万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新型コロナウイルス対策の切り札は国産化

2020年04月03日 13時21分17秒 | 国際政治

 今日、中国に始まる新型コロナウイルス禍は、全世界レベルにおいて経済の機能不全を引き起こしています。国境を越えて敷かれたグローバル企業の広域的なサプライチェーンが分断されると共に、中小の企業にあっても、人と人とが接触するサービス業を中心に多くの事業が存廃の危機に直面しています。

危機管理を担う各国政府も、積極的、かつ、大規模な財政支援を表明しています。財政再建をアピールしてきたトランプ米大統領も、感染拡大の深刻化を前にしては財政出動に舵を切り替えていますし、EUでも、ユーロの通貨価値を維持するために加盟各国に求めてきた財政規律を緩める方針を示しています。

しかしながら、同ウイルス禍の終息の見通しが立たないだけに、最悪の場合には延命措置に過ぎなくなる可能性があります。現金や金券の配布や所得補償といった給付的な措置も、短期的に収まれば一定のダメージ緩和効果が見込まれますが、それが1年や2年ともなりますと、自ずと限界が見えてきます。政府の財政が破綻するかもしれませんし、コロナ後には財政赤字を埋め合わせるべく大増税が実施されるかもしれません。また、失業者があふれ、生産停止や廃業によってモノやサービスの供給が細っている状況下では、悪性のインフレに見舞われる可能性もありましょう。収益機会を失って倒産の危機にある事業者への繋ぎ融資を目的とした公的貸付制度にあっても、状況次第では貸し倒れとなるリスクもあります。何れにしましても、弥縫策的な対策では、全ての努力が水泡に帰す、あるいは、新たな危機を将来しかねないのです。リーマンショックがソブリン危機を招いたように…。

こうした先行きの見えない危機を迎えた際には、原状回復を目指すよりも、新たなステージへの移行過程として捉えた方が望ましい場合があります。コロナ禍に先立って、グローバリズムも既に限界を来しており、GAFAや中国が先導してきたデジタル社会化にあっても、情報の独占に基づく監視社会化のリスクが認識されるに至っています。言い換えますと、人類の将来像を探しあぐねていた矢先に、新型コロナウイルスが発生したとも言えましょう。

それでは、新たなステージとはどうようなものなのでしょうか。グローバリストが描く人類の未来像とは、全世界が一つに繋がった国境のない世界です。建前としては多様性が尊重される世界なのですが、国境をなくしたのでは多様性が維持されるはずもなく、結局は、ネットを介して画一的で無味乾燥な仮想空間が全人類に提供される世界なのでしょう。こうした未来像に対しては、先に指摘したように懐疑論や抵抗感が生じるようになったのですが、コロナ禍が人類の転換期を画するとしますと、人類が進むべき道はグローバリズム原理主義が推し進めるものとは異なるはずです。

 そこで一つの方向性として提案し得るのは、国家の自立性、並びに、国民本位の民主的統治機能の強化ではないかと思うのです。民主的統治機能の強化についての詳細は別の機会に譲るとしても、経済における方向性は、自給自足とまではいかないまでも、一先ずは、海外依存からの脱却を目指すべきです。今般の新型コロナウイルス禍に際しても、中国からの輸入には見切りをつけ、必要最低限、国民が生活を維持し得る経済基盤を確保する必要があるということになります。日本国の食料自給率の低さを考慮すれば、まずは、国民の命を支えている農水産物の増産にとりかかるべきですし、マスクやECMO等の医療品のみならず、これまで輸入に依存してきた日用品についても国産化を図るべき品目は多々あるはずです。国産化推進分野が、新型コロナウイルス禍で生じた失業を吸収することができれば、移行期に伴う痛みをある程度は和らげることができましょう。

この点を考慮すれば、持続可能性に乏しい政府による給付政策は、仮に実施するとしても一時的・短期的な応急措置とし、政府は、人々の柔軟な産業間移動を支援する政策に取り組むべきかもしれません。コロナ・ショックに見舞われた民間企業も、国産化産業に参入すれば、新たな収益源を見出し得ることでしょう。また、已む無く事業を畳まざるを得なくなった人々にも、国産化産業分野において新たな起業の機会を見出すかもしれません。融資事業につきましても、商売替えや新規参入、あるいは、感染防止型の新たなビジネスモデルの開発に際して要する資金調達を助ける方がより建設的な支援となりましょう。因みに、いささか横道にそれますが、廃業の危機に直面している飲食店等も、主として自宅待機の人々を対象としたケータリングやテイクアウトを始める、商店街が協力して同事業を共同で行う、近隣の郵便局やコンビニエンスストアーといった店舗と契約して店内の一角にテイクアウト・コーナーを設けるといった工夫も考えられます。政府は、民間の努力にこそ支援すべきなのではないでしょうか。

同手法―中国製品を国産に切り替える―は日本国に限ったことではなく、中国以外の全ての諸国において新型コロナウイルスショックに対する‘切り札’となるかもしれません。結局中国は、新型コロナウイルスを拡散させた人類に対する大罪を、‘世界の工場’の地位から降りることで償うことになるのではないでしょうか(中国は、国内だけで14憶の市場があるので自給自足できる…)。そしてそれは、国民国家体系と自由主義経済が調和し得る新たな国際経済秩序への移行プロセスとなるのではないかと思うのです。

コメント (2)
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