万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

残虐国家北朝鮮の意図とはー米大学生の脳壊死

2017年06月17日 14時53分17秒 | 国際政治
北が昏睡状態で解放した米学生、脳に大きな損傷
 観光を目的として北朝鮮に入国したものの、政治犯として当局に軟禁されていた米バージニア大学学生、オットー・フレデリック・ワームビア氏は、水面下における米朝交渉の結果ようやく解放され、無事米国に帰国しました。解放当初は北朝鮮側の関係改善のメッセージではないかとする憶測も飛び交いましたが、ワームビア氏の健康状態に関する情報が伝わるにつれ、この憶測には疑問符を付さざるを得ません。

 報道によりますと、ワームビア氏は昏睡状態にあり、脳内には広範囲における脳細胞の壊死が見られるそうです。治療に当たっている医師の説明では、呼吸停止状態において見られる症状あり、北朝鮮国内においてワームビア氏に対して何らかの虐待行為があったことを示唆しています。否、脳細胞の壊死とは、実質的には”脳死”を意味しており、同氏は北朝鮮によって殺害されたに等しいのです。

 同氏の脳損傷について、北朝鮮側は、”ボツリヌス菌の毒素による中毒で体調を崩し、睡眠薬を服用後に昏睡状態になった”と説明しています。この説明で注目すべきは、”ボツリヌス菌”という細菌の名です。何故ならば、この細菌こそ、その高い毒性故に生物兵器として研究されてきた歴史があるからです(わずか0.5キログラムで全人類を死に至らしめる…)。実際に、ボツリヌス菌に感染すると呼吸筋が麻痺し、死に至るケースもあるそうです。ワームビア氏の症状からしますと、ボツリヌス菌による中毒症状への治療というよりも、ボツリヌス菌への感染によって脳壊死が引き起こされたとする推測も成り立ちます。ボツリヌス菌は自然界に存在する細菌ではありますが、北朝鮮は、弁明しているように見せかけつつ、敢えて”ボツリヌス菌”の名を挙げることで、生物兵器の保有を暗に仄めかしているとも言えるのです。

 一方、アメリカでは、担当の医師は「ボツリヌス菌による中毒の症状は見られない」と指摘しており、ボツリヌス菌感染説、あるいは、北朝鮮生物兵器使用説を否定しています。となりますと、(1)北朝鮮は、ボツリヌス菌を用いずして呼吸困難を引き起こす生物化学兵器、あるいは、脳細胞破壊兵器を開発・所有している(ロシアからの技術移転かもしれない…)、(2)生物化学兵器ではなく、首を絞めるなど、一般的な方法でワームビア氏を酸欠状態とした、(3)アメリカ側の見解に誤りがあり、実際には、ボツリヌス菌に感染している…といった可能性があります。(1)及び(3)では、生物化学兵器の使用という事態となりますので、北朝鮮に対する制裁はさらに厳しくなることでしょう。

 北朝鮮の核・ミサイルの開発の進捗状況につきましては不透明な部分が多いのですが、何れの推測であれ、北朝鮮は、生物化学兵器に関してもその保有を示唆することで、アメリカに対して牽制を試みているように思えます。つまり、北朝鮮にアメリカ人が入国すればワームビア氏と同様の運命を辿るとするアメリカに対する脅しであり、さらには、ボツリヌス菌を攻撃手段とした全世界に対する脅迫であるかもしれません。ティラーソン国務長官は北朝鮮への渡航禁止を検討しているそうですが、如何なる目的であれ、訪朝した米国民は命の危険に晒されるとする認識があるのでしょう。

 以上のように考えますと、アメリカが、北朝鮮に対して安易に妥協するとは思えません。かくも残酷な仕打ちを自国民が受け、しかも、非人道的な生物化学兵器が使用された疑いまであるのですから。本事件は、米朝関係の改善よりも悪化の方向への向かわせる可能性の方が高いのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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