポーズになり普段食べもしないモンブランケーキまで注文してしまった。
  宮崎市 藤田悦子(70) 2018/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

翁長知事を悼んで

2018-08-23 14:00:17 | はがき随筆
 翁長沖縄県知事が逝去された。余りにも急なことでぼうぜんとし、深い喪失感に襲われるのをどうすることもできない。
 凄惨な地上戦の末、戦後は長い占領下にあり、本土復帰後もずっと沖縄は不条理と不平等に苦しんできた。私たちはそのことに負い目を感じつつも頬かむりしてきた。本土のエゴである。翁長氏は在日米軍基地の7割が沖縄にあることの負担をこれ以上は増やさないでと訴え続けられた。がんの病魔と闘いながらまさに命がけであられた。「翁長雄志」の名は国に立ち向かった政治家として青史に永く刻まれるであろう。
  熊本市中央区 増永陽(88) 2018/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載

明日がある

2018-08-23 13:44:02 | はがき随筆
 電子掲示板に受付番号が表示されないので、看護師さんが私の名前を呼んだ。「ザコツシンケイツウ」さんと聞こえた。耳を疑い診察室で医師に「ザコツシンケイツウ」さんと聞こえましたと問うと「はい、そう呼んだよ」と即答された。医師と目が合い「アッハハ」と笑い転げた。誠に正直だ。
 注射を打つ。注射は格別に効いた。お代の支払いの際も「ザコツシンケイツウ」と聞こえた。陣痛のごとく激痛に見舞われたが、看護師さんに癒しと元気をもらい、ハグした。快方に向かい、夕映えの空はオレンジ色にまぶしい。
  鹿児島県姶良市 堀美代子(73) 2015*8/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

「語り」への招待

2018-08-19 22:35:01 | はがき随筆


 先日催された「語り」への招待という朗読会に行った。否、正確に言えばそれは朗読会ではなかった。それは正しく「語り」である。豊富なキャリアを持つプロの女性アナウンサーたちが、舞台上で芥川の「羅生門」、鴎外の「高瀬舟」などの名作を一人芝居のように朗々と「語り」かけるのである。私は新鮮で不思議なこの「語り」の世界に引き込まれていった。
 読書離れの世の中、視覚と聴覚に訴えるこの「語り」はあたかも文学への水先案内人のように、これからの新しい舞台様式として愛されていくのではなかろうか。
 宮崎県延岡市 甲斐修一(68) 2018/8/19 毎日新聞鹿児島版掲載

バシー海峡

2018-08-18 07:01:26 | はがき随筆


 台湾旅行で、私はバシー海峡を見た。南の海は明るい。しかしこの海峡はかつての戦争で数十万の日本兵をのみ込んでいる。それは制海権のない海に、兵員を満載したぼろ舟でフィリピンに向かった結果である。
 このことを山本七平さんは「アウシュビッツのガス室よりはるか高能率の、弱殺型大量殺人機構の創出」と書いておられる。殆どの人はこんなことは知らない。
 私たちは戦争についてもっともっと多くのことを学び、平和の重さを知るべきではないだろうか。
 熊本市北区 岡田政雄(71)2018/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆7月度

2018-08-17 12:10:12 | はがき随筆
月間賞に柳田さん(宮崎)
佳作は川畑さん(鹿児島)、相場さん(熊本)、津曲さん(宮崎)


はがき随筆7月度の受賞者は次の皆さんでした。
【月間賞】13日「命の洗濯」柳田慧子=宮崎県延岡市
【佳作】20日「ぜいたくな時間」川畑千歳=鹿児島県垂水市
▽26日「ツバメは縁起物」津曲久美=宮崎市

