万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘ワクチン差別’システムの行方

2021年01月27日 11時49分52秒 | 日本政治

 日本国政府、あるいは、その指南役は、国民がワクチン接種を忌避する事態に備え、接種キャンペーンに続く二の矢として、‘ワクチン差別’という手法を検討している節があります。他者に対して自らの意思を押し付けようとする時、得てして、‘脅し’という手段が採られるものです。今般のワクチン接種のケースでは、ワクチン接種を拒んだ国民を対象として、移動や各種サービスの利用に制限を設けることで、ワクチン接種の方向に誘導しようとしているようです。

 

 ワクチンの接種証明が実質的に‘免疫パスポート’として機能するとなりますと、それは、‘デジタル・ディストピア’の到来を意味することは本ブログにおいても既に指摘しております。接種記録はスマートフォン等を介してチェックされ、ワクチン接種のデータ記録を持たない人は、海外渡航はおろか、自由に国内を旅行することも叶わず、商店、飲食店、並びに、各種サービス店への入店も断られてしまいます。職場への出勤も止められ、一切の外出もできないともなれば、普段通りの社会生活も日常生活も望むべくもありません。非ワクチン接種者は、表に出ることができない‘影’の存在に貶められてしまいましょう。

 

‘免疫パスポート’のシステムには、個々の自由に対する強い制約が課せられますので、この手法は、非接種者に対して‘自由か、ワクチン拒否か’の二者択一を迫ることを意味します。もっとも、新型コロナウィルス・ワクチンは、何れのタイプでも安全性は保障されてはいませんので、ワクチンに懐疑的な人々にとりましては、この選択は、無意味な選択となりましょう。自由を選んでも真に自由になるわけではなく(接種者となったとしても全員が、常に監視・管理されている…)、ワクチンを打てば、以後、死に怯えながら生きることになりますので、選択者にとりましては、‘どちらがより悪くないか’の問題でしかないのです。

 

それでは、この計画、発案者の思惑通りとなるのでしょうか。幾つかの障壁を前にして、同計画は、挫折するかもしれません。第一の障壁は、政府のダブル・スタンダードに対する批判です。非接種者は、政府容認の‘ワクチン差別’に直面することとなるのですが、考えても見ますと、この差別、民間にあって見られたコロナ罹患者等に対する‘差別’に対する態度と真逆です。政府もメディアも‘コロナ差別’に対しては声高にこれを糾弾し、それをなくすよう訴えてきました。一方、‘ワクチン差別’の対象者は、他者に感染させるリスクの殆どない人々に対するものである上に、疫学的に隔離する必要性もない健康な人々です。それにも拘わらず、ワクチンを接種しないという理由のみで、政府は、公的な差別をむしろ積極的に進めようとしているのですから、こうした差別容認は、国民に対する過剰な自由の制限として、憲法違反を問われる可能性さえありましょう(立法による義務化は困難では…)。

 

 第2の障壁は、非接種者が多数に上るケースにおいて発生します。ワクチン接種を以って移動や利用の条件としますと、非接種者が人口の大半を占める場合には、事業者は、顧客や利用者の大半を失うことになるからです。つまり、‘ワクチン非接種者お断り’の張り紙を入り口に貼りますと、入店できる人は少数に限られてしまうのです。接触を伴うサービス業の市場が大幅に縮小することになりますし、事業者は、減益を覚悟しなければならなくなります。このため、たとえ政府が容認する、あるいは、民間事業者に同システムの導入を要請したとしても、読み取り機などの購入コストも経営を圧迫しますので、同要請に応じる民間事業者は限られてしまうことでしょう。

 

第3に挙げられる点は、同システムの導入が、日本国の分断を招いてしまうリスクです。非接種者は、非接種者も受け入れる事業者を利用することとなりますので、接種者と非接種者とでは‘住む世界’が違ってしまう可能性があるのです。日本国内はパラレルワールド化し、接種者であれ、非接種者であれ、国民はどこか、気の重い状況に置かれることとなりましょう。

 

そして、第4の障壁は、ワクチン効果の持続性です。政府は、ワクチンの普及により、事実上の集団免疫が成立することを期待しているのでしょうが、ワクチン効果の持続期間によっては、半年ごとに大規模なワクチン接種事業を実施しなければならなくなります(医療機器の大手メーカーは欧米企業で占められているものの、中国に製造拠点を移している企業も少なくない…)。集団免疫状態は短期間しか持続せず、接種者も数か月も経過すれば非接種者に戻りますので、両者の境界線が曖昧となる可能性もありましょう。ワクチン効力が短いほど、非接種者の数も増加することが予測されるのです。

 

以上に4点ほど予測される主な障壁を挙げてみましたが、自由を制限することで国民をワクチン接種に追い込む手法は、同手法に納得しない国民からむしろ反感を買ってしまうのではないでしょうか。恐怖政治を想起させる手法が通用した時代は、既に過ぎ去っているのではないかと思うのです。


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