フルール・ダンテルディ

管理人の日常から萌えまで、風の吹くまま気の向くまま

Dグレ「クロスXラビ」小説『wish』④

2009年04月26日 | Dグレイマン関連
注意!!
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。

  
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 いつも通り店が始まるより大分早めに来て、ラビはぶらぶらと手持ち無沙汰そうに店の中をうろついて、それらしいものがないかと見て回った。誰もいない廻し部屋も1つ1つのぞいて確認する。庭や裏方の棟もうろつくが、すでに夜中に何度も見たところだし、目当てがあるわけでもないので、どうにも焦点がぼやけている感覚が否めない。やはり、その現象が発現しないとどうにもならない気がする。
(それに、部屋住みの女性たちの私室にはなかなか入れないしなあ……)
 住込みの女性たちは、自分の部屋で客の相手もするので、夜の間は空くことがほとんどない。部屋主が張見世に出ているときには空くが、ラビが抜け出したわずかな時間で探れたのはたった2部屋だった。
 ラビは2階の欄干に腰かけ、どうしたものかとぼんやり考えていた。
「もみじ」
 誰かと思えば、朝声をかけてきた遊女、ささめだった。店にいる遊女たちの名は、張見世にいる間に覚えた。先に名を呼ばれて出て行くのを一度見れば、覚えられる。向こうがこっちを知っているのは、やはりこの外見のせいで目立ったからだろう。
「あんた、そんな格好してると、遣手に叱られるわよ」
 ラビはうわっ、と欄干に載せていた脚を下ろした。ついズボンを穿いているときのように、片脚を上げた上に肘をついていたので、裾が開いて太腿まで露わになっていた。下着を穿いていないが奥までは見えなかったよな、と焦っているラビを尻目に、ささめはラビと同じ欄干に腰かけた。
「……予約が入ってるんだって?昨日の男から」
 ラビはうなずいた。ささめはまだ長襦袢1枚の姿だった。秋も深まりつつあったが、まだ昼間は時折汗ばむ陽気のことがある。今日も暖かい日射しが注いでいた。ささめはふいと横顔を向け、庭を眺め下ろしながら、結い上げた髪から落ちた後れ毛を指で直した。
「あの男は、あんたを連れて行ってはくれないの?」
 ラビは答えに窮した。ここへ来た理由には貧しい家に送金するためという答えを用意していたが、クロスのことは予定外だったので、何も準備していなかった。
「……彼は仕事で世界中を旅していて、その途中で寄ってくれただけだから……。それに、そんなことをしてもらえる身ではないです。もうとっくに捨てられたんだと思っていたし……」
 適当な話をとっさには思いつけず、曖昧にぼかしたが、話しながらラビは、でっちあげるどころかまるっきり本当のことじゃないか、と自分で呆れた。
「…そう……。一緒にはなれない男なの……」
 その声に表面的でない同情を感じて、ラビは彼女を見つめた。
「わたしの父はロシアの地方貴族で、わたしは使用人の息子と幼なじみのように育って、やがて愛し合うようになったわ。彼はわたしにふさわしい男になるって言って、都会の学校に入学した。最初のうちは頻繁に手紙のやりとりをしていたけど、次第に彼からの返事は来なくなってしまった。そのうちわたしは父の命令で婚約させられ、彼に戻ってきてほしいと手紙を出したのだけれど、返事はこなくて……わたしは家を飛び出して彼のもとへ行った。……あとは想像がつくでしょ」
 他に女ができたのか、勉強をあきらめて身を持ち崩していたか、そんなところだろう。
「今さら家には帰れず、持ち出した金や宝石も尽きて、かといって働く方法なんて知らない貴族の娘に売ることができたのは体だけ。とうとうこんなところまで来てしまったわ。なのに……今でも彼のことを夢に見るのよ。夢の中でさえ、わたしはあの頃と同じことを思うの。行かないで、戻ってきてほしいって……」
「………」
