脳に知らせる「警告」=當瀬則嗣 解説
最近の学生はダメな人や場の雰囲気を無視するような人を「痛い 人」と表現するようです。何か人への思いやりが感じられず、私は好 きな表現ではありません。「痛い」という言葉は、文字通り人が苦痛 を感じたことを指すものです。人は、体のさまざまな場所で痛みを感 じます。打撲、けがに始まって、頭痛、筋肉痛、節々の痛み、ノドの 痛み、腹痛、胸痛など、実にたくさんの傷みがあります。でも、一口に 痛みの様子は異なっています。たとえば、手などを切った時に感じる 痛みと、運動しすぎたときに感じる筋肉痛とを比べると、感じ方は随 分と違うものです。さらに、これらの痛みと比べて、おなかをこわした ときの腹痛は全く違った漢じですよね。手を切ったときの痛みは皮膚 痛覚、筋肉痛は深部痛覚と呼ばれ、痛みを感じるしくみが異なってい るからです。ですから、筋肉痛で使う薬と腹痛で使う薬は全く異なっ ています。でも、人はいずれも「痛い」と表現しますね。これらの痛み に共通なことは、その場所に強い力がかかったり、炎症が起ったりし て壊れそうになったり、すでに壊れてしまったりしたときに、それを脳 に知らせる警告であるということです。警告ですから、痛みは人を不快 にさせます。痛みに無頓着では、体がどんどん壊れてしまうのをその ままにすることになるからです。また、痛みによる苦痛は、人の心をひ どく痛めつけます。痛かったら、痛みを抑えるとともに、早く原因を取り 除いてしまいましょう。痛みを我慢する必要はないのです。 (とうせ・のりつぐ=札医大医学部長)