万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカ国会議事堂占拠事件が示すリベラルのダブルスタンダード

2021年01月08日 13時09分02秒 | 国際政治

 昨日、アメリカでは、国会議事堂が、一時、トランプ支持派と目される一部集団に占拠されるという前代未聞の事件が発生しました。米憲法修正25条に基づく罷免や弾劾を訴える米民主党のみならず、メディアも他国の首脳たちも一斉に暴力主義として批判しています。しかしながら、この経緯を観察しますと、同事件の発生は、トランプ陣営のみに責任があるわけではありませんし、事件後のメディアの対応も、リベラルが内包する排他性を露わにしているようにも思えます。

 

 同事件にあっては、女性一人を含む4名の死亡者が報じられています。警察によって拳銃で撃たれたとされていますが、詳細についての報道はありません。このメディアの対応、BLM運動を思い起こせば、如何に、メディアがダブルスタンダードであるのかを思い知らされます。‘黒人の命は大事’という意味を持つBLM運動とは、警察による治安維持活動にあって黒人容疑者が射殺された事件を発端として起きた人種差別反対運動です。リベラルが支援したことから全米に波及する一方で(日本国内にも大阪なおみ選手を介して波及…)、略奪や放火などにも及び暴徒化することともなりました。どうしたわけか、BLM運動の最中にあっては同様の事件が全米各地で相次ぎ、沈静化に向かったと思いきや、各地でデモが何度も繰り返されたのです。

 

同運動を報じるに際しては、メディアは、現場の状況に詳細のみならず、射殺された黒人容疑者の氏名はおろか、その生い立ちや人柄といったパーソナルな情報までも大々的に報じていました。果ては家族までが壇上に登場し、警察の不当性を訴えていたのです。‘黒人の命は大事’というスローガンの意味するところは‘黒人一人一人の人格を尊重せよ’いうことでもあるのですから、一人の人間としての無二の人格を示す氏名や生い立ちなどはとりわけ重要であったのでしょう。

 

一方、今般の国会議事堂占拠事件におけるメディアの報道は、4名もの人々が命を落としているにもかかわらず、BLMの際とは真逆なのです。どのような状況下にあって4名の人が殺害されたのかは全く分かりませんし、犠牲者の氏名、年齢、職業、出身地、人種などについての報道もありません。本来の人種差別反対運動は、人種や民族等の違いに関係なく全ての人の命は大事という普遍性があるはずです。ところが、今般の事件では、全く以ってどこの誰であるのか、伏せられてしまっているのです。トランプ支持者ということなので、白人であることが推測されるのですが、‘白人の命は大事’ではなく、‘黒人の命だけは大事’なのでしょうか。

 

また、警察に対する報じ方にも、著しいダブルスタンダードが見受けられます。どの国であれ、政治的抗議活動に対しては、それが違法行為であったとしても、警察であれ、群であれ、殺傷力の強い銃器の使用は控えるものです。政府が国民に銃口を向けることを意味するのですから。通常は、催涙弾や催涙スプレーの使用といった殺傷性のない手段が選ばれます。この点からしますと、今般の警察による拳銃の使用は、BLM運動以上に大問題となるはずです。ところが、メディアは、何故か、警察を批判することもなく、沈黙を守っているのです(もっとも、議会警察当局の責任を問う報道はある…)。

 

人の行動には必ずそれを引き起こす理由があるものです。トランプ支持派の4人の犠牲者にも、国会議事堂への侵入が違法行為であれ、こうした行為に及ぶだけの已むに已まれぬ理由があったはずです。おそらくそれは、個人的で利己的な利益というよりも、アメリカという国家そのものに対する危機感であったのかもしれません。過激な行動に駆り立てたのは、バイデン陣営による不正選挙問題が有耶無耶にされ、国民の参政権が蔑ろにされたことに対する、一人の国民としての怒りであったのでしょう。‘不正選挙を許せない’とする正義感から出た行動であるとすれば、不正や欺瞞を嫌うアメリカ国人の多くは、たとえバイデン陣営から’テロリスト’や’反逆者’のレッテルを貼られ、刑に服することになったとしても、そのようには見ないことでしょう。

 

リベラル派は、日頃から多様性の尊重を唱えつつも、同スローガンとは裏腹に、常に自らの反対者に対しては不寛容であり、極めて排他的です。こうした事態に陥った根本的な原因が自らの不正選挙にあったことを棚に上げ、全責任をトランプ陣営に被せると共に、情報統制を強化して世論誘導しようとしているのですから。責任転嫁と他者に対する無理解な態度は、まさに中国共産党とも共通しています。

 

同事件の背景については、バイデン陣営、あるいは、両陣営の過激派を上部から操る組織による暴動誘引説も飛び交っております。事件の全容を解明するためにも、メディアには、死亡に至るまでの詳細を報じる義務があるはずです。アメリカ国民のみならず、全世界の人々は事実を知りたいのです。まずは、‘全ての人の命は大事’なのですから、同4名について氏名、性別、人種、民族、宗教をはじめ、どのような動機があったのかも含め、総力を挙げて取材すると共に、収集した情報を公開すべきではないかと思うのです。それがフェイクニュースでなければ、人々は、同情報に基づいて自ら同事件について判断することでしょう。


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