万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

全国民ウイルス検査実施の薦め

2020年04月18日 13時43分11秒 | 国際政治

 中国との癒着によりすっかり信用を落としてしまったWHOですが、一先ずは、全世界に向けた新型コロナウイルスに関する情報発信は継続しているようです。昨日、4月17日にも、集団免疫に関する見解を公表しておりました。公表者は悪名高きテドロス事務局長ではなく、緊急事態対応を統括するマイク・ライアン氏ですので、同発言を頭から否定する必要はないのでしょうが、「抗体に効果があったとしても、多くの人が新型ウイルスに対する抗体を既に持ち、これによりいわゆる‘集団的な免疫’が獲得され始めていることを示す兆候はほとんどない」と述べています。

 同発言に先立って、WHOは、感染者の抗体産生についても疑問を呈していますので、抗体に関する関心の高さが伺えます。実のところ、新型コロナウイルスについては、その発生から日が浅いこともあり、その特性は十分には解明されてはいません。人工ウイルスであったとしても、その作成者でさえ、同ウイルスの多面的有害性や時間経過に伴うリスクを完全には把握し切れていない可能性さえあります。塩基配列の変異のみならず、生物では、同一の遺伝子が複数の役割を果たしていたり、予想外の波及的な作用を及ぼすことがままあるからです。新型コロナウイルスの場合には、証明はされていないもののHIVとの共通性が指摘されており、人体の免疫システムに何らかの阻害作用を及ぼしている可能性も否定はできないのです。

実際に、発生現地である中国のみならず、日本国内をはじめとした諸外国でも、ウイルス検査の結果、陰性の判定を受けた感染者でも退院後に陽性となるケースの報告が後を絶ちません。感染者のうちの3分の1には抗体が産生されないとする報告もあります。WHOの判断が主として中国からの情報に依存している点を考慮しますと、冒頭で述べた集団免疫に対する否定的な見解も、武漢において実施された、あるいは、実施中とされる大規模な抗体検査の結果を受けてのことかもしれません(もっとも、中国が正確な情報をWHOに伝えているとは限りませんが…)。

何事にあっても情報が錯綜する中での判断は難しいのですが、ここで立ち止まって、集団免疫とコロナ禍脱出策との関係について考えてみる必要があるように思えます。上述したように、抗体は産生されても短期間でその効力が消滅する、あるいは、3分の1の感染者には抗体ができないのであるならば、人口の大半が抗体を保持することで感染拡大が収まる状態、即ち、集団免疫の獲得は難しくなるからです。また、同時にこのことは、集団免疫を人工的に造りだすワクチンの集団予防接種も無意味となることを意味します。そして、抗体検査による「免疫証明書」も、その証明力は100%ではなくなりますし、回復者の抗体投与に期待する血漿治療にも影響を及ぼすことでしょう。新型コロナウイルスの抗体の如何は人類の行方を大きく左右するといっても過言ではなく、特に集団免疫に関しては、何れの国も、それを達成すべき目標とすべきか、否かの重大な岐路に立たされることになります。

仮に、WHOの説明が正しければ、正反対の二つの状態が想定されます。第一の可能性は、新型コロナウイルスがかくも全世界規模で猛威を振るいながらも、未だ多くの人々が同ウイルスに感染していない状態です。同ウイルスの感染力は、多くの無症状の人々が抗体を産生する程には高くなく、この状態では、抗体検査でもPCRでも多数が非感染者と判定され、感染者は全体に対して少数にとどまっています。第二の可能性は、同ウイルスの感染力は相当程度に高く、無症状ながらも多数の人々が既に感染しているものの、同ウイルスの免疫システム阻害作用により抗体を産生できないため、免疫保持者にはカウントされないというものです。後者は、抗体検査では抗体(免疫力)を確認できなくとも、体内のウイルスの有無を調べるPCRではしばしば陽性となり、こうした‘隠れ感染者’の存在により第一の可能性とは逆に感染者が多数となります。

 ハーバード大学の研究では集団免疫の獲得に至るまでには2年はかかるとする試算もあるそうですが、感染者が全体に対して少数となる状態、あるいは、その逆に感染者が全体に対して多数の状態の何れであったとしても、集団免疫を目標とすることには高いリスクを伴います。前者の場合には、健康な非感染者まで一生涯ワクチン漬けにしなければ目標に到達できませんし、同ウイルスに対する人体の抗体生産力の脆弱性を示す後者の場合には、そもそも集団免疫獲得は殆ど不可能であるからです。

 結局、新型コロナウイルスの感染力を失わせる、あるいは、体内から完全に除去する治療法等が開発されるまでの間、前者の場合には、少数の感染者に対して隔離的な措置を採り、後者の場合には、医療体制を大幅に増強して重篤化した感染者に対応するしかなくなるのかもしれません。もっとも、こうした重大な決断を下す前にあって必要不可欠な基礎的作業となるのは、何れの国であっても自国内の正確な感染状況の把握です。WHOの見解を鵜呑みにせずに、自国の患者の症例等から、前者であるのか、あるいは、後者であるのか、まずは自らの手で確認する必要があるのです(実態調査の結果、集団免疫が獲得されている可能性もないわけではない…)。

このように考えますと、他者に対する感染リスクの低い人々を経済活動に復帰させるためにも、ここは、全国民に対するウイルス検査を実施すべきなのかもしれません。そして、もしかしますと、精度の高い日本企業の検査キットを用いた全員検査の方が、国民に対して一律10万円を給付するよりも、余程、コロナ危機脱出には貢献するかもしれないと思うのです。


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