万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

コロナ禍で日中両国政府は共倒れ?

2020年04月24日 12時44分04秒 | 日本政治

 報道によりますと、中国では、同国の頂点にあって君臨する習近平国家主席が、遂に新型コロナウイルスに対する政府、並びに、共産党の対応に不備があったと認めたそうです。‘コロナ対応の不備認める’とするタイトルだけを読みますと、同主席が自らの責任を認めたと早合点しがちなのですが、実際に語った言葉は「一部の党組織でリーダーシップが不足し、一部の党幹部の能力が不足していることを露呈した」です。部下に責任を擦り付けこそすれ、自己反省など微塵もなく、逆に‘一部の共産党幹部’をスケープゴートに仕立てることで国家主席への集権を強め、一党独裁から個人独裁体制へと歩を進めようとする強い決意さえ伺えるのです。

 コロナ禍を機に、中国では、現体制に対する国民の不満や批判をよそに、習主席が自らの権力基盤を固める踏み台にしようとしているのですが、日本国でも、別の意味で同様の現象が起きているように思えます。本日の日経新聞の朝刊一面には、自民党の菅義偉官房長官のインタヴュー記事が掲載されておりました。「コロナと世界」と題する同欄にあって、菅官房長官は今後の日中関係についても触れているのですが、その語るところ、日本国民一般の意識とは真逆なのです。感染症対策については中国を含めた国際連携の深化の必要性を強調すると共に、習主席の来日については、「習近平国家主席の来日は日中が責任を果たしていくことを内外に示す機会として非常に大事だ」と述べているのですから。

 この言葉の後には「きたんのない意見交換ができる関係を維持するのが、アジアだけではなく世界経済の発展や安全保障に極めて大きなことだ」と続くのですが、菅官房長官のあまりにも好意的な中国観には唖然とさせられてしまいます。今日、世界の多くの国々において、緊急事態宣言の下で全国民は外出自粛を求められ、医療機関も崩壊の危機に晒されています。営業停止を要請されたサービス業の人々は死活問題に直面しており、今後とも企業業績の悪化により、コロナ禍によるマイナス影響は拡大してゆくことでしょう。このため、対中感情の悪化のみならず、パンデミック化を招いた中国の責任を厳しく糾弾する声も少なくありません。都市封鎖が敷かれ、コロナ禍の犠牲者が数万人にも達した米欧諸国からは元凶となった中国に対する怨嗟や損害賠償を求める声すら聞こえてくるのです。国際社会でも脱中国の流れが加速してきており、日本国民の多くも日中関係が元の状態に戻るとは考えていないことでしょう。しかも、日本国政府による国民軽視の対中忖度が中国からの渡航全面禁止が遅れた原因の一つでもありますので、積極的に脱中国政策を支持する国民が多数を占めるようになるのが自然の流れです。

 加えて、今月23日に習主席が陜西省を視察した際に地方当局の幹部に対して絶対服従を要求したとも報じられています。日本国内の世論に背を向けた菅官房長官の見解は、あたかも習主席に忠誠を誓っているようにも聞こえてくるのです。

 こうした現象から見えてくるのは、情報隠蔽体質に染まった中国の一党独裁体制に対する批判を強めた点においては日中両国民とも一致している一方で、日中両国政府は、民意とは逆の方向に歩調を揃えて動いているという忌々しき現実です(あるいは、菅官房長官、二階幹事長、公明党のイニシアチブ?)。そして、このシンクロナイズ現象は、日中両国政府の運命をも暗示しています。コロナ対応の不備が習政権の躓きとなり、中国国内では一党独裁体制崩壊への序曲となる可能性が指摘されている一方で、日本国政府、否、自民・公明連立政権が今後とも媚中外交を貫くとしますと、日本国にあっても近い将来において‘政変’が起きる可能性も否定はできなくなるからです。とりわけ民主主義国家である日本国にあっては、次回総選挙が重大な転機となるかもしれません。

 とは申しますものの、与野党を含め、日本国の政界にあって親中派に与さない政党や政治家を見出すのは難しく、コロナ後の最大の危機は日本政治そのものにあるかもしれません。可能性としては、自民党内部における脱中国化、既存の野党側の勝利による政権交代、あるいは、より民意を反映する新党の登場などが想定されましょうが、上手に難局を乗り越えませんと、日本政治がカオス化する可能性もあります。あるいは、仮に、中国の現体制が‘健在’となれば、日本国に対する中国の支配志向はさらに強まるかもしれません。何れにしましても、日本国民は、コロナ後にあって日本国の政治がどのようにあるべきなのか、ともに考えてゆく必要がありましょう。そしてそれは、日本国のみならず、全世界の諸国に共通した課題であるとも思うのです。


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