はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

S先生

2021-08-07 11:22:31 | はがき随筆
 プールに行ったらS先生に会った。私が2年前まで英語の授業のお手伝いに行っていた小学校の先生だった。私が人気の少ない職員室にいると、コーヒーを出してくださったり、時にはお菓子もくださった。金栗四三さんの話も面白く聞かせてもらった。こうしたことをさりげなくされる人である。
 この出会った日は、夏休みの子どもたちに水泳指導をされていた。今は退職してご両親の介護をされているとか。育ててもらった分、今度は自分が面倒を見るのだとおっしゃっていた。
 先生は、今までに出会った素敵な人たちの一人である。
 玉名市 立石史子(67) 2021/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載
 

2021-08-07 11:06:10 | はがき随筆
 月例のゴルフコンペで一緒にラウンドする先輩は、原爆投下を見た人である。国民学校5年生の夏休み。海で遊んでいたそうだ。島原半島の小浜に住んでいて、砂浜が友達との遊び場になっていた。その日も数人の友達と泳いでいる時、今まで見たことのない閃光と、一瞬置いて衝撃波を感じて、泣きながら家に向かって走ったという。橘湾を挟んで、対岸の長崎市に落とされた原子爆弾である。76年も前のことだが、その話を聞いた僕は、地球上の人間が、二度と再び、その光を見ないで済む世界であってほしいと、ただただ思った。
 鹿児島県志布志市 若宮庸成(81) 2021/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載


腹八分目

2021-08-06 16:36:24 | はがき随筆
 「腹八分目っていい言葉よね。仕事も遊びも目いっぱいやると疲れる。ほどほどがいいわ」と若い友人が言った。「そう?」と聞き流したが、40代の頃、腰痛でかかった整形の医師の言葉を思い出した。「快適な60代を迎えたかったら体重を落としなさい。膝にきますよ。そのためには腹六分目を心掛けるように」と。「えー、腹八分目も大変なのに六分目なんて」と反発したら、「自己責任ですから」と事務的に言われた。
 そして後期高齢者になった今、またその言葉に出会う。友人にも逆らいたかったが、黙っていたい膝をさすっている。
 宮崎県延岡市 島田千恵子(77) 2021/8/6 毎日新聞鹿児島版掲載

西瓜仕事

2021-08-06 16:28:57 | はがき随筆
 仕事場から母屋に戻ると上がり框に大きな西瓜が転がっている。母がまた買ったのだ。細い体でよく大玉に挑むものだと感心する。酷暑にある家族に滋養との気持ちはありがたいが、切るのは私。よいしょとまな板に上げればため息が出る。
 さて、大玉を12等分し皮を外して一口大に切っていく。今日は大鉢四つのカットスイカが出来上がり、汗だくながら程よい達成感を得る。
 最後は皮の浅漬け。緑の外皮を除いて作る浅漬けは熊本の始末料理だが、カット処理の皮ならば歯形もないのでマダムも抵抗なく召し上がれマス。
 熊本県八代市 廣野香代子(56) 2021/8/5 毎日新聞鹿児島版掲載

世界地図

2021-08-06 16:21:00 | はがき随筆
 先立っての本紙中畑流万能川柳欄に「その国が真ん中にある世界地図」の句があった。全くその通りで、外国旅行の時、気を付けていると、その国が真ん中にある世界地図にお目にかかる。
 私は以前、米国で暮らしたことがある。当然、米国を中心にした世界地図を何回も見たのであるが、見慣れた日本での世界地図と随分違ったはずだが、全く違和感を感じなかった。
 ある時、気がついた。この違和感の無さ、どこの国に行ってもそうだろう。これは結局、人間は自己中心の見方、考え方をするんだと考えた次第だった。
 鹿児島市 柏木正樹(69) 2021/8/4 毎日新聞鹿児島版掲載

