万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

コロナ禍がもたらした歴史の教訓から人類の未来を読む

2020年04月19日 12時14分11秒 | 国際政治

 アメリカのトランプ大統領がWHOへの拠出金支払いを止めたのを機に、マスメディアでは、対コロナ国際協力の重要性を訴える記事が目立つようになりました。申し訳程度にWHOのテドロス事務局長の中国追従を批判しつつも、国際協力に背を向けた同大統領の態度は中国と同程度に国際社会にとりまして有害であると決めつけているのです。

 しかしながら、新型コロナウイルス禍の経緯を具に観察すれば、中国、並びに、同国と結託した国際機関こそ世界規模のパンデミック化をもたらした元凶であることは疑いようもありません。‘チャイナ・マネー’の力で自らの息のかかった人物を事務局長の椅子に座らせ、WHOを自らのコントロール下においた中国は、同組織の枠組みを利用して偽情報を全世界に向けて発信し続け、かつ、同組織を情報隠蔽の共犯者としたのですから。春節を過ぎた後にあっても、WHOは各国の中国への渡航禁止措置を過剰な対応として批判していましたが、感染症対策の基本原則に従い、初期の段階で全面的に中国を封鎖していれば、パンデミックに至ることなく新型コロナウイルスは抑え込めたはずですので、WHOの罪は重いのです。

今日、かくも多くの人々の尊い命が失われ、一般の人々の日常が奪われた原因を問うてみますと、そこには腐敗した国際組織の害悪が見えてきます。経済的損失も全世界で500兆円を超えるとも試算されておりますが、今般のコロナ禍は、人類史における国際機関の失敗例の一つと言っても過言ではありません。結局、日本国政府をはじめ、各国政府とも、自国民の命を護るために、WHOの勧告を敢えて無視しなければならなかったのです。そして、ここから引き出される歴史の教訓とは、たとえそれが誰もが認めてきた‘権威’であったとしても、‘国際機関を妄信してはならない’というものです。コロナ禍を機に全世界の人々が目にしたのは、国際機関には加盟国の国民、否、人類を救おうとする崇高な使命感も意志もさらさらなく、自らの保身のために中国に媚びへつらい、同国の国益のためには他国を犠牲にしかねないトップの姿です。利己的で腐敗を体質とする大国に乗っ取られた国際機関ならば、存在しない方が‘まし’であったのかもしれません。

そして、‘自国民は自国が護らなければ、誰も護ってはくれない’という、国際社会の厳しい現実を嫌というほどに見せつけられることともなりました。これが、第二の教訓です。マスク、防護服、ECMO、人工呼吸器といった医療物資も半ば戦時の‘戦略物資’と化しており、生産量や供給量が限られている以上、何れの国も自国民の命を優先せざるを得ません。しかも中国に至っては、パンデミック化の大罪を背負っているにもかかわらず、医療物資不足の窮地にある他国の足元を見て‘マスク外交’による世界支配を画策する始末です。コロナ禍は、国際組織の腐敗した実態を明らかにすると共に、各国の統治能力、並びに、民間のサバイバル、あるいは、危機対応能力を強く問う方向へと向かったのです。

コロナ禍とは、人類共通の経験です。そして、この共有体験によって、人類が国際組織に対する妄信の戒め、並びに、国家レベルの統治の重要性を歴史の教訓として得たとしますと、ポスト・コロナの時代にあってWHOといった国際機関がさらに権限と影響力を広げ、国際協力をさらに深化させた未来ヴィジョンを描くことは困難です。少なくとも未だに多くの諸国がコロナ危機の只中にある現状にあっては、こうした楽観的な主張は虚しく空に響きます。

コロナ禍封じ込めの失敗の経験を糧とするならば、むしろ、WHOをはじめとした国際機関の機構を抜本的に改革する必要がありましょうし(国際機関は非民主的であり、かつ、腐敗に対して脆弱すぎる…)、そして、その方向性もまた、世界政府のように国家の権限を国際機関に移譲するような、中国好みの中央集権的なスタイルとはならないことでしょう。あるいは、人類は、各国の発信情報を相互に検証でき、また、アイディアや知見を共有し得るような、より分散的な国際協力の在り方を模索するようになるかもしれません。そして、途上国等への支援のあり方も、国際機関や大国への依存度を高めるよりも(依存は時にして支配に直結する…)、自立を促す方向に変わってゆく可能性もありましょう。何れにせよ、国際社会の基本単位でもある国家そのものの統治能力の向上、そして、善き統治を支える民主的で自由な国家体制の再構築こそ、ポスト・コロナの時代にあって人類が取り組むべき課題のように思えるのです。


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