あしたはきっといい日

楽しかったこと、気になったことをつれづれに書いていきます。

ペコロスの母に会いに行く

2015-03-25 22:39:18 | 映画を観る
日曜日に観た映画の3本目は、森崎東監督の『ペコロスの母に会いに行く』

岡野雄一さんが認知症のお母様を介護された実体験を元にして描いた漫画を原作としたこの作品は、赤木春恵さんが「世界最高齢での映画初主演女優」としてギネスブックに登録されたことでも話題になっていた。この話はNHKBSでもドキュメンタリードラマとして、イッセー尾形さんが岡野さん(雄一)を演じられていたけど、映画では岩松了さんが演じられた。

母親の介護というのは、僕にとっても他人事ではない。同居している母は、今はまだ身の回りの事を自分でやることができるけど、このままならばいつ介護が必要となるか不安だ。コメディタッチで描かれた作品で、ところどころで笑い出してしまったものの、赤木春恵さん演じる母親の認知症の症状が進んでいく様子を観ながら、母もいつかこのような状況になるのだろうかという思いが頭の中に浮かんでいた。竹中直人さんも巻き込んだ「ハゲ」ネタも…

この映画、僕は素直にコメディ映画として楽しんだ。そういう観方もいいのだろう。「認知症の親の介護を考える映画」なんて言われたら、もしかしたら観ていなかったと思う。でも、コメディ映画として楽しめたから、介護についても考えられたのかな…

「ボケるのも、悪いことばかりではない」といった言葉を雄一が発する。その言葉を彼が言えるようになるまでには相当な苦労を重ねてきただろう。僕も同じような状況になった時、母にそんな言葉を言えるようになりたい。



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そこのみにて光輝く

2015-03-24 21:26:04 | 映画を観る
日曜日に観た映画の2作目は、呉美保監督の『そこのみにて光輝く』、実は最も観たかった作品だった。

もっと言えば、昨年春の公開時に観に行きたかったのだけど、ついつい観逃がしてしまっていた。
なぜ観たいと思ったのだろうと言うと、あの、池脇千鶴さんを見つめる綾野剛さんの写真を視た時、気持ちがそそられた。具体的にどうこうではなく、そう感じた。

映画は、あることがきっかけで仕事を辞め函館のアパートで独り暮らしをする達夫が、パチンコ店で出会った拓児に誘われ彼の家に向かう。そして、彼の姉、千夏と出会う。2人はやがて互いに惹かれ合う。それでも、千夏には素直に達夫に向かっていくことは出来ない。そして、達夫も。この辺りは物語の核になる部分なので、あまり踏み込まないようにしたい。いや、僕が綴る言葉ではとても表現しきれないから…

綾野剛さんは、何かを抱えて動けない、けれども、千夏と出会ったことで変わろうとする達夫の微妙な心情を、彼の持つ雰囲気以上のもので演じていた。彼が演じたからいいというのはあるけれど、原作、そして脚本により作り上げられた達夫が綾野剛さんの演技を通じ確かな像を持ったと言ったらいいだろうか。これも、言葉では言い尽くせない。

池脇千鶴さん、「体当たりの演技」なんて書いたところで彼女がこの作品に込めた思いの足元にも及ばないだろう。自分の置かれた境遇に荒みつつも、芯の純粋さを失っていないと思われる千夏に達夫が惹かれる瞬間、そこにその純粋さが垣間見えた。千夏が高橋和也さん演じる中島に抱かれる…というより、犯られると言った方がいいだろうか、達夫に心を寄せている千夏が中島を受け入れざるを得ないそのシーンが切なくて、千夏と達夫が抱き合うシーンに、互いに求め合う、いや、必要としていることを強く感じた。

菅田将暉くん、僕は彼を『泣くな、はらちゃん』、『35歳の高校生』、そして『ごちそうさん』と、テレビドラマでしか観たことがないけど、前2作、それも続けて放送された2作で全く異なる役柄を魅力的に演じられていた。そして、『ごちそうさん』については多くの方がご存じだろう。自転車の乗り方、たばこの吸い方、飯の食い方などなど、拓児ってこんな奴なんだなと思う。そして、彼も姉と同じように芯の部分に純粋さを保っている。

