このブログに書いている書評らしきものも、100冊目になります。
記念すべき100冊目には、これはもう小池和男先生の本しかないでしょう。
小池先生は私の学生時代には名大の経済学部教授で、当時私の所属していたゼミは社会政策の鼓教授だったのですが、同じ労働経済学ということもあって(大河内一男門下という点でも一緒みたいですが)当時賃金論だったと思いますが講義はまじめに受け、その著書も今までずっとフォローしています。
小池先生の論議は日本の常識を丹念な聞き取り調査と緻密なデータ分析でなぎ倒していく痛快さがあります。いわゆる通説が実際にどうなっているのか丁寧にひとつひとつ批判していきます。現場を丹念に調査しているので反論の余地がありません。
余談ながら当時の名大経済の花形教授の飯田経夫も小池教授から発想の多くを得ていると思っています。
ということで「高品質日本の起源」ですが、久し振りの本格的な学術書を読みました。
図書館で借りたのですが在庫は鶴舞図書館に1冊だけ。これは2週間では読めないかもと延長しようとしたのですが、既に予約が4件あって延長できない。読む人がちゃんといるんですね。
高品質とは日本の国際競争力を端的に示す象徴です。
その高品質を支えているのは、職場で仕事を工夫し、発言している職場の中堅層なんだと。そしてそれは戦前から連綿と受け継がれてきていることを明らかにしているのがこの本です。
最初は綿紡績業を取り上げています。日本は戦前紡績業においてイギリスを駆逐して世界市場を席巻して行ったのですが、それは決して低賃金による安かろう悪かろうだけではなかったのです。品質においてもばらつきの少ない高い品質の量産品を作っていた結果です。そしてそれを支えていたのは、機械でも、生産方式でもなく、職場の生産労働者のやや高度な技能と発言によっている。そのため熟練工を評価する賃金体系を持ち福利厚生を整備して優良工女を大切にしているのです。日本紡績業は女工哀史に見る短期勤続女工による人材使い捨てで勃興して行った訳ではないのです。
続いては機械工業を取り上げています。そしてその中で労働組合(いわゆる左派組合ではなく、イデオロギー的に評価されていなかった総同盟の組合)の果たした役割を高く評価しています。この本ではきちんとした資料がある東京製綱株式会社と組合を見ています。その協定では、会社は出来る限り従業員を優遇し、組合は作業能率の増進に努力することということも入っています。この点を取り上げれば御用組合といわれかねないのだが、その歴史から丹念に組合の果たした成果を見れば決して会社の言いなりになっていない。
誤解があるかもしれないが、交渉力があり強い組み合いほど安易にストを打たないし解雇にも応じている。厳しい不況時に生産を止めるストライキが果たして効果があるのか。それよりも解雇の条件、再雇用の条件などをしっかり交渉することが本当に労働者の生活を守るのではないのか。
それでは総同盟の組合はストは打たなかったのか。戦前最も長くストを闘った野田醤油争議は総同盟の組合である。同じように長く闘った日本楽器争議と比べているが、しっかりした共済制度を持ち整然と闘い抜いた姿は決して御用組合ではなかった。勇ましいことを言ってストをやたらに打っても成果を得られず暮らしと職場を守ることが出来なければ何のための組合か。中堅労働者が自ら仕事に発言していくことを確保することによって企業にとっても高品質を確保することが出来たのです。そこでは組合と企業がウインウインの関係が成り立つのです。
そして戦前全ての組合が産業報告会になびいていく中で、強制解散させられる最後まで組合を解散しなかったのは総同盟でした。戦争には発言せず反対をしなかったが、それを持って過小評価するのはいかにも戦後の我々の後知恵なんでしょう。
いささかテーマから脱線しそうになるのですが、小池教授の気持ちとしては、職場の現場で発言しつつ共済制度を整え、働く人の仕事と生活を一番守ってきた総同盟に対する未だに低い評価は我慢できず、大河内一男をはじめ権威ある人たちをぶった切っているという感じでしょうか。傘寿を迎え言って置きたいということを書いている感じです。
高賃金国になった日本が国際競争に勝ち、世界市場で生き抜くには高品質やサービスで勝負するしかない。そしてそれには職場の中堅層の発言こそ大事であり「共働的団体交渉モデル」が有効であると。大事なところなのですが、詳細はぜひ本を読んでください。
小池教授の本をずっと読んでいるとその結論は納得できるのですが、戦前の日本の労働組合が分析の中心で、あまりに通説に反したことが多いので、ちょっととっつきにくい本となっています。一般的には「仕事の経済学」をまず読んで見るといいと思います。
