ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

木練柿

2010-05-07 | 読むこと。

          『木練柿』
         あさの あつこ


あさのあつこさん初(?)の時代小説、『弥勒の月』、『夜叉桜』に
続くシリーズ第3弾です。

このシリーズは、江戸を舞台にした捕物帳ではあるのですが、
それはあさのさんのこと。
単純な犯人探しの話だけでは終わりません。

主人公は、怜悧な頭脳で謎を解く、どこか冷めて屈折した同心の小暮信次郎と、
心に闇を抱えながらも刀を捨て、商人になって生きる遠野屋清之介。
はい、男ふたりを書かせたら、あさのさんの右に出る者はいませんよねえ(笑)

『バッテリー』にしろ『NO.6』にしろ、あさのさんの描く
主人公たちは強い絆で結ばれていますよね。
それは、単に友情と呼ぶにはあまりに濃い繋がりのように
私には思えるのです。
このシリーズでも、まるで水と油のような信次郎と清之介の、
近づけば厄介だとわかっていながら、お互い関わらずにはいられない、
そんなふたりをとても魅力的に描いているわけです。

今回は短編という形になっていて、二人の身近な人物が
それぞれ事件に巻き込まれていきます。
脇役である彼ら彼女らを描くことによって、
そこから徐々に清之介あるいは信次郎という人物像が
あぶり出されていくようです。

過去にはかなりの剣の使い手であった清之介が、
今では商売を成功させ、誰からも信頼され頼られる商人になったことを、
女中頭のおみつや仕事仲間の吉治の事件に絡ませて、
だんだん浮かび上がらせていきます。

そして、清之介のことを書くことによって、必然的に
信次郎の心の空洞や皮肉屋の一面、そしてほんの一瞬垣間見せる
彼独特の優しさ(?)が感じられるわけです。
そのあたりの書き方が実にうまいなあ、と感心します。

共感と反感をあわせもつ信次郎と清之介の関係は緊張感漂うものですが、
そこに人情味溢れる岡っ引きの伊佐治が入ることにより、
その緊張をほぐし、また二人を距離をおいて見ることにもなります。
この父親のような年代の伊佐治が、いい味出しているんですねえ。

とにかく登場人物がとても生き生きと描かれていて、
脇役にもそれぞれの人生が感じられ、
それが、この作品に厚みや深みを与えているように思えます。

この作品は時代小説ということもあって、情景描写にも情感が漂い、
言葉や文章には流れるような美しさがあります。
そこに、ちゃきちゃきの江戸っ子の会話が小気味良く響き、
メリハリがあって読みやすい。
歴史物は好きだけど、時代小説はちょっと苦手な私も
これにははまってしまいました。


読み出すと、ちょっと目が離せなくなるこのシリーズ。
このふたりの男たちの行く末が、これからどうなるのか・・・
とっても気になります

コメント (2)
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