その日、楽しみにしていた音楽会へ向かっていた
前夜親しい友人Kさんから、ご自分が育てているネコの様子がおかしい
「半分虹の橋を渡りかけているように思うの」
とご本人が猫を抱きかかえ意気消沈した写真が送られてきた
少し前からかなり弱っているということは知らされていたが、昨日今日という感じではなく、Kさんも家を留守にして仕事で飛び回っていた
ロシアンブルーの猫がKさんのもとに来て18年になる
美しいけど、気の強い子で人に甘えるというそぶりは見せず、撫ぜる場所が気に入らないと「しゃー」とかみつくようなことをしていた
飼い主と子供の時にショップから購入の時連れ出して抱っこしていたOさん以外の膝には乗らなかった
潔癖症というか、気位の高い猫だった
チャ子ちゃん先生には抱かれたいという素振りは見せなかったけど、机に就くとノートやアイホンの上にわざと坐り、「どいて」というとシャーと手をかむ
食事の時は食卓に上ってきて、皿の中の物に口をつけたり、わざわざ前を何回も徘徊する
飼い主は
「なんで比佐子さんの時だけそうやって邪魔するの?」
と𠮟って下におろすが、そんなことに肩えずまた上がってくる
ある時から
机の上に何もない時は美しい目を見開いてじっと私と視線を合わす
何か問いたいことが在るらしいのだが、あいにく凡人のチャ子ちゃん先生にはわからない、そうするとじれてシャーと手をかむ
そういう繰り返しのお付き合いだったけど、送られてきた写真を見たとき
「もう行くよ」
というメッセージを受け取ったように思ったのだ
コンサートホールを目の前にして、踵を返しKさんの家に向かった
そのことを告げると車で駅まで迎えに来るという
「いや万が一ということが在るかもしれないから、タクシーで行く」
それが正解だった
家に入って名前を呼んだら力を振り絞り体を起こしてにゃーにゃ―と声を出す
暫く二人で話していたら、大きな声で一声「にゃーん」と澄んだ声を張り上げて目をつぶった
その後痙攣が始まり、失禁、口からも水が出るそれも長くは続かず、静かに息絶えた
命が途絶えるときに立ち会うのは生まれて初めてで、命の終わりの厳粛さを感じた
何より一人になってしまうKさんを案じて駆け付けたのだが、猫ちゃんも私を待っていてくれたのかとありがたさに胸が詰まった
ふと窓の外を見たら近所の野良猫が二匹きちんと坐って一緒に見送っていた
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