函館の街の、華やかさとは一線を画した荒んだ場所で、荒んだもの同士が出会い、互いに自分にとって大切な存在だと思い、だからこそ、その相手を守ろうとする。人を好きになるってそういうことなんだろうと、改めて思った。

好き嫌いの別れる映画だと思う。でも、タイトルの通り「そこのみにて光輝く」映画だ。

そう、上映後のプロデューサーの星野秀樹さんと、脚本の高田亮さんのお話も楽しかった。観客の方からの質問には「?」と思うものもあったけど、お2人ともその質問を上手く膨らまして裏話をしてくれた。

そんな映画が昨年のキネマ旬報日本映画ベストワンと、主演男優賞、監督賞、脚本賞を獲得したのは納得できる。
一方、某映画祭についてホームページで受賞結果を確認すると、優秀作品賞にすらノミネートされなかったものの、こちらでは池脇千鶴さんが優秀主演女優賞の1人に入り、少しはまともな部分もあったんだと思った。

まあ、観る上で賞などは関係ない。僕がいいと思えばいいんだから。昨年観逃がしたことを改めて後悔し、ここで観れてよかったと思う。

そして、呉美保さん、高田亮さん、星野秀樹さんによる次回作『きみはいい子』が6月末から公開されるという。トーク終了後に予告編が上映されたけど、こちらも観てみたい。
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旅立ちの島唄

2015-03-23 23:27:00 | 映画を観る
日曜日、所沢で開催された『ミューズ・シネマ・セレクション』で映画3本を観てきた。それは昨日も書いたけど、今日からそれぞれの作品についての感想を書いてみたい。

1作目は、吉田康弘監督の『旅立ちの島唄~十五の春~』(2013年)

この作品は、NHK『にっぽん紀行』で放送された「15歳 旅立ちの島唄」という番組に着想されたという。
沖縄県南大東島には高校がなく、進学する子どもたちは15歳になると島を離れなければならないそうで、番組では島の民謡教室で三線を習っている少女が「卒業コンサート」を迎えるまでの日々を追っていた。その時も、たまたま予告で知り、録画して視た。そして、今もハードディスク内に残してある。

主演は三吉彩花さん。以前、ドラマで大学生を演じていたのでそれくらいの年齢だろうと思っていたけど、その頃はまだ高校生だったそうだ。大人になりかけた感じは、ドキュメンタリー番組で紹介された少女もそうだった。

さって、番組をそのままなぞるのでは映画にはならないのだろう。15歳という多感な時期に、恋や家族の問題を物語に織り込んでいる。上映後に観客の方から、そうしたエピソードが必要だったのかといった質問が寄せられていた。その時僕は「15歳を描くのには必要だったのだろう」と思った。今思うと、少女が家族と離れ離れになるということを深掘りする内容もあったのではないかとも思うけど、多感な時期の淡い恋の話、好きだな。

グッと心を掴まれるような映画ではなかったけれど、じんわりとくる内容だった。三吉彩花さん演じる主人公の優奈、家族や友人、そして好きな人との距離を測りかねる複雑な役柄を、優奈になりきって演じられていた。

上映後のティーチインが終わり、ロビーで監督のサイン会があるというので、パンフレットを購入しその列に並んだ。そして、気になったことを質問させてもらった。それは、エンドロールで優奈たちが乗る船が遠くへ去っていくのをずっと映していた中で、優奈がデッキから船室に入っていくタイミングについてだった。
吉田監督は、そのタイミングを彼女に任せていたと仰っていた。これから始まる高校生活への希望と、島に残る家族と別れる事の寂しさ。同級生それぞれに違っているだろうその比率を、彼女は最後にゆっくりと船室に入っていった。そこから、優奈の父への愛情の深さを感じることができた。
ここはよく見ていないとわからないかもしれないけど…

