怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「巨龍の苦闘」津上俊哉

2015-12-26 07:44:49 | 
今、早晩中国のGDPはアメリカを抜いて世界一になるといわれつつも、一方で日本人の願望もあるのだろうが中国経済崩壊論が書店の棚を席巻している。一帯一路の提唱やAIIBの設立、軍事外交攻勢と同時に国内での最近の相次ぐ大事故や株価の暴落、巨額汚職の摘発と経済成長率の鈍化、いったい本当の中国はどうなっていくのだろうか。

中国は人口13億人を超える大国であり国土も広く都市と地方の格差は大きく、その中で共産党一党独裁体制を維持している。全体像をきちんととらえることはできないのだが、今や押しも押されもしない大国になった以上、中国の将来は日本のそして世界の将来のあり様に大きくかかわっていくことになる。
この本は新書本ながらそんな中国の現在と未来を幅広い視点で見ていて数多の中国論の本の中でも新書版ながら出色だと思います。
現在習近平は小平以来の権力を掌握していますが、その権力をもたらしたものは体制の危機感。今のピンチを強いリーダーに託しているのです。
小平の改革開放以来中国経済は驚くほどの成長を遂げリーマンショックに際しても4兆元もの財政刺激策で世界経済を牽引してきたのですが、さすがに事ここに至ってひずみを覆い隠せないようになってきています。このままでは体制が持たないという危機感が高まっているのです。
中国には左派という共産党独裁堅持で西側とその普遍的価値観に強い警戒心を持ち、既得権益を持つ紅二代と呼ばれる人たちが隠然たる力を持ち、だからこそ危機感を持った勢力がおり、習近平のコアな支持者となっている。
振り返ってみると中国の経済政策は右派と左派の間を振り子のように揺れ動いているのだが、中国共産党としては揺れ動く中で3つの運動法則があるという。
第1法則 ピンチが来ないと、政策の舵を「右」に切ることができない
第2法則 政策を「右」旋回させるときは、「左」への補償が必要になる
第3法則 ピンチが去ると、政策を「左」へ戻す復元力が働く
今、市場経済原理を逸脱する政策を行う中で、国有企業の非効率は限界にきており、規制緩和や金利自由化といった市場経済志向を取らざるを得なくなってきている。その場合第2法則により習近平は「左」への補償をせざるを得ず言論思想取締りは締め付けを厳しくしている。
高度成長の結果人件費はアジア諸国の中でも高くなってしまっている。高齢化も進んできており、人口ボーナスは消えこれからは人口減によるオーナスの時代になりつつある。中国のGDP成長率は公式発表では信頼性がなく諸説があるが、すでに5%を割り込んでいると推計される。不効率な投資や過剰な債務の積み上がりがもはや隠しようがなくなってきており、金融危機の入り口に立っている段階に来ている。習近平政権も経済の下振れを認め国有企業改革や地方財政改革も始動させようとしている。だがここでの保守派の抵抗は強い。
ここで今後の経済シナリオを短期(向こう5年)・中期(2015年から2025年)・長期(2025年以降)で分析しているのですが、投資の元帥による経済の下振れの苦痛をどの程度我慢する(できる)かが鍵。
中国の景気下支えを最小限にとどめ2~3%の成長率で調整を進めれば中期には5%成長になるというのが楽観シナリオ。
逆に投資・負債頼みから脱却できずに現状維持しようとすればバランスシート毀損が臨界点を超えハードランディングになり世界経済も大きな影響を受ける(日経平均株価も1万円割れ!)というのが悲観シナリオ。
両極端ではなく最も可能性が高いのが、強めの中央財政出動で景気を下支え、当面政府統計上は6~7%(実態は3~5%)の成長を維持し、中長期的には2~3%の成長で財政制約も顕在化し労働人口の減による影響をカバーできない。結果アメリカGDPとの差は3分の2程度にまでは縮まってもそこまで。逆転してGDPが世界一になることはない。
短期的に中国経済が崩壊することはないみたいですが中長期としてみると予断を許さないみたい。
中国は外貨準備は世界一と言われていたがほとんどが他国のひも付きというか投資からなっていて、今成長が限界にきていると引き上げてしまう危険性がある。通貨当局は元安を介入してまで防いでいるけど、人件費の高騰から輸出産業が壁にぶち当たっているのなら元安に誘導すべきなんだろうけど、そうすると先行き元高を見込んで流入してきた資金が逃げてしまうのでジレンマなんでしょうね。
しかし政策を右旋回しようとすれば「左」への補償が必要になり国民の支持も取り付けなければならない。問題は中国経済が第二次産業主体から消費やサービス産業主体に成長が依存する構造に変わろうとするとき、「左」への補償が大きな桎梏になるのではということなのでは。その意味で習近平体制は矛盾をはらんだ危うい道を歩まざるを得ないのかもしれません。
日本との関係で言えば危うい道を歩んでいるあと10年は緊張感をはらんだ関係が続くことになるのかも。政治体制と経済政策が不可分な国だけに厄介だけど冷静に付き合っていかざるを得ないということですか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする