呼吸器内科医の傍ら、30余年にわたり漢方を 研究、臨床にも応用している北海道漢方医学セ ンタ-・北大前クリニック(札幌市北区)院長の 本間行彦さん(71)=北大名誉教授=か゛1月、 著書「漢方が効く-北大名誉教授30年のカルテ から」を、北海道新聞社から刊行した。漢方とは どんなものか-。西洋医学と漢方医学の“二足 のわらじ”を履き続ける本間さんに聞いた。 -なぜ漢方の世界に足を? 「勉強を始めたのは北大医局員時代の1976年、 漢方薬に保険がきくようになったのが契機で、初 の患者は私の父。父は老人性便秘から腸閉塞* 繰り返し、西洋医学ではお手上げだった。わらにもすがる思いで漢方 薬の一つ、八味地黄丸を投与した。2日目から便が出るようになり、腸 閉塞がなくなった。前立腺肥大による頻尿、低血圧、不整脈も改善し、 歩き方や肌も若返った。一つの薬でほとんどが治り、私もびっくりした。 それからも、西洋医学で治らない患者が次々と目の前で良くなり、漢 方の世界にのめり込んでしまった」
患者で異なる病気の根源 -漢方医学とは、どんな医療なのでしょうか。 「人をてんびんにたとえると、左右どちらか一方に傾いたのがいわゆる 病気の状態。体にいろいろなゆがみが生じると傾きが起きる。その傾 きを直すのが漢方だ。父の腸閉塞もゆがみの結果。だからいったんゆ がみを直すと、その人の病気がすべて治るというわけだ。ただ、腸閉 塞で八味地黄丸を処方すれば、だれでも父同様に治るかというと、違 う。ゆがみは各自異なるからだ。それを見分けるのが『証(しょう)』と呼 ぶものさし。漢方は証によって薬が決まる。私たちは患者の状態や体 質などを総合的に判断し、証をつかまえる。これがぴたりと合えば治る。 証をきちんとつかむ、これが漢方の真髄、腕の見せ所だ」
「四診」で見極め適切に処方 -診断は、具体的にはどのように行うのか。 「望診、問診、聞診、切診の『四診』と呼ぶ独特の診察法を行う。望診は、 顔つきや体格などを、目で診る。問診は、家族や仕事など生活環境もよく 聞く。聞診は、声の調子や体臭など、耳や鼻で診る。切診は、患者に触 れる触診で、脈や腹や舌などを診る。医師でないとできない医療行為だ。 『漢方は効かない』は誤解。証をきたんとつかまえれば8~9割は改善す る。『漢方薬は1-2年のみ続けないと効かない』も間違い。効果は通常 1~2週間で表れる。体質改善は2-3ヵ月が目安。副作用はゼロではな いが、軽い例が多い」 -二足のわらじで30余年。これからの目標は。 「漢方を求める患者が増えている。漢方は立派な治療法。西洋医学と遜 色ないことを、広く知ってもらいたいし、漢方を知り、治療できる医師が増 えてほしい。かつて漢方は大学でゲテモノ扱いされた。隠れて勉強した 時代に比べれば変わった。精通する医師も少しずつだが増えている。私 は目の前の患者が、西洋医学でも漢方でも、どうすれば良くなるかを考え る。結果的に9割以上が漢方の恩恵を受けられるように、今後も力を尽く したい」
漢方が効く―北大名誉教授30年のカルテから 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2008-01 |