【奈良でパネルディスカッションと音楽コンサート開催】
〝音楽療法先進地〟といわれる奈良市。1990年代に奈良市音楽療法士認定制度がスタート、市社会福祉協議会内には音楽療法推進室が設置された。現在も多くの音楽療法士やミュージックメイト(登録ボランティア)が音楽を通じて高齢者や障害者、介護者の健康増進、生きがいづくりのために活動する。その奈良市で16日「人生と音楽―音楽がこころの拠り所となる瞬間(とき)」と題した音楽療法シンポジウムが開かれた。
会場はならまちセンターで約200人が参加した。第1部はパネルディスカッション。日本音楽療法学会近畿支部長の鈴木暁子氏がファシリテーターを務め、屋敷芳子氏(認知症の人と家族の会奈良県支部代表)、加藤大輔氏(中部学院大学助教)、宝田裕士氏(小学校特別支援学級担当教員)の3人がパネリストとして参加した。
屋敷氏は「認知症の症状を和らげる方法には2つある。1つは薬物療法、もう1つは音楽など非薬物療法」として、昨秋の認知症フォーラムで愛唱歌「愛の讃歌」を独唱した60代の認知症患者のことを紹介した。発症したのは高校で英語教師をしていた50代の頃。「今は最初ぐらいしか歌えないかも」ということだったが、伴奏に合わせ最後まで見事に歌いきりアンコールにも応えた。屋敷氏は「認知症で次第に何にもできなくなっているのに、まだこういうところもあると感じたとき、本人にも介護する人にも大きな励ましになる」と話す。
臨床心理士や精神保健福祉士の肩書きを持つ宝田氏は「音楽療法士と福祉関係者が力を合わせると、よりしっかりと人生に寄り添うことができるのではないか」と話し、小学6年のとき統合失調症を発症した男性のことを紹介した。その男性はその後大学を卒業、就職するが、「彼が苦しいとき一番支えてくれたのが音楽。一時はプロになりたいと自前でCDを作ったこともあった」そうだ。宝田氏は8年前、がんでまだ若い最愛の妻を亡くした。つらい経験からフラッシュバックが起きる。半年後、友人に誘われジャズ喫茶に行った。それをきっかけに音楽仲間の輪が広がり、今では趣味のエレクトリックベースの演奏で年間50本近くのライブ活動を行っている。
第2部は音楽療法の現場で出会った人たちの思い出の曲でつづる音楽コンサート。「リンゴの唄」「長崎の鐘」「風になりたい」「翼を下さい」など7曲を会場も一緒になって歌った。いま70代後半の男性は幼少のころ母を病気で、父を戦争で亡くして1人ぼっちになり、寂しいときには「長崎の鐘」をくちずさんだという。「広汎性発達障害」と診断された4歳児の母親はその直後、車の運転中に聞いたTHE BOOMの「風になりたい」に、「よし、この子と一緒に生きていこう」と励まされた。「♪大きな帆を立てて あなたの手を引いて 荒れ狂う波にもまれ 今すぐ風になりたい……」。