 柳田慧子さんの「命の洗濯」。出だしがとてもいい。このフレーズで作者の健やかな日常が感じられます。娘さんのお誘いに感謝しながら言った「命の洗濯」という言葉に娘さんが発した「命を洗う? でも、そりゃ、大ごとや。慎重にね」。この言葉が新鮮で素晴らしい。電話で交わされる母と娘の和やかな会話が温かく、読者も幸せのおすそ分けをいただいたような気持ちになります。
 川畑千歳さんの「ぜいたくな時間」。作者は定年再雇用で実家近くの市役所支所に30分ほどの距離を車通勤しておられる。その通勤の行き帰りに見える周りの景色を丁寧に書かれています。霧島山、開聞岳、桜島、そして牛根の山々の美しさ。生まれ育った地域にお役に立てればいいと思っての勤務であったが、素晴らしい景色に癒され、老いた両親にも会える喜び。逆に故郷からごほうびをもらっているようだと。作者の寛やかな心と景色が美しい作品です。
 相場和子さんの「命という舟」。日野原重明氏の著書を読み命について考えた。人生を生きるとは、命の舟をこぐこと。無事にこぐには健全な心が必要だと。「時間こそ命」と、自戒されておられ、91歳にしてこの思いに至る柔軟な思考に驚きました。
 津曲久美さんの「ツバメは縁起物」。作者の家の納屋には昔からツバメが巣作りをしている由。子育てに悩んでいた遠い昔に義父が言った。「ツバメの世界も手のかかる子はいるもんじゃね」。心にしみる作品でした。
 7月の西日本豪雨では甚大な被害がてました。一日も早い復興を願うばかりです。
 みやざきエッセイスト・クラブ会員
戸田淳子

部活の思い出

2018-08-17 11:44:24 | はがき随筆
 中3の孫娘は部活のバレーを頑張っている。応援に行くと館内は大勢の声援。緊張した6人の中に孫の背番号を探す。
 おのずと半世紀昔のほろ苦い中学時代がよみがえってきた。
 その頃は校庭にネットを張り9人制。放課後の炎天下に汗と砂にまみれて失敗の叱責にもひるまず練習に明け暮れていた。
 ある日、練習がたるんでいると校庭3周?の罰。途中息切れして一人完走できず恩師の愛のむちに報いられなかった。その苦い経験から学んだ気力と忍耐は暮らしの支えになってきた。
 孫たちもたくましく成長してほしいと願う老婆心はつのる。
  鹿児島県薩摩川内市 田中由利子(77) 2018/8/17 毎日新聞鹿児島版掲載

ガイド 手紙が励みに

2018-08-16 17:46:20 | 岩国エッセイサロンより
2018年8月15日 (水)
   岩国市   会 員   横山恵子

 原爆の日、ボランティアのため原爆資料館に行くと、以前平和記念公園をがイドした米子市の6年生から手紙が届いていた。どう話したら伝わるか、悩みながらガイドしているが、被爆者の方々と戦争体験者である亡父の思いが心を突き動かしている。
 手紙には「家族や人をもっと大切にしていきたい」 「学んだことを知らない人に伝えていきます」 「しょう来、このことを伝える仕事につきたい」など頼もしいことが書かれてあり、胸が熱くなった。ガイドは一方通行だけど、手紙から頑張ろうというエネルギーをもらった。
 嫁が8歳と6歳の孫を連れ灯龍流しに行くと聞き、私も行った。想像していたよりはるかに多くの親子連れが並び、願いを込めた灯籠が水面に浮かんでいた。平和へのあふれんばかりの思いが伝わってくるようで感動した。
 核兵器が地球上から消えるまで燃え続ける「平和の灯」が一日も早く消えることを祈っている。

     (2018.08.15 中国新聞「広場」掲載)

父とハンミョウ

2018-08-16 17:42:04 | 岩国エッセイサロンより


2018年8月 4日 (土)
岩国市  会 員   角 智之


 ハンミョウとの出合いは小学生の時、父から教わった。道路を歩いていると、どこからともなく飛んできて足元に降り、人の行く方へ先回りしては飛ぶのを繰り返し、不思議な昆虫だ。昭和30年代、田んぼが埋め立てられ、道路が舗装されると全く見なくなった。
 あれから半世紀、先日、1年ぶりの墓参で農道にこの虫がいた。見覚えのある美しい羽。こんな所にもいたのか。父の使いか、それともハンミョウに姿を変えて迎えに来たのか。「智之、お前、長い間、来だったのう」。間もなく父のみたまは精霊トンボに乗って我が家へ向かう。
(2018.08.04 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

歩く姿はユリの花

2018-08-16 17:31:40 | はがき随筆




 雲を通して太陽の存在を感じるというような、はっきりしない空模様のもとで、カサブランカが大輪の花を咲かせていた。そのすっきりとした顔立ちで、庭を引き立てている。今年は栄養が行き届いたせいか、花の大きさが違う。まさに「歩く姿はユリの花」である。
 それにしても今年の花々は例年になくこぞって咲き誇ってくれた。丸く刈り込まれたサザンカは赤紫一色に包まれたし、オガタマも一気に開花、ニオイバンマツリも白と紫で染め上げた。おかげで我が家の庭を楽しみにしてくれる奥さんも増えた。カミさんは喜色満面である。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(81) 2018/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載