私の映画

2021-08-05 10:23:41 | はがき随筆
 灯台守の夫婦を描いた「喜びも悲しみも幾年月」。10歳の頃、学校の講堂の巡回映画で見た。
 観音崎に新妻を連れて来るシーンで始まる。離島へき地での灯台守の仕事の過酷さ、夫婦の哀歓に感動した。が、子ども心に「灯台守は自分には絶対無理や」と思った。
 私の「幾年月」は室戸岬に妻を連れていくシーンで始まる。電電公社の無線屋として転々とし、離島勤務も2度した。
カミさんと子どもたちがいて、何とかやってきた。本物のような情感豊かな盛り上がりはないけれど、終わる時にはパチパチ拍手しよう。私の映画、総天然色だ。
 宮崎市 柏木正樹(72) 2021/8/3 毎日新聞鹿児島版掲載


南瓜の収穫

2021-08-02 16:15:19 | はがき随筆
 娘が庭に穴を掘り、生ゴミを埋めた所から南瓜の芽が数本出てきた。日ごと眺めているうちに成長し、試しに6カ所へ移植。やがて雄花、雌花が綺麗に咲く。蜂や蝶も飛ぶが娘婿が筆先で受粉、肥料も施し、庭一面南瓜の葉。やがて小さな実、一雨ごとに大きくなる。来訪者たちも見事な南瓜の成長ぶりを楽しみに。我が家で南瓜を作るのは60年ぶり。阿蘇にいた頃に育てた南瓜をボーブラと呼んでいたが、硬くておいしかった。やがて葉が枯れ始め、立派な南瓜が6個も収穫できた。味見はまだだけど、近々娘たちと一緒に食卓でその味をかみしめたい。
 熊本市中央区 原田初枝(91) 2021.8.2 毎日新聞鹿児島版掲載

終わり良ければ

2021-08-02 16:05:25 | はがき随筆
 演出家の故蜷川幸雄氏が手掛けたプロジェクト、シェイクスピアの全37戯曲を上演するシリーズが完結した。23年かけて。タイトルもまさに「終わり良ければすべて良し」。
 当時、埼玉県与野市だった街に芸術劇場ができ、埼京線に乗って何度通っただろう。今はさいたま市となったが、演劇好きな人間が駅から劇場までの道を、期待を胸に歩く。
 蜷川氏亡き後は、吉田鋼太郎が遺志を継ぎ、残りの作品を演出しまた出演もした。台本は、松岡和子氏による新訳。氏も全作品の翻訳を完成させたことになる。めでたし。
 鹿児島市 本山るみ子(68) 2021/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載

弟の見舞い

2021-08-01 18:21:56 | はがき随筆
二つ違いの弟は、胃がんを患ってから2年余りになる。その間、鹿児島市内の病院に入退院を繰り返していたが、病気は治癒せず、退院して訪問看護を受けることになった。弟にしばらく会っていなかったので、姉妹と一緒に自宅に見舞いに行った。ベッドにふせているのではないかと思っていたら、割と元気な姿で迎えてくれた。治療のこと、病状のことなど詳しく話してくれた。
不治の病とはいえ、そばにいる奥さまより明るかった。私は帰り際に用意していた良寛さんの歌「我ながらうれしくもあるかみ仏のいますみ国に行くと思へば」を渡して帰った。
 鹿児島県志布志市 一木法明(85) 2021.7.31 毎日新聞鹿児島版掲載

何が食べたい

2021-08-01 18:16:02 | はがき随筆
 私は、高校卒業後、県外へ就職した。休暇で帰省する時に、母から「何が食べたい?」と聞かれ、決まって母の作る「ちらしずし」と答えていた。
 ある時、息子が帰省するので聞くと「鶏の照り焼き!」と返事が返ってきた。それは、たれに前夜漬け込み、朝に焼いていた弁当のおかずだった。ご飯の上に1枚を切り分けどんぶり風に乗せる。よく作っていた手抜き料理だったので複雑な気持ちだった。他に手のかかるのは、作ってなかったのかなぁ。
 コロナ禍で、なかなか会えないが、今度帰ってくる時、ビーフストロガノフ作ろうかな。
 宮崎県日南市 三川昭子(60) 2021/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

