万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

経済活動を再開するためのウイルス検査について

2020年04月12日 12時41分24秒 | 国際政治

 現在、日本国を含め、新型コロナウイルスに対する検査方法の主流となっているのは、体内におけるウイルスの有無を判定するPCR((polymerase chain reaction)方式です。その一方で、報道によりますと、欧米各国では、規制解除後の経済活動の再開を睨んで、ウイルスそのものではなく抗体の有無を調べる抗体検査の実施が検討されているそうです。両者には一長一短があるのですが、感染者を減らし、かつ、経済活動を平常化させるためには、抗体検査のみでは心もとないようにも思えます。

 抗体とは、病原性のあるウイルス、細菌、微生物に対して身体の獲得免疫のシステムが働くことによって産生されます。通常は、発症から1週間程度で抗体が産生され、免疫力を獲得するそうです。つまり、ウイルスに感染して回復した人の体内には抗体が発現していますので、血液等の検体を採取して検査し、抗体が確認できれば、一先ずは、再感染の可能性は低く、かつ、他者に対する感染力も消滅したものと見なされるのです。新型コロナウイルスの治療方法として試みられた血清療法も目下、各国の製薬会社が開発に鎬を削っている予防ワクチンも、人体の免疫システムを利用しています。また最近では、15分程度で判定可能なイムノクロマト法といった特異的抗体検査法も登場してきており、新型コロナウイルス版の早期開発も期待されているそうです。

しかしながら、殊、人工ウイルス説が囁かれている新型コロナウイルスともなりますと、自然界の法則に逆らう可能性もないわけではありません。実際に、回復者の中には症状が再発したケースもあり、同ウイルスに対する抗体については疑問がないわけではないからです(悲観的な見方をすれば、エイズのように宿主の免疫システムそのものを破壊するかもしれない…)。抗体が産生されながら他者に対する感染力を有するケースもあるかもしれませんし(専門家ではないので間違っていたらごめんなさい…)、予防ワクチンも経年によって免疫効果が低下するそうです。効力の個人差に加え、インフルエンザのように変異性の高いウイルスに対しては罹患を完全には防げませんので、抗体効力の持続性にも疑問があるのです。

そして何よりも不安になるのが、抗体検査の導入が、感染した人の経済活動への復帰を目的としている点です。イギリスでは「免疫証明書」の発行も提案されているそうです。こうした証明制度は‘抗体があれば感染力はない’との前提に基づくのですが、上述したようにこの前提も崩れる可能性がありますし、新型コロナウイルスは無症状感染を特徴としていますので、規制解除後におけるその他大多数の人々の感染リスクは、何ら変わらないこととなります。

そこで、最も感染率が低く安全な状態を想像してみますと、それは、「免疫証明書」を全ての人々が手にしている、即ち、凡そ全ての人々が抗体を有する状態となります。となりますと、むしろ、感染を予防するよりも促進した方がよいという、奇妙な結論に至ってしまいます。この発想は、集団免疫と呼ばれるらしく、社会全体の6割越え程度が免疫力を獲得した状態を意味するそうです。この点に照らしますと、今般、各国が実施している封鎖措置は、感染スピードを穏やかにし、医療崩壊を防ぐ点においては効果があるのすが、集団免疫の獲得という目的には適していないということなりましょう。そして、感染の拡大阻止と集団免疫の獲得という二つの相反する目的を同時に追求し、かつ、抗体検査を経済・社会復帰への前提条件としますと、幾つかの問題が浮き上がってきます。

第一に、集団免疫を何としても達成すべき目標として設定するならば、人と人との接触による自然な感染の広がりを待つのではなく、ワクチンを使用すれば、より簡便に目的を達成することができます。しかしながら、ワクチンの安全性や効果については、上述したように新型コロナウイルスの特性が不明瞭なために不確実性が高く、しかも、年内における開発・提供は困難とされます。

また、仮にワクチンの開発に成功したとしても、集団免疫を実現するためには、全ての人々にワクチン接種を強要する必要が生じます。ここから生じる第二の問題点は、ワクチンの強制接種の問題です。ワクチンに対する懐疑論や危険視は今に始まったわけではなく、コロナ前にあっても一定の広がりを見せていました。今般の新型コロナウイルスに至っては、陰謀説の影響もあり(陰謀説は必ずしもフェイクともいえない…)、特に民主主義国家では国民に対するワクチン接種の強制には抵抗も予測されます。

そして、第三の問題点として指摘し得るのは、営業再開や職場復帰等の条件として抗体検査が義務付けられた場合、抗体をもたない無感染者、即ち、‘免疫証明書’を持たない人々が経済や社会からはじき出されてしまう懸念です。それが少数であるのか、多数であるのか、今のところは分からないのですが、無感染者であって、かつ、ワクチン接種を拒否した人は、いわば、この世に‘存在していない人’にされかねないのです。

以上の諸点を考慮しますと、抗体検査とPCR検査の併用は、こうした懸案を解決する一助となるかもしれません。既に感染した人は前者によって抗体の存在を証明し、感染していない人は後者の検査を受けることで自らがウイルスのキャリアーではないことを証明するのです。無症状の人、あるいは、疑わしい人は両者の検査を受けるべきかもしれません。

上述したように、抗体効果の持続性の如何によっては感染や発病を完全になくすことはできないにせよ、患者数を一定範囲に抑えることができれば医療崩壊を起こすことなく、重篤な患者にも十分な治療が提供されましょうし、経済や社会活動もある程度の安全性を確保した上で再開することができます(検査キットは責任国の中国製は排除し、国産を使用すれば、経済対策ともなる…)。ワクチン懐疑派の人々も、PCRを選択すれば、ワクチン接種後の健康被害を恐れなくても済みます。日本国政府を含む各国政府は、人々が安心して自らの健康状態を確認し得ると共に、他の人々、そして、経済や社会をも護る検査体制の構築を急ぐべきなのではないかと思うのです。


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