万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘アラブの春’とは何であったのか?-SNSのダブル・スタンダード

2021年01月15日 12時35分02秒 | 国際政治

今から10年前、中東諸国では‘アラブの春’と称された革命の嵐が吹き荒れました。この時、同革命を支えたのが他ならぬSNSでした。抗議活動のリーダーたちによるツイッターやフェイスブックによる呼びかけは瞬時に人々の間に広がり、放送局や行政機関等もデモ隊によって襲撃・占拠されています。かくして、ドミノ倒しのようにチェニジア、エジプト、イエメン、リビアなど中東諸国の独裁政権は、次々と崩壊に追い込こまれていったのです。

 

 ‘アラブの春’は、圧政に苦しめられてきた民衆の勝利、即ち、民主主義の勝利として報じられ、その立役者となったSNSも革命の新たな‘ヒーロー’として脚光を浴びることとなりました。日本国を含めた全世界の人々は、SNSこそ民主主義に貢献する民衆側のツールとして賞賛しましたし、SNSの世界大での急速な普及も、‘アラブの春’での活躍があってのことかもしれません。独裁者を追放する力を国民が持つことを可能としたのですから。

 

 同事例が示すように、SNSは、それがコミュニケーション手段である故に、政治と不可分に結び付いてしまいます。この側面は、‘アラブの春’で既に証明されているのですが、今般のアメリカ議会占拠事件を機としたSNSの対応は、‘アラブの春’の時とは真逆のように思えます。仮に、同事件にあって示されたSNS、並びに、IT大手企業の判断基準に基づけば、当然に、‘アラブの春’にあっても、抗議行動への書き込みは禁止され、投稿者のアカウントは凍結されるべきでした。しかも、同抗議にあっては、発言の解釈を争う余地もなく、政権を倒すための直接的な行動が呼び掛けられています(BLM運動でも暴力的な呼びかけがあったのでは…)。

 

 もっとも、他に手段のない非民主的な独裁政権下では許されるけれども、‘アメリカは民主主義の国であるから許されない’とする反論もありましょう。しかしながら、民主主義国家にあっても、デモによる抗議活動は違憲でも不法でもなく合法的な行為です。また、問題の核心は民主党側による不正選挙ですので、同問題を不問に付したまま新たな大統領が選出されるとなれば、もはやアメリカは民主主義国家ではなく、それを理由にSNSから締め出す排除行為を正当化できないはずです。じつのところ、民主党側がメディアやSNS各社、IT大手、そして‘セレブ’とも称されるインフルエンサー迄をも総動員して異議申し立てや異論を封じ込めているとすれば、アメリカ国民こそ、‘アラブの春’における民衆側の立場にあると言えましょう。‘権力’側の不当かつ不正な行為を糾弾し、民主主義の実現を求めているのですから。

 

 SNSは、‘アラブの春’にあっては‘国民の味方’でしたが、現在のアメリカにあっては、‘国民の敵’へと転じつつあります。もっとも、‘アラブの春’にはCIAやジョージ・ソロス氏、あるいは、超国家組織が関与していたとする指摘が事実であれば、前者であれ、後者であれ、何れの国民も、これらの組織がシナリオを描き、演出した大規模な政治劇に踊らされているだけなのかもしれません。そして、アメリカのSNSを取り巻く環境は、国民の反抗や反乱を恐れている中国共産党にとりまして有利に働くことでしょう。中国が、ネットや言論空間において反政府的発言を完全に排除しても、もはや、自由主義諸国からの批判を恐れることはなくなるのですから。米民主党は、バイデン氏をはじめ中国とも強い繋がりがありますので、超国家組織を介して両者は協力関係にあるのかもしれません。SNS各社のダブル・スタンダードぶりは、自らの権力確立や利益にとって都合のよい場合にのみ、民衆の力を利用しようとする超国家組織の存在を前提としなければ、説明がつかないようにも思えます。

 

 何れにしましても、上院での弾劾裁判は、正義がどちらの側にあるのかを示すことでしょう。この場で民主党側の不正選挙が明らかとなれば、‘アラブの春’の時とは反対に、全世界の諸国にあって、多くのユーザーがSNSから離れてゆくのではないかと思うのです。


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