非常事態宣言の発令を受けて、首都圏でも人出がまばらな閑散とした光景も見られるようになりました。人との接触を8割まで減らすことを目標に掲げており、外出自粛は一定の効果を上げているようです。期間はゴールデンウイーク開けの5月6日迄とされ、安倍首相もこの時期までには終息するものとして説明しておられました。しかしながら、説明通りに終息するか否かの全ては新型コロナウイルスの特性にかかっているように思えます。
日本国内では対コロナ措置が強化される一方で、震源地となった中国では、最後まで残されていた武漢の封鎖も、ひと先ずは解除されました。また、スイスを初め、日本国よりも徹底した都市封鎖を断行したヨーロッパ諸国にあっても、状況を見極めつつとしながらも段階的な規制緩和の動きも見られるようになりました。コロナウイルスの感染拡大の時間差がそのまま各国の対策の方向性に現れていると言えましょう。
自己に対する責任追及をかわし、かつ、自己の権力基盤ともなる経済状況を回復させたい習近平国家主席からしますと、新型コロナウイルス問題には早々と蓋をして、天安門事件と同様に‘なかったこと’にしたいのでしょう。しかしながら、その一方で、今後については不安視する声もあります。14憶の国民全てに対して精度の高いウイルス検査を実施したとは思えませんし、何よりも、一党独裁体制の下で情報隠蔽・改竄体質が染みついている中国では、たとえトップによって終息が宣言され、公式の統計上においても感染者や死亡者数がゼロとされたとしても、その信憑性は薄いからです。そして、この信憑性の問題も、突き詰めてゆきますと新型コロナウイルスの特性に辿り着くのです。
中国であれ、日本国を含む他の諸国であれ、封鎖的な措置をとった全ての国は、新型コロナウイルスの感染再拡大のリスクは低く、一定の期間にあって人と人との接触を最低限に留めることができれば、収束し得ると見なしています。このため、封鎖解除とは、即ち、平常化を意味しており、人々は元の平穏な生活に戻れるとされています。ところが、封鎖措置の基盤となる同想定と感染者の病状に関する報告や情報との間には無視できない齟齬が見受けられるのです。
政策基盤を揺るがしかねない諸点とは、(1)無症状な感染者でも感染力を有すること、(2)回復者の中には、再度、感染する人もいること(重篤化しやすいとも…)、(3)治療の後に陰性判定を受けた感染者の体内に、生涯にわたりウイルスが潜伏する可能性があること、(4)抗体が効力を維持する期間が不明なこと(集団免疫説は疑問に…)、(5)RNAウイルスであるため、変異により亜種が出現しやすこと、(6)中国、アメリカ、ヨーロッパ等で広がったウイルスが、すべて同一のものであるかが不明なこと、(7)第六点との関連において、遺伝子の塩基配列の違い、衛生状態、ワクチンの接種状況等により感染率や致死率等に違いがあること…などです。新型コロナウイルスには謎が多く、これらの報告や情報も必ずしもすべて事実であるとは言い切れないのですが、その何れもが、解除後にあって再度感染が拡大してしまう可能性を強く示唆しています。
もちろん、たとえ上述した問題点があったとしても、人と人との接触機会が激減するのですから、感染拡大のスピードを抑え、諸外国で被害が広がった最大の要因として指摘されている医療崩壊を回避するに際し、一定の効果はありましょう。また、日本国政府は、たとえ解除後に再び感染者が増加に転じたとしても、感染者が少数に留まれば、クラスター潰しの手法でコントロール可能と判断しているようです。しかしながら、仮に新型コロナウイルスが潜伏性、あるいは、変異種による感染のリスクを有するのであれば、政府の前提が崩れてしまう可能性も否定はできません。最悪の場合には、感染していながら表面的には全く健康そのものでウイルス検査も受けていない人が、解除後にあって無自覚の内にスプレッダーとなり、周囲の人々を感染させると共に、自身も免疫力の低下等により突如として発症してしまうかもしれないのです(この場合、感染経路を辿ることは極めて難しく、クラスター潰しも困難に…)。
想定通りに収束するに越したことはないのですが、日本国政府は、非常事態解除後にあり得る新型コロナウイルスの再発に備える必要もあるように思えます。そこで重要となる作業は、同ウイルスの特性の確認です。同ウイルスの特性については、(7)をも考慮すれば、中国政府やWHO発の情報に頼ることなく、独自に国内の感染者データを分析するべきかもしれません。加えて、都市全体に対する封鎖の効果や解除後の状況については、先行して封鎖を解除・緩和した諸国を参考にすることができます。ただし、中国の現状については政府発の情報は信頼性に欠けますので、これもまた日本国独自のルートで情報を収集すべきなのでしょう。そして、潜伏性や変異性等のリスクの有無や程度等が明らかになり次第、臨機応変に対応を変えてゆくことも重要です。もしかしますと、より厳しい措置を要するかもしれませんし、あるいは、より穏当な措置でも対応し得るかもしれません。
大規模、かつ、内外に渡る広範な情報収集とデータ分析を伴う作業は政府機関にしかできないのかもしれませんが、その分析結果が政策立案に的確に反映され、かつ、速やかに国民に情報提供されれば、政府も国民も危機感の共有の下で各自が為しうる対策に取り組むことができます。また、国際レベルにおいても、各国が知り得た知見や情報を相互に交換すれば、日本国のみならず危機に直面する諸国も、より適切、かつ、柔軟に新型コロナウイルス禍に立ち向かうことができるのではないかと思うのです。