はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

かわいい予約

2018-08-16 17:24:00 | はがき随筆
 夏休みを前に、東京の6年生から電話があった。
 帰省の時、読書感想文を見てほしい、というものだった。「ママがね、早く予約をしなさい、って言うから……」の言葉に思わず笑みがこぼれた。
 「予約? オーケーよ」
 そう言えば、昨夏、登山の帰り、長野から中央道を走って寄った東京では、たっぷり残った彼の宿題とご対面だったな。
 それを仕上げて、一緒に見た東京湾の大海原。カモメが低く飛び、渡る風が爽快だった。
 さて、灼熱の今年の夏。ついため息がでそうだが、かわいい予約のお陰でしのげそうだ。
 宮崎県延岡市 柳田慧子(73) 2018/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載

小さなお父さん

2018-08-16 17:15:38 | はがき随筆
 「龍君、お父さんみたい?」。うっすら涙を浮かべながら私を見上げる。5歳の小さな体で、妹のベビーカーに乗りたいとも言わず、一日よく歩いてくれた。お土産店に寄った。「じいじとばあばにも買う」。自分で選び始める。「ママ、龍君お父さんだけんお土産持っとくね」。大きな袋を一生懸命持ってくれた。
 日ごろは一番の甘えん坊のくせに旅先では立派で頼もしかった。子供ながらに気を遣っていたのか、旅の楽しさがそうさせたのか。「優しい龍君、今日はお利口だったね。うれしかったよ」。息子の寝顔に語りかけた。
 熊本市南区 中山佳世子(24) 2018/8/16

赤いスニーカー

2018-08-16 17:02:10 | はがき随筆
 靴売り場の前を通り過ぎようとして、素敵な色合いに吸い寄せられ店内へ。赤といってもイエローピンクの色調は柔らかな感じで優しく足を包んでくれそう。早速はいてみる。外反母趾でも楽に歩けてうれしくなる。
 同じサイズでも変形した足に合う靴はなかなかみつからないものだ。一度は履いてみたかった赤いスニーカーに、やっと出会えワクワクする。
 年を重ねた今こそ明るい靴で歩きたい。さっそうとはいかない足取りだが、若返った気分になる。「いい色だね」亡夫も言ってくれそうだ。
 鹿児島市 竹之内美知子(84)2018/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載

亡き義父への報告

2018-08-16 16:55:47 | はがき随筆
 もうすぐ義父の一年忌がくる。生前「孫の結婚式には出たい」といっていたが、それもかなわず他界した。息子も別れのあいさつで悔やんでいた。
 今年、息子は30歳になる。私も「30になるまでには結婚して」と口癖のように言いだした。息子は嫌な顔をして、「俺の問題やかい。言わんで」とひと事。それ以来口をつぐんだ。
 そうしているうち、ようやく正月に彼女を連れてきて紹介してくれた。しっかりした年上の女性だ。末っ子で姉たちに甘えていたので、わかる気がした。
 一年忌に息子の結婚を報告でき亡き父も喜んでいるだろう。
  宮崎県串間市 林和江(61)2018/8/16  毎日新聞鹿児島版掲載

忍者の住む通り

2018-08-16 16:48:43 | はがき随筆
 二十数年前、年をとったら都心の方が便利と考えて熊本市の中心部の水道町に引っ越した。すると同級生が「今度のあーたが家は黒鍬通りじゃなかと?」と言ったが私は知らなかった。「黒鍬ちゅうたら忍者たいね」とうれしくなって地図を見たらやはりそうだった。「私、くノ一のお隣と名乗ろ」「あーたは運動神経が鈍かけん無理」
 黒鍬通りは土木に携わる人たちの住む所だったのだろう。でも昔忍者が住んでいたと思っている方が今も結構多い。このごろ海外でも忍者ブームだとか、ニュースを聞きながららちもないことを思い出した。
  熊本市中央区 増永陽(68)2018/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載