で、次に観た『そこのみにて光輝く』についてはまた明日以降に…
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味園ユニバース

2015-02-18 23:07:16 | 映画を観る
映画『味園ユニバース』を観た。

先日、兵庫県にバレーボール観戦に向かう途中に難波で降りてぶらぶらしていたら、たまたまこの「味園ビル」を通りかかったけど、映画を観るきっかけはそのことではなく、昨年の『ドキュメント72時間』で取り上げられたのを視てこのビルに興味を持っていたからだと思う。まあ、理由はどうでもいいか…



さて、映画の舞台はもちろん大阪。冒頭の暴力シーンに、こんなこともあるのかもしれないと思いながら、その後、渋谷すばるさん演じる主人公が和田アキ子さんの「古い日記」を歌うシーンで「あの頃は…」と歌いだすところで心を掴まれた。彼は関ジャニ∞のメンバーだというくらいしか知らなかったけど、パワフルな歌声、そしてその存在感の大きさに圧倒された。

そして、記憶を失った彼を引き取り、「ポチ男」と名付けて祖父と共に三人で暮らし始めるカスミ。二階堂ふみさんの演技を始めて観たのは大河ドラマ『平清盛』で清盛の娘、徳子を演じた姿だった。メインの出演者ではなかったけど、強烈な印象を持った。その後、ドラマ『Woman』でも難しい役を演じられていて、今後の活躍が期待される女優さんだというのは僕にもわかった。

映画の魅力は渋谷すばるさんの歌だと思う。「古い日記」だけでなく、劇中で歌われる「ココロオドレバ」と、エンディングで流れる「記憶」も良かった。彼でなければこの歌は活きなかっただろうし、この歌でなかったら彼の歌声が心に響かなかったのではないかと思った。

でも、この映画はミュージカルではない。山下敦弘監督の作品は『リンダリンダリンダ』、『天然コケッコー』、『苦役列車』をこれまで観たけど、この作品でもポチ男とカスミの心の移ろいを丁寧に描いている。中でもスイカを食べるシーンが心に響いた。カスミの心の揺らぎが観ている側にも共振する。細かく書くとネタバレになってしまうので控えるけど、二階堂ふみさんもこのシーンを印象的だったそうだ。

面白かった。クスッとする場面もあったけど、涙を流す方が多かったかな。まあ、それはおじさんだからかもしれないけど。

多くの人に勧めたい作品だ。渋谷さんの歌を聴くだけでも価値がある…なんて言ったら乱暴だけど、それをきっかけに山下監督の作品を楽しんでもらえたら、それも良いのかもしれない。
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神様はバリにいる

2015-02-06 23:25:02 | 映画を観る
映画『神様はバリにいる』を観た。きっかけは、堤真一さんが主演ということだった。

実は、彼が出演している作品をこれまでほとんど観たことがなかった。けれども、朝ドラ『マッサン』で彼が演じる「鴨居の大将」こと鴨居欣次郎という人物がとても魅力的だったからだ。モデルとなったサントリーの創業者 鳥井信治郎氏についてはよく知らないけれど、きっとあんなスケールの大きな人物だったのだろう。

さて、映画の方は、事業に失敗しバリ島に来た演じる祥子(尾野真千子さん)が、現地に住む強面の風貌を持つ大富豪の「アニキ」(堤真一さん)に出会い、彼の思いに触れることで、一度は自殺しようと思っていた気持ちが変わっていくという話だ。

どうすれば成功することができるのか。祥子はアニキからその秘訣を教わっていく。それはとても難しいというものではない。当たり前のことかもしれない。でも、その当たり前ができずに僕らはいつも立ち止まってしまう。「辛い時こそ笑え」というのは僕も以前はそうしていたけど、ここ1年ほどは笑うこともできないほどの状況が続いている。いや、笑ってしまえば大したことではなかったのかもしれない。。

