万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

対中コメ輸出のリスク-老獪な二階議員の死角

2017年06月24日 15時24分01秒 | 日本政治
ようやく日本国内のコメ消費量の減少に歯止めがかかる徴候が見えるものの、国内の“コメ余り現象”は、深刻な状況を脱していないようです。米作農家にとりましては、米価の下落を招きますし、経営の不安定化は後継者不足にも拍車をかけます。こうした中、親中派の二階幹事長を中心に、コメの対中輸出を増やす案が浮上しているそうです。中国政府と親密な関係にある二階議員にとりましては、一石二鳥どころか、一石三鳥以上の効果が期待できます。

第1に、100万戸ともされる米作農家にとりましては、余剰米の販路を提供することで“救世主”となることです。中国では、日本産のお米は高級品として需要が高く、高値で取引されています。第2に、現実はどうあれ、“二階幹事長あっての対中交渉”として宣伝すれば、同氏は、対中コメ輸出を政治的な“手柄”とし党内における基盤を固めることができます。自民党は、全国の農家票を掴んだ同氏の功績を高く評価することでしょう。第3に、二階幹事長は、中国に対しても恩を着せることができます。報道によりますと、中国は、現在コメ不足の状況にあり、東南アジア諸国からの輸入で凌いでいるそうです。中心に日本ブランドのコメが中国国内で流通すれば、少なくとも、購入可能な共産党員や富裕層にとりましては習政権に対する評価は上がることでしょう。同氏は、中国に対しても日本国の交渉窓口としての地位を不動のものとするのです。二階議員の対中コメ輸出は、利益を広く国内外にばらまきつつ、自己の地位を高めるという戦略において完璧なように見えます。しかしながら、この戦略には、“隙”は全くないのでしょうか。以下に、対中コメ輸出のリスク面について挙げて見ることとします。

第1に、現時点では、日本産ブランド米は中国国内において高値で取引され、食の安全性の面からも需要の拡大が見込めます。しかしながら、需要と供給による価格形成からしますと、日本産ブランド米の供給量の増加は、中国における希少性を徐々に薄れさせ、価格の低下も予測されます。今後とも、中国市場で高値を維持し得るかどうかには、疑問があります。

第2に、日本国内の余剰米の多くは、中国で高値を付けるブランド米ではなく、一般のお米です。この点に注目しますと、この政策は、100万戸の農家に対して効果があるわけではなく、ブランド米生産農家に限定されます。否、一般の日本人消費者からしますと、香港のバイヤーによって鮪の初セリ価格が暴騰したように、中国向け輸出の拡大は、日本国内でのブランド米価格を押し上げるかもしれません(日本の一般消費者にはマイナス高価)。

第3に、二階幹事長は、中国や東南アジア諸国の農業技術は、年々向上している現実を無視しています。中国は、アグリビジネスの大手シンジェンダ(スイス)を、遺伝子組み換え等のバイオ技術獲得を目的に買収しましたが、今後、中国のコメ生産量は飛躍的に伸びる可能性があります。また、東南アジア諸国でも、高品質のコメの生産が実現すれば、中国の消費者は、日本産より安価な東南アジア産を選択することでしょう。あるいは、高品質のカリフォルニア米を有するアメリカが、貿易不均衡の是正を理由に中国に対して米国産コメの輸入拡大を求める可能性もあります。長期的に見れば、日本産の米の輸出が増え続けるとする予想は楽観的にすぎます。

第4に、日本国内の米作農家の対中輸出依存が深まるほど、日本国は、中国からの対日輸入枠削減圧力に悩まされることになります。コメの輸出入は、日中両国とも政府が直接に実施する国家貿易ですので、日本米の輸入枠が中国主導で決定されるとなりますと、日本国は、政治的要求にも利用可能な“米カード”を中国に与える等しいのです。

第5に、昨今、日本国政府は、農村に外国人農業技術指導者や実習生を招き入れる政策を推進しています。対中コメ輸出とこの移民政策がリンケージしますと、日本国の農村は、中国向け輸出米を移住してきた中国農業者が生産するという姿へと変貌しかねないリスクがあります。日本国内の後継者不足が解消されたとしても、中国の13億の人口を以ってすれば、日本国の農村を中国人の人口で席巻することは容易なことです。あるいは、二階議員は、中国との裏交渉において農村への中国人移民の受け入れを輸入枠獲得の条件としているのかもしれません。

 以上に主要なリスクを挙げて見ましたが、上述した二階幹事長への高評価は、その前提条件や外部環境が変化すれば、プラスからマイナスへ転じる可能性があります。長期的に見ますと、この政策はリスクに満ちておりますので、日本国の農業の再生には、食糧自給率の向上に寄与し、かつ、農村共同体を再活性化させるような、より低リスクで安全性の高い方法を考案すべきと思うのです。

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コメント (2)
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