潜在力 発想自在に新ビジネス
農業に挑戦する企業の業種は年々多様化し、新しいビジネスの可能性を引き出し始めている。緑鮮やかなアスパラ、大人の二の腕ほどに太いナガイモ-。伊達市の北湯沢温泉町にある野口観光グル-プのホテル「湯元第二名水亭」の売店では、近郊の自社農場でとれた農産物が人気だ。宿泊客に生産履歴の見える食材を提供するため、野口観光は今年3月、農業生産法人を設立。50㌶の農地を買収・賃借した。農産物は第二名水亭、登別石水亭などグル-プのホテルに出荷。「宿の食事で出ておいしかったから」と、宿泊客か゛土産用に買い求める好循環ができた。観光業者の農業参入は珍しいか゛、同社はそのノウハウを生かし、修学旅行生の農業体験や直営レストラン、畑の中の結婚式などの事業構想も練る。野口秀夫社長は「農業と観光が結びつくことで、ビジネスの切り口が広がる」と期待する。
人材派遣大手のパソナグル-プ(東京)は昨年10月、兵庫県淡路島で農地を借り、野菜を生産・販売しながら新規就農者を育てる「チャレンジファ-ム」を開いた。担い手不足が深刻な農業に意欲的な人材を送り込むビジネスの確率が狙いだ。研修生はパソナの契約社員として3年間、農業生産や販路開拓の経験を積む。農地法改正による農地賃借の規制緩和を機に、2011年にはファ-ムを10ヵ所に増やす。営業マン経験を生かして農業ビジネスを起こそうと、札幌での会社勤めを辞めて研修生になった青木明博さん(41)=網走管内置戸町出身=は「売り込む最終製品をまず企画し、生産から加工、販売まで自ら手がける仕事をしたい」。妻(33)を札幌に残し、研修に励む。
NPOが「食育」
営利にとらわれず、多彩な活動を展開できる点では、NPO法人の参入も注目される。NPO法人さっぽろ農学校倶楽部の修了生が06年に設立。市内で賃借した農地で、会員30人が仕事や家事の合間に無農薬野菜の生産と直売、学校を訪れての「食育」活動などを行う。年間100万円程度の販売収入は肥料代などに消えるが、宮本隆理事長は「さらに活動の輪を広げたい」と意欲を見せる。東大大学院の本間正義教授(農業経済学)は「農業外の企業や団体のノウハウとの資金力を生かすことで、人材育成や新商品の開発、販路拡大の可能性が広がる。それが農業の閉塞感を打ち破る力になる」と強調する。遊休農地の増加、担い手不足にあえぐ農業の再生に、もはや企業の力は不可欠だ。地域と企業の力が゛融合した、新たな農業モデルの構築か゛急がれる。
メモ: 農業への参入業種 農林水産省は統計上、市町村の指定区域で農業に参入している企業・団体を「建設業」「食品会社」「その他」に分類している。昨年9月現在では「その他」が144社で最多。最近2年間の伸び率も2・1倍と建設業や食品会社を上回っており、参入企業の多様化が目立っている。特に最近は、直売所経営で観光振興を図る第三セクタ-、都市と農村の交流に取り組むNPO法人の参入などが増えている。