堤真一さんは、派手なTシャツに金のネックレス、そしてバリバリの関西弁でしゃべる「アニキ」を楽しんで演じられていたように見えた。その姿は、どこか「鴨居の大将」に通じるところがあるように感じた。きっと、僕の他にもそう思う人はいたんじゃないかな。

尾野真千子さんを初めて観たのはドラマ『Mother』だったけど、それ以来、シリアスなイメージが強かったけど、この作品ではコメディエンヌとしての魅力を輝かせていた。前々から思っているんだけど、いつか芦田愛菜ちゃんと親子役でコメディをやってほしい。

玉木宏さんは主役を演じる作品も多いけど、こうして脇を固めるのも上手い。そう感じたのは『平清盛』の時だけど、リュウという青年がなぜアニキを慕うのかが何となく伝わってきた。

ナオト・インティライミさん、お名前は聞いたことがあったけど、初めて拝見した。役者として初めての作品だそうだけど、警察に捕らえられたシーンとか、新人俳優さん(?)とは思えなかった。

なかなかすっきりしない日々が続いているけど、久しぶりに心から笑うことができたから、良かったのかな。
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日本の悲劇

2013-09-16 06:04:26 | 映画を観る
昨日は台風が迫り、朝から激しく雨が降っていて、降っていなかったら、いや、小雨だったら車で出掛けようかとも思っていたけど、諦めて近所の温泉に向かった。電車の時間を考えない分、先週の磯部温泉よりはゆっくり入っていられたけど、午後になりお客さんが増えてくると居場所がなくなり、ふと、今日観ようと思っていた映画の上映時間をスマホで検索したら、次の上映まで1時間を切っていた。空を見たら雲は少なかったので、「行こう」と決め慌ただしく温泉を後にした。

『日本の悲劇』は、小林政広監督、仲代達矢主演の作品で、同じ組み合わせでの『春との旅』が非常に印象的だったのを思い出し、前売券を買うことにした。

老親が亡くなっても届を出さず、子どもが不正に親の年金を受け取っていたという事件を受け、監督はこの作品を構想したという。物語は、勤め先からリストラされ妻子にも逃げられた息子に対し「最後にお前にしてやれること」と言い自室に閉じこもり飲まず食わずで餓死するという父親と、その父を気遣う息子との会話を中心に進んでいく。釘を打ちつけ外から開かないようにし、扉をけ破って入ってきようものならノミを使い自殺するとまで言う父に対し、息子はただ部屋の外で泣き、叫ぶことしかできない。

一人部屋の中で父は、息子の嫁が去り、妻が倒れ、心を病んだ息子とともに妻を送り、そして、震災の日に自らも病に倒れたことなどを思い出していた。その中には、息子夫妻が孫を連れて訪ねてきて、妻とともに楽しく過ごす時間もあった。全編モノクロで描かれる中、このシーンだけがカラーで描かれていた。楽しかった思い出が色鮮やかで、その後の辛い日々はモノクロでしか記憶されていなかったということか。僕はそのシーンを見ながら泣いていた。幸せそうなだけ、父親が一人妻の遺影を前に座る姿が哀しかった。そして、自分はこんな楽しい思い出も持たずにいずれこのような時を迎えるのだろうかなどと思いながら…

仲代さんのべらんめえ調の台詞は頑固な父親そのものに思えた。そして、シリアスな内容なのに思わずクスッと笑ってしまうようなチャーミングな面も交えながら。そして、息子を演じた北村一輝さんは、心優しいゆえに傷ついた息子を熱演されていた。彼が演じた『妖怪人間ベム』の夏目刑事を思い出し、余計にそう感じた。

僕は父親と酒を酌み交わすことなどもうできない。そういう意味ではこの息子を羨ましいと思った。突然リストラで職を失うというのは他人事ではない。そして、年老いた母と暮らしている今の自分をスクリーン上の息子に重ねて見ていた。日頃から母の小言を鬱陶しく思っているので、もし母が同じような選択をしたらと考えたら受け入れるかもしれない…いや、そんなことはないだろうと思う。