特攻飛行機の思い出

2018-08-16 16:26:58 | はがき随筆


 第二次大戦末期の特攻飛行隊の存在を知る人はもう少ない。日向市の富高にもあった。
 我が家の貸家に独り暮らしの婦人がおられた。ある日、日の丸の旗を持って訪ねてみえ、一人息子が出撃するからうちの畑から見送りたいと言われた。うちの家族も大旗を持ち、一緒に空を見上げて待った。やがて低空飛行で息子さんが現れ、2回旋回し南へ去っていかれた。
 そして6月29日、米軍の空襲にあい、隣も我が家ともども焼け果ててしまった。それっきりご婦人の姿を見ることはなかった。振った旗の重さだけが記憶に残っている。
  宮崎県延岡市 窪田恵子(82)2018/8/16 毎日新聞鹿児島版掲載

都井岬

2018-08-15 12:50:16 | はがき随筆


5月末、ジャラカンダの花を見に「道の駅なんごう」を目指した。なんごう駐車場は、平日にもかかわらず満杯だった。
ジャラカンダは、道の駅周辺に群生し、南国日南にふさわしい青紫の花を咲かせていた。
せっかくなので都井岬まで足を伸ばした。都井岬は緑の草原に御崎馬が見られ、日向灘がどこまでも広がって美しかった。しかし、観光客の姿はなかった。岬の中ほど、開けたところにホテルの廃虚があった。昔たくさんの新婚カップルを迎えたであろうホテルの玄関はひっそりしていて、周りには背の高い草が生い茂っていた。
熊本市北区 岡田政雄(70) 2018.8.15 毎日新聞鹿児島版掲載




アク

2018-08-14 14:06:08 | はがき随筆
 みどり濃いニガゴイと、ぱっちり張ったナスを炒め、だし汁で味付けしていただく。と、ニガイこと。口の中がひっくり返りそうである。ゴボウ、ナスなどニガーイものを食べられない私にしては一大事である。
 苦いものとの関係はアクの仕業と辞書で確かめる。①灰を水に入れてとった上ずみ、アルカリ性で洗濯や染め物に使う②植物などに含まれるしぶみ③性質、文章などのどぎつさ──とある。そうかな。小さいときから、いがらっぽいものが嫌いだった。里芋、ジャガイモ、ミガシキ、トイモガラ。ニガゴイは白っぽかったので食べたのか。
  鹿児島市 東郷久子(83)2018/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載

母と孫の食事

2018-08-14 13:56:51 | はがき随筆
 時々孫がやってくる。はいはいができるようになり、つかまり立ちもするようになった。
 離乳食も始まり、孫を相手に「はーい、お口を開けて、おいしいね。いっぱいたべようね」と一口ずつ食べさせる。食べ方もだんだん上手になっておいしそうに食べてくれる。
 1年前、私は母に同じことをしていた。立てば危ないよと手を添え、「お母さん、おいしいよ。いっぱい食べて元気を出そうね」と、とろとろの原形をとどめない食事を一口でも食べてと祈りながら食べさせた。
 でも、母は最後には何も食べられなくなった。
 宮崎市 高木真弓(64)2018/8/12 毎日新聞鹿児島版掲載

お弁当

2018-08-14 13:50:25 | はがき随筆


 「いってらっしゃい。気をつけてね」と弟にお弁当を渡すのが、母が亡くなった3年前からの私の役割だった。
 疲れているように見えた翌朝は元気が出そうなメニュー。食欲がなさそうな時は食べやすいもの。考えるのは大変だったが少し楽しみでもあった。
 この春、進学のため県外に出ることになった彼が「3年間おべんとうありがとう。おいしかったよ」と言ってくれた。涙が出そうになり、笑顔でごまかした。
 家事の負担は減ったが、今日はどうしているか心配するようになった。今日も元気で笑っていますように。
  熊本市中央区 本田舞(27)2018/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載 

