子育ての経験はないけど、街で子どもの姿を見かけると手を振ったりしてしまう。一応「変なおじさん」と思われないように気を付けてはいるけど、相手がどう感じるかはわからない。
瀬尾まいこさんの『君が夏を走らせる』を読んだ。単行本が発刊されたのは4年前、転職後に様々忙しい時期だったので、情報を掴めていなかったのだろう。
高校に進んだもののサボりがちで、やりたいことも見つからない日々を過ごす高校2年生の男子が、バイトという名目である頼みごとをされる。「1か月間、娘の面倒を見てくれ」というその頼みは、確かに男子高校生にお願いすることかな…と思うものの、そこは「瀬尾まいこワールド」、理屈などいらない。
さて、頼みごとをされた大田は…そう、『あと少し、もう少し』で2区を走った、絵に描いたような不良の、いや、孤独の中で悩みもがき続けていた、愛おしい彼だ。そんな彼が子育てを手伝うって面白そうじゃないかと、すぐに物語に引き込まれた。
先輩の奥さんが鈴香について綴ったノートを頼りに、大田の子育ては頼りなく始まった。間もなく2歳の誕生日を迎える鈴香に、はじめは戸惑いながらも少しずつ打ち解けていく。その様子に気を揉んだり、笑顔を誘われたり、まるで自分が鈴香と向き合っているような、不思議な感覚とともに読み進めた。
ノートに綴られた内容を介して鈴香に向き合っていた大田だったけど、そこに綴られていない鈴香に触れ、理解しようとするうちに、自らを変えていく。そして、そのノートを頼っていたはずの彼がバイト期間の終わりにある行動を起こす。
ほんのつかの間ではあっても鈴香の成長を見届けた大田が、その鈴香に「ばんばってー!」と励まされて前に進んでいく。いつか再び鈴香と会うことはあるだろうけど、それは彼らにとっての濃密な1ヵ月に戻ることではない。ふと公園で出会った上原先生の「わざわざ振り返らなくたって、たくさんのフィールドが大田君を待っているよ」という言葉を重ね、『君が夏を走らせる』というタイトルを噛み締める。
最近、自分の頑なさを辛く感じることがある。子育てに携わっていたら…などと考えてみることもある。けれども、今さら時間を巻き戻すこともできない。それでも、何かをきっかけに自分を変えてみたい。他力本願にはなれないけど、誰かに「ばんばってー!」と励ましてもらえたら僕も前に進み続けられるだろうか。