これを読んでから観に行っても十分に作品を味わうことができると思い、かなり細かく書いてしまったが、これを読んで観た気にさせてしまったら申し訳ない。これから消費税増税をはじめ庶民には厳しい世の中になっていく中、多くの人たちにこの作品を観て感じて欲しい。

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ペタル ダンス

2013-05-12 23:09:08 | 映画を観る
先日、映画『ペタル ダンス』を観た。正確には、先々週と先週の2回に分けて…

石川寛監督の作品は、『tokyo.sora』、『好きだ、』と観てきたが、登場人物の佇まいや微妙な心の動きに魅了された。しかしながら、前作『好きだ、』からこの作品までに6年も経っていて、「寡作」と言えるだろう。

その作風を楽しみたかったのに、早く観ないとと焦り先々週のレイトショーに行ったのだけど、仕事の疲れから途中うとうとしてしまい、ラストの雰囲気が良かっただけに消化不良を強く感じた。

先週木曜日、代休だけど久々の平日休みに食事に出かけた帰り、夕方の回を観た。
ランチのボリュームが多かったせいもあり、冒頭にまたうとうとしてしまったけど、見落としたシーンが近付くにつれ眠気は飛び、スクリーンに集中していた。そして、見落としたシーンが思っていたよりも長かったので、情けなさを感じた…

「離れていても、友だち」とは良く聞く言葉だけど、実際のところはどうなのかな。それでも、映画に登場する3人はそんな友だちに6年ぶりに会いに行く。ふとしたきっかけで出会ったもう一人とともに…

いつも一緒にいたころとは違い、また、それぞれがそれぞれの人生を歩んでいる。そんな中で「友だち」という関係は今も彼女たちを繋いでいる。6年のブランクは遠慮も生み出すが、それを越えて…

ラストシーン。風に乗って舞う彼女たちの姿が「ペタル ダンス」なんだなって思ったら、じんわりと心に響いた。

宮あおいさん、怱那汐里さん、安藤サクラさん、そして、吹石一恵さん。石川監督の演出もあるが、彼女たちの佇まいの自然さに吸い込まれる。特に…と言うと、怱那汐里さんだろうか。ドラマ『家政婦のミタ』や『泣くな、はらちゃん』でその存在感を高めてきた中で、今回の演技は彼女の演技の幅をさらに広げたんじゃないかな。。って、上から目線だね(^^;

誰もが手放しで褒めたたえる作品ではないだろう。だけど、好きな人には実にしっくりする作品だと思う。そんな作品に出会うために、これからも自分の直感を信じて映画館に行こう。

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人は、繋がる

2013-04-20 20:18:10 | 映画を観る
先日、仕事の後に映画『クラウド アトラス』を観に行った。

『スピードレーサー』は観なかったけど、『マトリックス』3部作のウォシャウスキー監督による最新作が公開されると知り、また、その内容がやはり哲学的な色合いを持っていると知り、早く観たいと思っていた。けれども、転職後の忙しさや「上映時間172分」ということに尻込みをしていた。で、そろそろ公開終了と知り、慌てて映画館に向かった。

映画は、19世紀から22世紀、そしてその先に至る間の6つのエピソードを、単に時系列に並べるのではなく、それぞれのパートを細分化し、そのパーツを関連性で繋げている。はじめのうちは「今はどのエピソードなのだろう?」と思うかもしれないが、慣れてくるとこの映画にハマる。

誰かの存在が、そしてその言葉が、別の誰かの人生に影響していく。「この体は私のものではない」といったセリフが心に響く。

僕自身、父と母が出会い結ばれることでこの世に生まれ、たくさんの人と出会い、その出会いに影響され今がある。僕の体は、そして心は、そうした数多くの出会いによって今の姿になっているんだと、改めて思った。