ナンプレ

2018-08-10 12:41:51 | はがき随筆


 本紙でも人気のパズルコーナーになっている「数独」。
 大人のやることに何でも興味を持つ孫の男の子も、挑戦し始めた。しかし新聞の問題は、升目が9×9の81個と多すぎて、保育園年中組には難しそうだ。簡単な問題から解かせようと、升目の少ない4×4のナンバープレースを自作してプレゼントした。最初に入っている数字も6から4個へと徐々に減らし、解き方に慣れるようにした。
 今は、問題を往復はがきで送っている。空欄に書き入れられた手書きの幼い数字や、何度も答えを消した跡のはがきが戻って来るのが楽しみである。
 鹿児島市 高橋誠(67)2018/8/10 毎日新聞鹿児島版掲載

小欲知足

2018-08-09 18:29:23 | はがき随筆


 出不精の私に妻が「マテガイを採りに行っては」と私の趣味心に刺激を与えた。塩、くわの道具を整え海へ行く。6年ぶりの福ノ江海岸。くわを引き、穴に塩を注ぐ。獲物は大粒で楽しいが、手持ちの塩が乏しくなった。私の様子に年配の男性が「使いなさい」と、塩を容器ごと下さった。男性のかごをのぞくと少量のマテガイがあった。
 男性は「必要な分だけ採って、小さいものは採らない」と話してくれた。私が「近所の人にお裾分けする」と言ったら、男性は笑顔を返してくれた。自然の恵みを大切にする人に会えた喜びが妻への土産になった。
 鹿児島県出水市 宮路量温(71)2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

言葉 

2018-08-09 18:22:26 | はがき随筆
 3面の中村秀明さんのコラム「水説」に「立ち止まらせる言葉」とあり、文筆家の池田晶子さんのお話がありました。「しゃべり散らし、書き散らしで、たちまち忘れてしまうよね。大事でないから忘れてしまうんだ」「本当の言葉というのは、人間を、そこに立ち止まらせ、耳をすまさせ、考え込ませるものなんだ」学生時代、ドッジボールの球を胸できゅっと受け止めた感覚。そして全力で投げ返した時のさわやかな空気。そんな言葉のように思えてきました。木陰の下から青空を仰ぎ、せみしぐれの下でちょっと優雅な心の時間、そんな言葉を探しています。
 熊本県八代市 相場和子(91)2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

夏うなぎ

2018-08-09 18:11:54 | はがき随筆


 子供の頃の思い出があふれるから、夏大好き。中でも「うなぎ釣り」の場面は、毎晩のように思い出し、心地よい眠りへと誘う。
 夕方、兄と一緒に仕掛けを作り、次の朝、夜明けを待って川へと走る。
 「柳の木」に結んだ仕掛けがユサユサと揺れている。ヌメヌメと光る巨体に、思わず後ずさりして兄を呼ぶ。兄は慣れた手付きで、ポイとかごの中へ。
 その日の夕食は、炭火で焼いたかば焼き。父がうれしそうに、片手に杯を持ち、うなぎにかぶりつく。その姿こそ私には一番のご馳走だった。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(70) 2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

悲しき口笛

2018-08-09 18:03:22 | はがき随筆
 先日テレビで見空ひばりを回顧していた。
 高校生のころ、映画の全盛期、映画館の人たちと懇意になり学校帰りに毎日寄った。初めのうちは看板の建て替えや館内アナウンスなどを手伝っていたが、そのうち映写機の操作を手伝わされるようになった。アーク式の映写機である。小さなのぞき窓からスクリーン見てピント、音声などを調整する。少女時代のひばりの「悲しき口笛」何回も何回も映写した。山高帽、えんび服、ステッキを小脇にあの独特に声音で歌う。
 ひばり、と聞くとあのシーンがよみがえってくるのである。
 鹿児島市 野崎正昭(86)2018/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載