雲は流れて

2021-08-01 18:09:07 | はがき随筆
 ワシ、ワシ、ワシ、ワシジーイ。ワシ、ワシ、ワシ、ワシジーイ。
 あれ? このあとあの木この木からの唱和でセミの大合唱が始まるのに、ぴたっとやんでしまった。
 いつもはじりじりと照りつける太陽の熱風をかき立てるようにかしましかったセミの鳴き声。もう出番を終わってしまったのだろうか。なんだか寂しい。
 お隣の花々に触発された娘が初めてひまわりの種をまいた。草が多くて見分けがつかなかったのが、大好きなひまわりの開花がみられそう。真夏の青空の下で。
 熊本市東区 黒田あや子(89) 2021/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

父の日

2021-08-01 18:03:09 | はがき随筆
 新聞の折り込みチラシを見ていた妻が「あら、父の日だわね、何か欲しいものはあるの。あ、そうか。あなたは私の父ではないんだ」と。「ああ、そうだ、そうだ。ほっとけ、ほっとけ」と売り言葉に買い言葉でチョン。
 昼過ぎに息子夫婦が、父の日にとスポーツウエアを2枚も買ってきてくれた。貧乏性のせいか、彼らの懐具合を思うと、ありがたさより気の毒さが先立つ。親としては、夫婦仲良く一家が元気で相和してくれるのが最高のプレゼントなのだよ、と言いかけたが「ありがとう」と深く頭を下げた。
 鹿児島県肝付町 吉井三男(79) 2021/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

おそろいのTシャツ

2021-08-01 17:55:37 | はがき随筆
 コロナ禍で遠出もできず、思い出のTシャツと短パンで過ごすことが多い生活になった。
 旅友4人で信州の山々を何度も、名古屋に住むKさんの案内で旅した。行くたびに求めた記念のTシャツを女性3人は旅行の度に日替わりで着るようになった。周りの視線を意識しながら優越感に浸る心地よさ。
 中でも印象深い思い出は、ロープウエイを乗り継ぎ到着した中央アルプスの千畳敷カール。ここのホテルで1泊した。春4月、残雪で白く輝くカールをおそろいのシャツで跳びはねた。あれから20年。仲間の2人はもう旅は無理になってきた。
 宮崎市 川畑昭子(77) 2021/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

歩行

2021-08-01 17:48:21 | はがき随筆
 若い頃「体が老化したら、まず足が弱る。足を鍛えるために努めて歩け」と、その筋の先生から諭された。私は自転車には乗るが自動車の運転はしないし、歩行を心がけてきた。しかし、90歳前後ごろから足腰が弱って、杖は使用していないが、よぼよぼ歩きをするようになった。小川沿いの幅が狭い道をコンビニまで100㍍ほど歩いて往復するが、車の往来が多くて、すれ違う時は片方が停車して他方が通過してから始動する状態である。私は端に立ち止まって見守り、車が去ってからよぼよぼと歩き出す始末である。ちょっとした買い物でも大変だ。
 熊本市東区 竹本伸二(93) 2021/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載

ドベ脱出

2021-08-01 17:40:18 | はがき随筆
 6月は田植えの季節。私も少し手伝いをした。体調を整えいざ本番。腹筋に効く呼吸法(ドローイン)のお蔭か、かがんでもさほど苦にならない。けれど、今年はやけに田から足が抜けにくい。帰宅後、夫に尋ねた。「足が抜けんことなかった?」「いやそんなことない」
 時を移さず翌日から速歩のコースを替えた。行縢山を見ながら歩む平坦なコースを短くし、アップダウンの多い道中心にした。朝の人けのない里道。大声で「鐘の鳴る丘」を歌うと、二拍子に合わせて手足がまことによく動く。毎年ドベだった私が、来年は皆を驚かせてみせる。
 宮崎県延岡市 佐藤桂子(73) 2021/7/31 毎日新聞鹿児島版掲載