そんなふうに思ったら、ラストで涙が出てきた。それは、ラストシーンに込められた希望を感じることができたからだろう。

172分=3時間弱と書くと余計に長さを感じるが、面白さに時間を忘れていた。すでにほぼ公開終了となっているけど、いつかまた映画館のスクリーンで観たい。


【以下、ネタバレ含む】
心に響くエピソードやセリフが散りばめられたこの作品のなかで特に心に残るのは、1973年のトム・ハンクス演じる原子力発電所に勤めるエンジニアのエピソードだ。

彼は、ハル・ベリー演じるジャーナリストと出会ったことで勤務先を裏切り彼女が不正を暴こうとするのに荷担するが、差し向けられた殺し屋によって乗っていた飛行機ごと爆破されてしまう。

その死は不幸だけど、彼女に出会ったことによる変化は彼を幸せな気持ちにした。そのことは彼が死んでも消えることはなく、またその死が彼女に影響していく。

出会わないことで平穏な暮らしを続けることもできるだろう。でも、僕らは人間として人と人との間に生きていく。ならば、その変化を恐れずに触れ合いたい。

まずは、目の前にある扉をノックし続けよう。
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桃さんのしあわせ

2012-11-25 23:14:08 | 映画を観る
先日、映画『桃さんのしあわせ』を観た。9月に行った『旅博』でチラシを見てから気になっていたものの、10月からずっとあれこれ慌ただしくしているうちに忘れかけていた。けれども面白いもので、ふと時間ができたと同時に思い出した。

久しぶりにBunkamuraのル・シネマで映画を観たのだけど、そういえばここで観た映画のうち『ポネット』を除くすべてが中国と韓国の作品だった。たぶんそこに、ミニシアター系の日本映画に通じるものを感じていたからだろうか。

さて、映画は香港に住む中年の独身男性ロジャーと、13歳の頃から4代に渡り彼の家に仕えてきた桃(タオ)さんを中心に、老いや死への道のり、そして人と人との繋がりについて穏やかに、けれども心の起伏を丁寧に描いている。

ロジャーを演じるアンディ・ラウさんと僕とは似ても似つかないが、独身の中年男性というところに自分を重ねて見ていた。そして、年老いた使用人の桃さんとの関係は、僕と母親のそれと少しだけだけど被っている…と、思いながら。まあ、母とは距離が近すぎていつも言い争ってしまうけど、だから、このロジャーと桃さんとの距離がいいなあと思った。

脳卒中で倒れた桃さんは自ら老人ホームへの入所を希望する。それに対しロジャーは介護付き老人ホームを探して奔走する。そして見つけた施設は、日本のそれとは…といってもイメージだけど…違って劣悪な施設で、あれこれ高い料金を取られるものだった。初めのうちはなかなか溶け込めない桃さんだったが、少しずつ周りに対し心を開いていった。それは、忙しい仕事の合間に献身的に彼女を訪ねてくるロジャーの存在も支えになっていたんだろう。

そう、ロジャーが訪ねてくるのを心待ちにする桃さんの姿がキュートで、またロジャーとの会話もどこか小気味いい。桃さんを演じるディニー・イップさんの上品さがそれを支えているのだと思うが。そんな二人の素敵な関係って、まあそれだけではないのだろうけど、でもとても羨ましく思った。だが一方、桃さんの姿にも、そしてロジャーの姿にも、一人で老いていくことの影が見えて、そこがこれからの自分にシンクロして、少しだけだが怖くなった。

桃さんを送るラストシーン。一人の男性が小さな花束を持ってくるシーンに、何か救われる思いがした。それがなぜなのかは説明したくないけど、そう思った。桃さんはきっとしあわせだったのだろう。

ル・シネマのホームページを見たら、12月1日から14日まで、11:10からの1回だが上映が続くという。また来年には下高井戸シネマでの上映もあるようなので、興味を持っていただけたら、ぜひ!