記念すべき100冊目には、これはもう小池和男先生の本しかないでしょう。
小池先生は私の学生時代には名大の経済学部教授で、当時私の所属していたゼミは社会政策の鼓教授だったのですが、同じ労働経済学ということもあって(大河内一男門下という点でも一緒みたいですが)当時賃金論だったと思いますが講義はまじめに受け、その著書も今までずっとフォローしています。
小池先生の論議は日本の常識を丹念な聞き取り調査と緻密なデータ分析でなぎ倒していく痛快さがあります。いわゆる通説が実際にどうなっているのか丁寧にひとつひとつ批判していきます。現場を丹念に調査しているので反論の余地がありません。
余談ながら当時の名大経済の花形教授の飯田経夫も小池教授から発想の多くを得ていると思っています。
ということで「高品質日本の起源」ですが、久し振りの本格的な学術書を読みました。
図書館で借りたのですが在庫は鶴舞図書館に1冊だけ。これは2週間では読めないかもと延長しようとしたのですが、既に予約が4件あって延長できない。読む人がちゃんといるんですね。
高品質とは日本の国際競争力を端的に示す象徴です。
その高品質を支えているのは、職場で仕事を工夫し、発言している職場の中堅層なんだと。そしてそれは戦前から連綿と受け継がれてきていることを明らかにしているのがこの本です。
最初は綿紡績業を取り上げています。日本は戦前紡績業においてイギリスを駆逐して世界市場を席巻して行ったのですが、それは決して低賃金による安かろう悪かろうだけではなかったのです。品質においてもばらつきの少ない高い品質の量産品を作っていた結果です。そしてそれを支えていたのは、機械でも、生産方式でもなく、職場の生産労働者のやや高度な技能と発言によっている。そのため熟練工を評価する賃金体系を持ち福利厚生を整備して優良工女を大切にしているのです。日本紡績業は女工哀史に見る短期勤続女工による人材使い捨てで勃興して行った訳ではないのです。
続いては機械工業を取り上げています。そしてその中で労働組合(いわゆる左派組合ではなく、イデオロギー的に評価されていなかった総同盟の組合)の果たした役割を高く評価しています。この本ではきちんとした資料がある東京製綱株式会社と組合を見ています。その協定では、会社は出来る限り従業員を優遇し、組合は作業能率の増進に努力することということも入っています。この点を取り上げれば御用組合といわれかねないのだが、その歴史から丹念に組合の果たした成果を見れば決して会社の言いなりになっていない。
誤解があるかもしれないが、交渉力があり強い組み合いほど安易にストを打たないし解雇にも応じている。厳しい不況時に生産を止めるストライキが果たして効果があるのか。それよりも解雇の条件、再雇用の条件などをしっかり交渉することが本当に労働者の生活を守るのではないのか。
それでは総同盟の組合はストは打たなかったのか。戦前最も長くストを闘った野田醤油争議は総同盟の組合である。同じように長く闘った日本楽器争議と比べているが、しっかりした共済制度を持ち整然と闘い抜いた姿は決して御用組合ではなかった。勇ましいことを言ってストをやたらに打っても成果を得られず暮らしと職場を守ることが出来なければ何のための組合か。中堅労働者が自ら仕事に発言していくことを確保することによって企業にとっても高品質を確保することが出来たのです。そこでは組合と企業がウインウインの関係が成り立つのです。
そして戦前全ての組合が産業報告会になびいていく中で、強制解散させられる最後まで組合を解散しなかったのは総同盟でした。戦争には発言せず反対をしなかったが、それを持って過小評価するのはいかにも戦後の我々の後知恵なんでしょう。
いささかテーマから脱線しそうになるのですが、小池教授の気持ちとしては、職場の現場で発言しつつ共済制度を整え、働く人の仕事と生活を一番守ってきた総同盟に対する未だに低い評価は我慢できず、大河内一男をはじめ権威ある人たちをぶった切っているという感じでしょうか。傘寿を迎え言って置きたいということを書いている感じです。
高賃金国になった日本が国際競争に勝ち、世界市場で生き抜くには高品質やサービスで勝負するしかない。そしてそれには職場の中堅層の発言こそ大事であり「共働的団体交渉モデル」が有効であると。大事なところなのですが、詳細はぜひ本を読んでください。
小池教授の本をずっと読んでいるとその結論は納得できるのですが、戦前の日本の労働組合が分析の中心で、あまりに通説に反したことが多いので、ちょっととっつきにくい本となっています。一般的には「仕事の経済学」をまず読んで見るといいと思います。