 彼女の身の上を、世間によくある話だと片づけることは、ラビにはできなかった。自分は戦争や政治や歴史のことはよく知っている。けれど、愛だとか恋だとかについては、多分何も知らないのだとわかっていた。彼は生まれて初めてクロス・マリアンに恋をして、彼との関係以外知らないのだから。それでも、その男の愛情を失ったと知ったときの彼女の気持ちは……わかった。クロスが2か月経っても3か月経っても、何の連絡もなく帰ってこなくて、やっぱりオレじゃだめだったんだ、オレに飽きたんだと思って、打ちひしがれたときの自分の気持ちに、きっと彼女も共感してくれたのだという気がした。
「そうだ、あんたに見せてあげる。ちょっと待ってて」
 彼女は自室に引き返すと、小さな筒のようなものを取ってきた。鈍い銀色の筒の表面には、細密な幾何学模様と草花のレリーフが彫られている。
「こどもの頃からの宝物で、これだけは手放さなかったの。のぞいてみて」
 その一言で、それが何かわかった。ラビは、筒の蓋の穴に目を当てた。
 無限に拡がる三角で構成された空間。色とりどりのガラスや小さな貝殻が、6片の花のような図形を作り出す万華鏡だった。
「中に入ってるの、ガラスじゃなくて宝石のかけらよ。ガーネット、サファイヤ、エメラルド、アメジスト……。本当はちゃんとカットされた大きな粒もあったんだけど、それは売っちゃったから、海岸で拾った石や貝を足したの」
 波に洗われたのだろう、きれいな卵形をした黒いシルエットが2、3個見えた。
「その石、万華鏡だと黒くしか見えないけど、外に出すとすごくきれいなのよ。黒曜石みたいなガラス質で、中に金色の星みたいな、砂金みたいな粒がたくさん入ってるの。出してみようか?」
 くるくると回して見とれていたラビは、万華鏡をささめに返した。彼女は底の蓋をはずそうと止め具に爪をかけた。
「もみじ!ささめ!」
「ひゃっ」
 ふたりは飛び上がった。廊下に遣手が仁王立ちしていた。
「いつまで油売ってるの!もう時間だよ!」
「すみません!」
 大慌てでささめは小走りで自室に戻っていき、ラビは1階へ降りようとした。
「もみじ、あんたは見世に出なくていいから、3番の部屋で待ってなさい」
「……はい」
 指示された部屋は、上客用の個室だった。ラビは新入りなので本来個室は使えないが、予約の場合はそれだけ料金を高くとるので、こちらに回されたのだろう。
 部屋は、8畳に座卓と座椅子、几帳で目隠しした奥には布団が敷かれており、廻し部屋とは比較にならないほどゆったりしていて、一見すると普通の宿のようだ。
 ラビは、脚を投げ出して座椅子に座った。
 てっきり一夜きりでまた行ってしまったのだと思ったのに、今夜も来てくれるなんて、嬉しいけれど、怖くなる。行ってしまう場面に遭わずに別れられたのなら、それきりあきらめもついたのに、こんなふうにまた会ってしまったら、もう1日、あと1日だけ、と離れ難くなって、何倍にも辛さが増してしまうだろう。
(あんたは……優しくて、ほんとひどい男だよな……)
「もみじ、旦那さんがお見えです」
 ラビは慌てて椅子から飛び退き、畳の上に苦手な正座をして待った。
 引き戸が廻し方によって開けられ、クロスが軽く身を屈めて入ってきた。ラビは息を止めた。元帥を表す金糸で縁取られた団服が、これほど似合う男はいない。
 クロスが脱いだ上着を、ラビは立っていって受け取った。旅の間、クロスや師匠の身の回りの世話はラビの役目だった。食事作りや簡単な裁縫は師から習った。「ブックマン、エクソシストである前に、自立した人間として生活能力がなくてはならない」というのが、師の方針だったからだ。
 上着を壁のハンガーに掛けるとき、ふわっと煙草とクロスの香りが鼻腔を満たした。その香りが記憶を呼び醒ます。……まだクロスに片思いをしていた幼い頃、クロスが出かけてしまったとき、置いていった荷物の中からこっそりと彼の服を取り出し、それを抱きしめて彼の香りに包まれながら眠った日々。あの頃は、彼が帰ってくることを疑ったことなどなかった。だから、すべての荷物を持って、何一つ残さずに彼が姿を消したとき、二度と彼は戻ってこないのだとようやく理解して、どれほどショックだっただろう。何一つ、ハンカチーフ1枚すら残していってくれなかった。