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あなたへ

2012-08-30 22:45:21 | 映画を観る
ブログに記事を書くのも久しぶりだが、今月は久しぶりに映画館に出掛けた。それも、2回も。

先に観た『桐島、部活やめるってよ』には強いインパクトを受けた。Twitterでの反応がじわじわと観客を呼び寄せているようで、なんとなく嬉しい。こちらはもう一度観たいと思っていて、感想はそれからにさせてもらおう…なんて言っているうちに上映が終了してしまうんだよな。。

この前の日曜夜に観たのは、高倉健さん主演の『あなたへ』という作品だった。その前に映画館で、この作品のチラシ…というか、高倉健さんのエッセイが載った紙をもらったのだが、そこに書かれた健さんの言葉が心に響き、観たいという気持ちが高まった。

その内容は、東日本大震災の被災地で黙々と水を運ぶ少年の写真に感銘を受け、その写真を台本に貼って撮影に臨んだというものだった。満タンの大きなペットボトルを両手に持ち、歯を食いしばり歩く姿を改めて見て、じわりじわりと健さんの気持ちがわかってきたように思う。

さて、映画の方は亡き妻が生まれ故郷の郵便局留めで送った手紙を受け取りに、そして、その海に散骨してほしいという妻の願いを叶えるために、妻の遺骨と共に富山から長崎・平戸まで車で向かう高倉健さん演じる英二が、道中でさまざまな人と出会い、亡き妻の思いに近付いていくという話だった。

健さんは撮影時に80歳だったそうで、足取りや声の張り具合に老いを感じ少し寂しい気もしたが、それでも高倉健らしさを失わない姿に終始見とれていた。老いはあっても「老人」ではない…という感じといったらいいかな。

脇を固める役者さんも豪華だったが、特に印象的だったのが、亡き妻・洋子を演じられた田中裕子さんだ。
最近ではドラマ『Mother』の「うっかりさん」の優しさが記憶に新しいが、少し憂いを湛えた、けど可愛いらしい姿は、周囲から一生独身だろうと思われていた英二が惚れてしまうほど魅力的だという設定に納得がいく。そして、劇中で彼女が歌う『星めぐりの歌』がまた優しく、心に柔らかな毛布を掛けられるような暖かさを感じた。

この映画を「健さんを観るための作品」と評する人もいて、確かにそうだなと思いつつ、ほんのひと時でも人と人とが心を触れ合うことが、人をまた歩き出させるのだということを考えている。この作品に込められた全ての思いをまだ受け止めきれていないが、今はこんな気持ちでいる。大切な人と共に観たらまた違うんだろうな。

さて、改めて高倉健さんの出演作リストを見て、任侠物をはじめそのほとんどを未だ観ていないことを確認した。今までに観た作品もテレビでなので申し訳ない気もするけど、今までに観たのは以下の作品だ。

『新幹線大爆破』
はじめて観たのは子どもの頃だったからか、新幹線の方に興味があったけど、数年前に改めて観て、犯人の描き方とかに強く関心を持った。

『幸福の黄色いハンカチ』
言わずと知れた名作…と言っても、若い人は知らないかも。まあ、それは他の作品も一緒だね。何度観ても涙を堪えられない。そう、今回の映画と同じロードムービーで、刑務所を出所して妻のところに向かうというお話だが、『あなたへ』はこの作品と対になるのかな。。

『野生の証明』
薬師丸ひろ子さんの「おとうさーん」というセリフが印象的だけど、健さん演じる味沢が薬師丸さん演じる頼子を最後まで守ろうとする姿に男の理想を見ていた。それは今も変わらず、僕はこの作品の健さんが一番好きだ。そう、健さんと薬師丸さんが親子役で、木皿泉さんが脚本っていう作品が出来たらいいな。

考えてみたら、亡くなった父と健さんは三つ違いだ。似ているという訳ではないけど、その姿に無意識に父を見ていたのかな…なんて、ついつい長くなってしまった。そして、僕もその頃の健さんの歳に近付いているが、健さんとは程遠い…

そういえば、NHKの『プロフェッショナル仕事の流儀』で健さんを特集するそうなので、忘れずに見よう。
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