『一瞬の風になれ 第二部』
佐藤多佳子
先日、クラブの練習に行った次女が、
見慣れないTシャツを着て帰ってきました。
ボート部の練習は波をかぶるので、
いつも着替えのTシャツを持って行ってるはずです。
聞いてみると、引退した先輩から頂いたとのこと。
どうやら先輩からTシャツをもらうということが、
ボート部の恒例になっているようです
先輩から後輩へ。
こんなふうに、先輩たちの思いを受け継いでいくんだなあ。
さて。
『一瞬の風になれ 第二部』です。
第一部、いかにも青春小説といった爽やかさで、
読者の心を惹きつけるのもわかるなあ、と思いながら、
正直言って物足りないと感じたのも事実です。
これからの展開がどうなっていくのか、
気になっていた第二部。
う~ん、やられました~
主人公の新二や連は2年生になります。
着実に力をつけ、インターハイの予選にも勝ち続けるふたり。
そして、400メートルリレーで県総体3位!
南関東出場が決まったというのに、
連の怪我という思わぬアクシデントが起きます。
先輩たちにとっては最後のレース。
先輩たちのために無理をしてでも走ろうとする連ですが・・・。
4人でつなぐ400メートルリレー。
その魅力とこわさがとてもよく描かれています。
走ることを通じての、人と人とのつながり。
その思いの熱さに、思わず涙が出てきました。
今まで新二と連を中心に読んできたけれど、
ひとりの天才スプリンターを迎えることになった
陸上部の顧問のみっちゃんや、
部長の守屋さんの思いに気づくと、
こういう人たちの出会いによって
選手は伸びていくんだなあ、とつくづく思いました。
レースの場面はほんとにどきどきします。
新二がレースで走る描写を読んでいると、
自分の、この重い身体までもが、
軽々とトラックを駆けぬけているような、
そんな錯覚においちります。
ほんとに、ひょい、と走れそう
3年生が引退し、いよいよ新人戦。
100メートル予選で思わぬいい走りができた新二。
このイメージを忘れないよう決勝に望みますが・・・。
むずかしいよ。一番大事なラウンドで、最高の力を出すこと。
でも、それができなければ、トップアスリートには決してなれないんだ。
先月の世界陸上でも、多くの選手が
実力を出し切れず涙をのんでいました。
どんなに厳しい練習に耐え抜いても、
だからといってレースに勝つとは限らない。
厳しい世界です。
この第二部では、競技だけではなくて、
人とのつながりということが中心に描かれています。
顧問のこと、先輩のこと、ライバルのこと、
気になる女のコのこと、そして家族のこと。
その家族に、思わぬ出来事が・・・。
みんなから、走ることから、逃げ出してしまった新二。
逃げ出さざるをえない、つらい状況に陥った新二。
彼がこの苦境をどうやって脱するのか、
ここが作家の腕の見せ所でなんしょうね。
もう、泣けちゃいましたよ~
人を慰めたり励ましたりするのが大の苦手の私には、
(いつも逆に怒らせてしまうのよね)
ああ、言葉じゃないんだな~と痛感。
小細工なんていらない。
ただ自分は、自分のやろうとしていることを、
ひたすらやり続けるだけ。
その姿が人の心を打つんですね
再び走り出した新二。
インターハイめざして、がんばれー!