「……おい。中身がここにいるのに、そんな抜け殻にしがみついてることはないだろう」
 我に返りラビは、自分が無意識に団服を抱きしめていたことに気がつき、うろたえた。振り返ると、座椅子に胡座をかいたクロスが、困ったように笑った。
「……泣くな。おまえは大丈夫だろうと、自分に都合よく考えて行動したオレが悪かったと、昨日反省した。だからこっちへ来い」
 言われて初めて、ラビは自分が泣いているのに気づいた。クロスの広げた両腕の中に身を投げ出すようにしがみつき、胸に顔を埋める。
「泣き虫なのは、相変わらずだな」
「……あんたの……前だけだ、よ……っ」
 ラビは思う存分、クロスのシャツの胸を濡らした。
 背を優しく撫でられ、髪に唇が落とされる感触に顔を上げる。しっとりした口づけに包まれ、ラビはそれに応えながら、両腕をクロスの首にまわして自ら引き寄せた。
「失礼いたします」
 と、戸が開いた。動転して硬直したラビを、クロスがその腰を抱いて膝の上に載せたままのところへ、使用人が食事を運んできた。座卓の上に重箱とお銚子などを並べ、男はふたりに視線をやることなく出て行った。
「おまえ、腹がすいているだろう。食べろ」
「え……あんたのメシじゃないのか?」
「オレはこれがあればいい」
 クロスは徳利を持ち上げてみせた。
 早く出かけてきたのでおやつをつまんできただけで、食事らしい食事をとっていなかったラビは、仕出しの弁当の蓋をとって料理の匂いをかいだ途端、空腹を自覚した。
 中国での生活が長かったラビは──師匠も修行したという拳法道場に放り込まれたのだが。同様に行く先々の国で、ラビはいろいろな体術を身につけさせられた──箸を使って食べ始めた。その横から、手酌で日本酒を飲むクロスが、外国人だからと添えられたフォークを伸ばして、ひょいとおかずをつまむ。ラビが締めに緑茶を飲んで満足のため息をつく頃には、クロスもお銚子を2本とも空け終わった。
「こら。寝るな」
「ん……」
 クロスの胸を背もたれにして、目蓋が重くなったラビは生返事をする。
「寝るのはやってからにしろ」
 背後からまわされた手が、片結びにして垂らした帯を解いていく。その衣擦れの音でラビは目を開けた。
「……オレ……イノセンス探さなきゃいけねぇんだけど……」
 一応、言い訳がましく呟いてみる。
「だからこんなに早く来たんだろうが。やったあとひと眠りしても時間があるようにな」
「……」
 昨日、最後までしなかったことといい、彼の任務や体のことを考えてくれてはいるのだろうが、きっと「ちゃんとした大人」なら、そもそもそんな相手とすることはやめておくだろうと考えて、ラビは頬が熱くなるのを感じた。
「なあ……」
 上半身を捻って、クロスの首に腕をかける。
「オレのために来たんじゃなくて、あんたがオレを抱きたいから来た……?」
「最初からそう言ってるだろう。本気なのはおまえだけだと」
「……オレも」
 クロスの口の端に、キスをする。
「あんたが好き。大好き」
「……くそかわいいこと言いやがって」
 クロスが獰猛な笑みを見せる。戦いに臨むときのような──それもアクマのような雑魚ではなく、千年伯爵を前にしたときぐらいしか浮かべない、その本気の表情が、ラビは一番好きだった。


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 次回はH突入です。いきなり反転してますが、記事がないわけではありませんので、ちょっと見て「あれ?ないや」と他へ移動しないでくださいね~(笑)


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 次の日曜(5月3日)は東京にお出かけ中ですので、土曜にアップします。ヨロシク