万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮の新型極超音速ミサイル実験は代理実験?

2022年01月06日 12時18分23秒 | 国際政治

 昨日1月5日、北朝鮮がミサイルの発射実験を日本海に向けて実施し、日本国内のメディア各社も速報として報じました。当初は’弾道ミサイル’とのみ報じられていましたが、本日の報道では、同ミサイルは、目下開発中の最新鋭の新型極超音速ミサイル、「火星8号」であったようです。

 

 極超音速ミサイルは、飛行中に弾頭が分離し、低空を変則的な軌道を描きながら音速5倍以上の速さで飛んでくるため、既存のミサイル迎撃システムを無力化するとされています。同技術が確立しますと’ゲーム・チェンジになる’とさえ言われていますので、いち早く同技術を手に入れるべく、今日、アメリカ、ロシア、中国、そしてインドがその開発に鎬を削っております。いわば、軍事大国が開発競争を繰り広げる先端技術なのですが、ここに、何故か、小国であるはずの北朝鮮が顔を見せているのです。そして、ここに、大手メディアが報じない事実が隠されているように思えます。

 

 北朝鮮による核開発が明るみとなった90年代にあって、同国の核保有の主たる動機として挙げられていたのは、核の抑止力論です。朝鮮戦争は未だ停戦状態にあり、終結しているわけではありませんので、北朝鮮が、超大国のアメリカと対等に渡り合うためには、NPT体制を悪用した核保有の’抜け駆け’を要した、というものです(実際に、両国のトップがテーブルに着いたトランプ・金米朝会談が実現している…)。核兵器の製造にはそれ程高い技術力を要するわけでもなく、かつ、北朝鮮はウラン産出国でもありますので、小国であっても核兵器さえ保有すれば、アメリカからの核攻撃を抑止し得ると共に、他の周辺非核保有国に対して軍事的に有利に立てるという見込みがあったからです。

 

 この時は、この説明に多くの人々が納得してしまったのですが、今般の極超音速ミサイルについては、抑止力論での説明には無理があります。そもそも、極超音速ミサイルは、防衛システムを破る対抗兵器として開発中の攻撃兵器であり、防衛を目的とした兵器ではありません。即ち、正当防衛論が通用しないのですから、同技術の開発そのものが、国連憲章、並びに、NPTに違反していると考えざるを得ないのです(もっとも、侵略の意図が明らかな敵地のミサイル基地を事前に破壊するために用いる場合には、正当防衛論は成り立つかもしれない…)。

 

 そして、何よりも、北朝鮮という国の謎を深めているのが、極超音速ミサイルがハイテク兵器である点です。核兵器は、今日ではテロリストでも製造できるとされるほどのローテク兵器となりました。一方、極超音速ミサイルの開発に取り組んでいる国の顔ぶれは、米ロ中印といった軍事大国であり、しかもハイテク技術を有している国ばかりです。一方、北朝鮮の人口、資源、技術、教育等のレベルからしますと、同国が、単独で同ミサイルを開発し得るとは考えられないのです(700キロメートル先の標的を正確に命中したとも…)。

 

 マスメディアの多くは、ミサイル実験は、主として北朝鮮の国内事情、あるいは、米朝関係において解説しています。しかしながら、単独開発が困難な高レベルの技術であるとしますと、北朝鮮の背後に潜む存在を推測せざるをえなくなります。つまり、北朝鮮は、新型極超音速ミサイルを代理実験したに過ぎない、とする疑惑があるのです。北朝鮮がサイバー攻撃によって米ロ中印から技術を盗取した可能性もないわけではありませんが、仮に、それが事実であれば、北朝鮮は、軍事大国が有する最高度のセキュリティー技術を掻い潜る技術を有していることになりましょう。そして、このサイバー技術も、北朝鮮が単独で開発したとも思えないのです。

 

 それでは、北朝鮮を背後から操っているのは、一体、どのような勢力なのでしょうか。最もあり得る推測は、中国、あるいは、ロシアであるというものです。特に中国につきましては、米中関係が悪化する中、極超高速ミサイルの実験をあからさまに実施すれば、アメリカを刺激し、かつ、国際社会からの批判も浴びるとして、北朝鮮に代理実験をさせた可能性があります(ロシアも、ウクライナ問題で緊張を高めたくない?)。あるいは、北朝鮮という’別動隊’の存在を暗に示すことで、アメリカに対して軍事的優位を誇示しているのかもしれません。そして、もう一つ、可能性があるとすれば、それは、全世界の諸国に対して隠然たる支配力を及ぼす超国家権力体です。この場合、北朝鮮の極超音速ミサイルの技術は、アメリカ内の超国家権力体由来である可能性さえありましょう。

                                                                                

  何れにしましても、北朝鮮による極超音速ミサイルの実験は、これまでのカバーストーリでは説明し切れない‘何か’を示しているように思えます。平和を望むならば、表に見える世界の背後に隠れている事実こそ丹念に調べ、真の姿を見極めた上での対応に努めるべきなのでしょう。そしてそれは、政府に期待できない以上、各国の国民に委ねられているように思えてならないのです。


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