kenroのミニコミ

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難民という近しい課題 『世界』と『美術手帖』の特集から

2019-11-17 | 書籍

ちょうど時宜を得た特集が関連性のない2誌で掲載された。『世界』12月号の「難民を追い詰める日本−認定率0.4%の冷酷」と『美術手帖』12月号の「「移民」の美術」である。

難民条約(1951年)及び難民の地位に関する議定書(1967年)によれば、難民とは「人種、宗教、国籍、政治的意見、特定の社会集団に属することの少なくともいずれかの一つの理由で、迫害を受ける恐れがあるという十分理由のある恐怖を有する者」である。日本政府も81年に加盟、82年に発効している。日本の難民認定率の低さは極めて低いことは有名だが、では認定されなかった人たちはどう扱われているのか、あまり知られていないし、多くの人が知ろうとしない。法務省の出入国在留管理庁の収容所に収容されている人が多い。中には3年を超えて収容されている人もいる。刑事裁判で有期刑が確定した場合は終わりが見えるが、犯罪者でもないのにいつ終わるとも知れぬ収容の実態に迫ったのが「難民を追い詰める日本」である。極度の閉鎖状況の中で心身を病む者も続出、ハンガーストライキをおこなった者は一度収容を解き、その間に食事をさせ、2週間後に再収容するという酷さ。収容を解かれている間は就労も都道府県を越えた移動も許されない。入管の意図は明らかで、自分から帰国して欲しいのだ。しかし、政治的迫害から流れてきた人たちは帰国すれば死も含む身体の危険にさらされる。だから帰るに帰られないのだ。しかも帰国費用は私費である。当然絶望のあまり自殺する収容者も出る。2018年では病死1件、自殺1件、自傷行為43件にも及び、自殺は4月に茨城県牛久入管でのインド人男性の件である。仮放免申請が不許可となった翌日命を絶った。長期収容は収容者の心身に悪影響を及ぼすことが明らかであるのに、ここ数年長期収容が常態化しているという。「難民を」では収容経験のある「仮放免者」座談会や自殺を図った人に面会したジャーナリストのルポ、難民申請に奔走する弁護士の「まず、人間として迎えよ」原稿などからなる。

「難民」と近しい言葉に「移民」がある。「移民」は自ら望んでというニュアンスを感じるかもしれないが、日本からのブラジル移民や満州移民など、現地での現況を偽って駆り出した国策移民もある。また、親が移住したために連れてこられた子どもは自らの意思とは関係ない。さらに日本には強制連行や徴用で連れてこられた朝鮮半島出身者の子孫、在日コリアン(「韓国」も「北朝鮮」も含む。)が多数住む。そして近年では技能実習生をはじめ日本で仕事を求めてやってきた南アジアや東南アジア出身者も多い。日本に住まうこれらの人たち、そしてブラジル移民、太平洋戦争下「敵国人」として強制収容されたアメリカの日本人などのアート状況を俯瞰するのが「「移民」の美術」である。アート専門の雑誌でありながら現代日本の「移民」たちのフォトポートレートが秀逸だ。彼らはアーティストではない。しかしその短い言葉が日本での状況を物語っている。コンビニで働いていた経験のあるネパール人は「お客様は神様」に疑問を呈す。客側に明らかに非があっても店側が謝らないといけない。彼は言う。「店員である前に人じゃないですか。」と。

在日朝鮮人3世や沖縄出身ペルー移民の子、ガーナ人を父に持つ現役の芸大生など、現在表現者として活動する彼ら彼女らの実相も興味深い。中でもあいちトリエンナーレで「表現の不自由」展中止に抗議し、自らの出品を中止した田中功起と同出展者高山明のの対談は現実政治や社会と不可分の関係にあるアートの現在を映し出す。田中の作品は中止が解除された後見ることができた。外国にルーツを持つ「日本」人が語り合い、共同のドローイングを仕上げるというもの。そこで現されるのは、日本や「外国」という限りなく措定し難いアイデンティティ。つまり、国籍や人種、民族に回収し得ない「個」をあぶりだした。本人にとって日本人と言われようが、日本人でないと言われようが「自分」にかわりはないのにどこか求められる「日本人性」。島国根性に塗られたこの国で彼ら彼女らの居場所を作ることができないもどかしさも感じる。

翻って、「難民」を自己の元々の帰属地にいることができない、ディアスポラ、と捉えるならば東日本大震災以降、昨年の広島や岡山の大水災、そして今年の台風15号や19号などで自宅を終われ避難生活を余儀なくされている人たちなど、この国には「難民」が多く存在する。これが日常になっている現在、正確な意義での狭義の難民にまで視界が及ぶであろうか。2誌の特集で改めて、そして再度問われているのだ。

 

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