【生駒市の往馬大社、焼け焦げた幹から葉が青々と!】
勇壮な火祭りで有名な奈良県生駒市の往馬(いこま)大社。ここを初めて訪れる参拝客には、拝殿前の杉の無残な光景に目を奪われる人が多い。黒く焼け焦げた幹の姿が痛々しいからだ。だが、よく見ると上のほうの枝からは青々とした葉が茂る。その脅威の生命力には誰もが畏敬の念を抱くに違いない。
往馬大社の歴史は古い。最も古い記述は「総国風土記」の雄略天皇3年(458年)というから、それから1550年を超える。正倉院文書の記載から、奈良時代には朝廷との関わりがあったことも知られる。鎮守の杜は奈良県指定の天然記念物。火祭りは2011年、県の無形民俗文化財に指定された。
その杉は参道の階段を上ってすぐ右手、拝殿のほぼ正面にある。神職の方のお話によると、戦前に落雷に遭い、さらに40年ほど前には火災にも遭った。火事の原因は不審火とも。幹は目通り直径が1.5m近い。高さは13~14mといったところか。幹の下部は半割の竹で覆われ、高さ2mほどの所に注連縄が飾られている。根元の周りを赤い柱の絵馬掛けが取り囲む。説明書きにはこうあった。「災いに負けない強い生命力を持った御神木として参拝者の信仰を受けています」。
本来の御神木はその杉から10mほど離れた所にある杉の大木という。その説明書きは「鎮守の杜の木々の中で最も背が高く、杜全体を眺めると1本だけ飛び出して見えます。このような木々を神籬(ひもろぎ)といい、神の宿る木として信仰されています」。ただ雷が落ちるということは、その時点では拝殿前の杉が最も高かったのかもしれない。それとも古くは2本の杉がセットで〝夫婦杉〟として御神木だったのだろうか。