万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

東京メトロ株売却はそもそも必要ないのでは

2024年08月23日 11時40分13秒 | 日本政治
 今般、東京証券取引所での上場が取り沙汰されている東京メトロをはじめ、日本国政府並びに地方自治体による公営事業の民営化は、レーガノミクスやサッチャリズムが時代の潮流であった38年前の決定を踏襲したものです。今日、新自由主義並びにグローバリズムは曲がり角を迎え、既に潮目が変わりつつあります。見直し論が高まる中にあって、既定路線通りに東京メトロの株式売却を進める必要性は、一体、どこにあるのでしょうか。

 報道に因りますと、東京メトロの運営状況は、‘最近24年4~6月期の連結決済‘を見ますと、売上高が前年同期比で6%増えで1019億円、営業利益は同34%増の290億円、純利益は同38%増の180億円なそうです。何れも前年同期と比較して増えているのは、コロナ禍後の外出や公共交通機関の利用の機会の増加、即ち、平常化に伴うものでしょうから、今後とも、同程度の収益が見込まれることでしょう。

民営化を訴える際の主要な根拠の一つは、公営事業にしばしば見られる慢性的な赤字体質の改善です(赤字補填は財政逼迫化の要因・・・)。しかしながら、上記の東京メトロの収益状況の数字を見る限り、この指摘は当たりません。むしろ、純利益を四半期で180億円もあげれば、政府や都、否、国民や都民にとりましては’ドル箱‘ならぬ’円箱‘となりましょう。純利益の使途についての詳細は分からないものの(事業収益として政府や都の歳入となる?)、上場後は、少なくとも民間株主には配当金を支払わなければなりませんので、一般の国民や都民への還元率は下がります。

 また、もう一つの民営化の有力な根拠は、経営の効率化並びに合理化です。民間企業とは違い、過剰な人員を抱え込んだり、不要な公共調達が日常化しても合理化へのインセンティヴが働かないため、公営事業体には‘無駄遣い体質’が染みついているというのです。同体質を改善するためには、費用対効果を重視する民間に運営を任せた方がよい、というのが民営化論者の主張なのです。しかしながら、非効率性あるいは非合理性の観点から見ましても、東京メトロは当て嵌まらないように思えます。それは、東京メトロの地下駅構内の風景を見れば一目瞭然です。‘無駄な人員’ところか、駅員さんを見つけるのさえ一苦労するのですから。しかも、近年、行政機関のアウトソーシングが進むと共に、ITなどの活用によりとりわけ公共交通機関では、官民を問わずに効率的でシステマティックな運営が実現しています。

 さらに民営化論では、市場メカニズムの導入が声高に叫ばれています。独占的な公営事業では業者間の競争、特に価格競争が働かず、消費者やユーザーが不利益を被るとする説です。一般的な製造業やサービス業などではこの説明にも説得力があるものの、公共交通事業については、この根拠は意味をなしません。そもそも、地下鉄といった不可欠施設を要する交通インフラ事業は、時空による制約により独占事業とならざるを得ないからです。つまり、東京メトロのケースでは、市場の競争メカニズム導入は不可能なのですから、民営化の根拠とはなり得ないのです(ライバル事業者が存在しない・・・)。

 そして、東京メトロを建設するための総事業費を考慮しますと、民営化が、如何に国民や都民にとりまして不利益となるのか、容易に理解されます。東京メトロの直接の前身は、戦前の1941年に設立された帝都高速度交通営団なのですが、凡そ1世紀近くにわたって国や都が地下採掘や用地買収などに要した予算の累積総額が膨大な数字となることは想像に難くありません。因みに、現在、計画中の有楽線・南北線の延長事業費は、4000億円とも5000億円とも試算されております(同建設費の全部あるは一部は、上場後も国や都の予算から支出されるのでは・・・)。株式総数の半数であれ、株主=所有者の認識の元では、相当の安値での‘売却’と言うことになりましょう。これでは、戦前にあって疑獄事件に発展した国有財産の安値払い下げを、民営化の‘美名’の下で合法的に行なっているようなものです。

 以上に東京メトロについて民営化並びに株式上場の主要な問題点について述べてきましたが、全国にあって水源の中国資本による買い占めや不動産市場へのチャイナ・マネーの流入が問題視されていますように、今後は、グローバリストの欧米系投資ファンド等みならず貪欲な中国資本も、東京メトロ株を含む日本国のインフラ関連事業株を買い漁るかも知れません(日本国の植民地化へのステップ・・・)。東京メトロの民営化の必要性は見当たらず、むしろ、国民や都民にとりましては、百害あって一利なしなのではないかと思うのです。

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