怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「赤めだか」立川談春

2015-12-12 17:00:50 | 
立川談春というと今や独演会のチケットが売り出すと瞬時に蒸発するという人気、実力ともに兼ね備えた落語家。談志をして俺よりうまいと言わしめた落語をできる落語家。
加えて「下町ロケット」では、経理部長として鼻の穴を広げて社長を補佐し、佃製作所を支える役を熱演している。まあ、ルーズベルトゲームでの悪役社長も憎々しくてよかったけどね。
この本は「談春のセイシュン」として雑誌連載されていたものを改題して単行本にしたものですが、いや面白かったですね。

談春が17歳で高校を中退して立川談志に弟子入りしてから二つ目、真打になるまでのエッセイというか自伝なのですが、語られていることはすべて談志との絡みです。その意味では自伝ではなく弟子から見た談志です。
ちなみに「赤めだか」というのは談志が飼っていた金魚がいくら餌をやってもちっとも大きくならないので赤めだかと呼んでいたことから。当時の弟子たちの姿を彷彿とさせますが、それでも立派な金魚になっていくのです。
それにしても師匠の談志のやること言うことの無茶苦茶さはまさに破天荒。談志は「修業とは矛盾に耐えること」と言っていたが、月並みだけど本当によほどの覚悟がないとやってられない。いざ弟子入りすると現実に耐えきれずに辞める奴も多い。談春は弟子に厳しいと言われているそうだが自分が体験したことに比べたらまだまだと思っているのではないだろうか。少なくとも談志のような理不尽というか常識で判断できない考え方の人に仕えた身としては厳し胃などというレベルが違い何でもないのだろう。
だが、読んでいると感ずるのですが談志には弟子たちへの愛情がある。それが素直に出てこないのですが、ちゃんと弟子にはわかる。だからこそ続いたんだろうな…弟子は談志に惚れ抜き、談志も自分のところに来た弟子は(素直には絶対言わないけれども)愛情をもって育てようとしているのがわかる人にはわかる。
同世代の落語家では志ん朝というこれまた名人がいたのですが談春は最初志ん朝に弟子入りしようと思っていたのが、ある時談志の「芝浜」を聞いて衝撃を受け談志に弟子入りすることにしたとか。正直わたしも志ん朝の落語の方が上品で色気もあって好きだったのですが、談志が亡くなった時テレビで「芝浜」のビデオを見た時には衝撃を受けました。物議を醸す物言いと行動で目立ちたいだけと思い、それまであまりきちんと落語を聞いたことがなかったのですが、凄かったですね、談志の世界に引き込まれてしまいました。
「落語は人間の業の肯定だ」と常々言っていたのですが、この本の中にそこかしこに出てくる落語に対する考え方は芸のためにわが身を削って精進して突き詰めていったことから出てきたものでしょう。弟子たちにそれが理解できるのには時間と経験が必要なんでしょうけど。
それにしても談春も相当ハチャメチャです。中学生時代から競艇場に通いつめ、競艇選手になりたかったけど身長オーバーであきらめざるを得なかったとか。この本には書いていないけど今まで競艇につぎ込んだお金は軽く億を超えるとか。それでも二つ目になる時に一か八かで競艇で儲けて羽織を買おうとしたけどなかなか買えない。戦うことさえできなかったのだ。博奕の才能とはいくら儲けたかではなくて、いくら買えたかだと言うのだが、それでは博奕の才能はなかったということだよね。でも今でも競艇通いはやめていないんだろうな。
前座時代からの兄弟弟子たちとの関係も興味深い。同期としては談秋というまじめだけど要領が悪くてパニックになる人がいたのですが、結局辞めてしまいます。談秋との別れのシーンは泣けてきます。
兄弟子には志の輔がいるのですが、大学を出て仕事を辞めて弟子入りしただけあって立川流の二つ目になる基準(古典落語の持ちネタ50席、鳴り物ひととおり、歌舞音曲を理解している)を2年弱でクリアーし才気煥発、談志も一目置いていたのでしょう。同じく大学卒で弟弟子ながら歳は上で女房持ちの志らくとの関係は微妙。二つ目には同時に昇進しているのですが、真打には志らくが追い越しています。その時の葛藤というか談志の対応を含めて人間の業というのは深いものですね。でもその時に救われたのは、さだまさしの「長所をのばすことだけ考えろ」というアドバイス。なんとなくさだまさしと談春ってうまく結びつかないのだけど人の縁とはいろいろですね。
談春が真打に挑戦する時に出てくる米朝師匠、小さん師匠、そして談志、みんな談春の芸を認めているからこそなんでしょうけど気さくで親切で芸に真剣に取り組んでいる素敵な人たちです。ここで明らかにされる小さんと談志の関係というか二人のそれぞれの思いには胸を打たれます。これは直接双方と掛け合った談春しかかけなかったのでしょうけど、お互いに立場があって素直にはなれないけど心の中では深く思っているんです。
いや~チケットは取れそうもないけど一度生で聞いてみたいものです。名古屋でも中電ホールでやっているんですよね。
コメント (1)
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