万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

辻褄が合わない新型コロナウイルスアメリカ起源説

2020年04月13日 13時16分18秒 | 国際政治

 トランプ大統領が新型コロナウイルスの発祥地を中国の武漢とし、‘チャイナ・ウイルス’と呼ぶ一方で、中国は同呼称に対して憤慨し、アメリカ軍起源説を唱える展開となりました。後日、米軍持ち込み説を唱えた中国外交部の趙立堅副報道局長が釈明したことで、一先ず事は収まったようなのですが、同ウイルスの起源については、未だに残り火が燻っているように思えます。

 米中両国の動向、並びに、メディア等の論調を見ますと、人工ウイルス説を否定する方向性では足並みを揃えているようです。神からの罰とみなしたフランシスコ法王に続き著名な霊長類学者も、自然との調和を忘れた傲慢な人類に対する自然の反逆ではないかと語っています(もっとも、新型コロナウイルス禍とは直接に関係はないとしても、自然保護自体は必要。ただし、野生動物との接触が頻繁な中国大陸が感染病の震源地となる傾向にある点は、むしろ人と動物との距離の取り方の重要性を示唆しているのでは…)。また、今般の新型コロナウイルスの感染拡大を機に一躍その名が知られるようになったアメリカのCDC(アメリカ予防疾病管理センター)も、その開設されているサイトを読む限り、新型コロナウイルスもMERSやSARSと共に野生動物由来のコロナウイルスの一種に属するとする自然発生説を採っています(もっとも、遺伝子操作が加えられている可能性については、含みをもたせているのかもしれない…)。米中のみならず、主要国の多くが密かに生物兵器の研究・開発に手を染めており、また、同研究の背後には国際組織や民間団体も蠢いていますので、人工ウイルス説は、それが憶測や合理的な推理であったとしても触れてほしくはない領域なのでしょう。

 同ウイルスの起源に関する闇はますます深くなってしまったのですが、人工ウイルス説の否定においては歩調を合わせながらも、米中両国の見解は完全に一致しているというわけではないようです(因みに、ロシアは人工ウイルス説…)。アメリカの基本的な立場は、初期段階での中国政府の見解と凡そ一致しているのですが、中国側は、人工ウイルス説、即ち、米軍による生物兵器使用説は取り下げながらも、同ウイルスの発祥地を武漢と断定することには未だに抵抗しているようです。

 中国政府が描くシナリオとは、おそらく、9月からアメリカ国内で流行し始めたB型インフルエンザの感染者の中に新型コロナウイルスの感染者が混じっており、後者に感染したアメリカ人が中国の武漢に持ち込んだ、というものなのでしょう(10月に武漢で開催された軍人オリンピック?)。米国内でのインフルエンザの流行は事実ですので、この説も頭から否定はできないように思えます。しかしながら、この説、現実に照らしますと辻褄が合わないのです。

 第一に、仮に、昨年の秋頃から新型コロナウイルスがアメリカ全土で流行りだしていたとしますと、何故、今に至って、ニューヨークにおいて医療崩壊が起きる程の新型コロナウイルスの感染者が激増しているのか、合理的な説明がつきません。インフルエンザを遥かに上回る新型コロナウイルスの驚異的な感染力からしますと、発生から半年もの時間を経過することなく、より早い時期に爆発的な感染拡大が起きているはずです。武漢でも、最初の感染者の確認は9月ともされていますので、アメリカが起源であるならば、より早い時期に、かつ、全米の都市部において武漢並みの事態が発生していたはずなのです(昨年の秋頃から米国大陸で流行っていたインフルエンザと、新型インフルエンザは明らかに別物では?)。なお、最近の報告では、米国内の新型コロナウイルスは、中国からではなくヨーロッパ経由の移入が多いそうです。

 第二に、新型コロナウイルスを、雲南菊頭コウモリといった中国固有のコウモリ種やハクビシンに寄生するウイルスから自然に変異した異株とみなす以上、中国発祥は動かしがたくなります。中国のようにアメリカ起源を主張するならば、アメリカのウイルス研究機関が保管していた同ウイルスが漏洩した、あるいは、中国によって盗取されたと考えるしかないのですが(後者については、実際に中国人の逮捕者が存在している…)、前者であれば、上述したようにアメリカ国内での感染拡大時期が武漢に遅れるのは不自然ですし(同時期における米国内でのウイルス研究施設の閉鎖が指摘されていますが、仮に、関連があるとすれば、新型コロナウイルスではなくB型インフルエンザでは…)、後者であれば、中国には免れ得ない責任があります。

 第三の疑問点は、中国政府による徹底した情報隠蔽工作と守りの姿勢です。仮に、アメリカ起源を主張するならば、科学技術先進国を自認する中国は、収集した膨大な量のデータを公開し、それに基づいて堂々と自説を科学的に証明し得るはずです。米中対立の先鋭化を考慮しますと、中国は、積極的に対米批判のために利用し、全世界レベルで反米プロパガンダを展開してしかるべき、ということになりますが、何故か中国政府は、積極的に自説を証明しようとしてはおりません。

 以上に新型コロナウイルスのアメリカ起源に関する疑問点について述べてきましたが、実のところ、真実を知っているのは人類の内の極々少数なのでしょう。懸命な火消しにも拘わらず、人工ウイルス説が燻り続けるのも、それを否定する国や組織に対する信頼性が低いからなのかもしれません。全体主義国であれ、自由主義国であれ、政府もマスコミも嘘を吐くことを人々はよく知っていますし、中国に至っては、常に真偽が逆なのですから。そして、背後にあって様々な勢力が入り乱れての情報戦が戦われ、かつ、新型コロナウイルス禍の政治利用が目立つようになるにつれ、疫病のみならず、これを機に全人類を支配の頸木に繋ごうとする勢力とも、人々が闘わざるを得ない現実に気づかされるのです。新型コロナウイルス禍は、ポスト・コロナにあって情報隠蔽や不当な支配なき善き世界を築くことができるのか、生物界にあって最高の知性を有する人類の知恵と勇気を試しているようにも思えるのです。


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