風来坊参男坊

思い付くまま、気が向くまま、記述する雑文。好奇心は若さの秘訣。退屈なら屁理屈が心の良薬。

学習は現地現物

2014年01月21日 02時28分09秒 | 随想

昭和5年に就役し54年間183万キロを航海して一万千五百名の船乗りを育てた初代帆船日本丸が昭和59年に横浜港に、同年に進水した姉妹船の海王丸は平成元年に富山新港に係留された。後継の日本丸Ⅱ世と海王丸Ⅱ世が完成したから退役した。フォア、メイン、ミズンが横帆、ジガーに縦帆の四本帆柱のバーク型、帆柱は前から3度、4度、5度、6度と後方に傾いている。理由は後方からの風に対して強度を確保する事と順風満帆で風力を最大限に活用する知恵、故に前から強風を受けると帆柱が倒壊する。最高速度は真後ろの風ではなく、左右の後方45度からの時で、全長97米、幅13米、最高帆柱46米、2278屯の日本丸は最高速度を叩き出す。

閉鎖社会の帆船は厳格な縦割りの階級資格社会で秩序維持、船長に権限が一極集中で責任が重いが故に特権が与えられる。風呂便所付の個室、天下取ったら四畳半、そして黒の制服に金線四条の階級章は軍隊の大型船舶の艦長が大佐に由来する。

しかし全ての乗員に共通する寝台の構造、前後左右に最大45度傾斜して荒波を乗り越える板子一枚下は地獄の帆船が大型寝台では確実に棺桶入り、棺桶に入る前に棺桶に入り命拾い、先人の知恵は計り知れない。羅針盤や大型操舵の操舵室は最後尾、空気を読んで操船するに好都合、前方に窓無く後方は布張りの風除け。

甲板部・機関部・通信部・事務部・船医の職員・部員で役割分担するが、風任せでは甲板部の乗員が航海の主役、職員は資格者で部長は一等航海士、他に二等航海士・三等航海士、階級章はそれぞれ金線三条・二条・一条、24時間体制なら三人必要。一等は優れ、三等は劣るという人間差別ではなく、4時間区切りの当直の難易度で、操船が一等難しい時間帯を一等航海士が担当する。30分で鐘一点が増加する船の時、交替時には八点鐘が鳴る、カンカン カンカン カンカン カンカン。

通信部は金線に安全の緑、事務部は紙の白、船医は血液の赤の線が付加され区別され、軍艦と違う識別章が創造された。機関部はタイタニックの遭難事故の時、最後までエンジンを動かし、操船に協力し、電力を供給し、船長と同様に船と共に海に消えた献身的行為に英国皇室は高貴な色・紫の使用を許可する。

近年の大型客船は事務部が巨大化し、司厨長である料理長や雑役の事務員である脇役が支配人なる名前で多くの乗員に君臨し、船長は乗客の接待で多忙を極め、航海は機械任せ、内燃機関で船を動かし、電気で巨大船を快適にする機関長は船長と同等の金線四条の制服を着用するが、通信長・事務長・船医は金線三条まで、時代と共に主役が替わる人間集団、荷物はモノから人間、言葉を使う人間は社会を複雑にする。

大型で安全快適な揺れない船が増えている現代に危険な帆船で練習航海をする目的は何だろう。

吉田拓郎がイメージの詩で歌う。前略 古い船には新しい水夫が乗り込んで行くだろう、古い船を今動かせるのは古い水夫じゃないだろう。なぜなら古い船も新しい船のように新しい海へ出る、古い水夫は知っているのさ新しい海のこわさを 後略

最新鋭の西洋科学の巨大船で安全意識が薄れる今日此の頃、自然の脅威に現地現物で恐怖体験し、自然に対する畏敬の念を抱き、人間が助け合い自然と共生する知恵を学ぶ教室として古い形式の船が必要なのだろう事を、現地現物で古い水夫の説明から学んだ。

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