万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由主義が善で「資本主義」は悪なのでは

2024年08月05日 09時49分47秒 | 国際経済
 本日、ウェブ上に「「資本主義」は社会の発展に不可欠な必要悪?」とするタイトルのネット記事を発見いたしました(Wedge、8月5日配信)。同記事は、「資本主義」の利点を分かりやすく説明するために、女子プロレスリングや「仮面ライダー」などを引き合いに出しており、誰もが分かりやすいように書かれています。同タイトルを見た人々の中には、‘「資本主義」をなくしてはならない’と早合点する人もいることでしょう。何と申しましても、「資本主義」あっての経済発展なのですから。しかしながら、「資本主義」は、同記事が述べるように‘社会発展に必要不可欠な必要悪’なのでしょうか。

 資本主義という表現は、しばしば共産主義や社会主義の反対語として使用されてきました。その理由は、共産主義の祖ともされるカール・マルクスがその大著『資本論』において、労働者を搾取しつつ資本家のみが肥え太る、当時の経済システムを痛烈に批判したからなのでしょう。その一方で、一般的な用語としては、自由主義国の経済システムは、資本主義の他にも自由主義や市場主義などの名称でも呼ばれており、必ずしも一本化されているわけではありません。現行の経済システムは、様々な視点や角度から見ることでその呼び方も変わってくるのです。

 呼称が様々であったとしても、一つ、共通点があるとしますと、それは個人の経済的な自由が保障されている点です。「資本主義」が、統制経済あるいは計画経済をもって最大の特徴とする共産主義に対置されるのも、あらゆる権力が政府に集中する前者には個人の経済的な自由が皆無に等しいからと言えましょう。言い換えますと、資本主義という用語には、共産主義との対比において‘自由’という概念が含まれるのです。おそらく、同記事の筆者も、この意味において「資本主義」を捉えているのでしょう。

 そして、ここに、同記事には詭弁的な論法が登場することとなります。「資本主義」を必要悪とみなす根拠として、個々人の経済活動の自由を力説しているからです。「資本主義」であれば、「個人個人で独立して勝手に頑張れる」として。そして、社会主義が失敗したのは、資本主義あるいは資本家を排除したからと述べているのです。つまり、皆が豊かに暮らすには、資本主義も資本家も必要という論法なのです。

 しかしながら、資本主義と自由主義が互換性のある用語であるのか、と申しますと、そうではないように思えます。マルクスが批判したように、資本家達による資本の独占や寡占が許される状態であれば、株式の取得や企業の‘所有’により、私人による全面的な経済支配もあり得るからです。この状態に至りますと、私的独占による自由の消滅、並びに、それに付随する自由な競争も失われ、自律的な経済発展のメカニズムは停止してしまいます。表向きは自由主義国に見える非社会・共産主義国家であっても、私的独占による一般国民の貧困もあり得るのです(このため、現在では、競争法が制定され、独占や寡占は禁じられている・・・)。

 今日、一部の資本家、即ち、グローバリストへの富の集中は既に深刻な構造的な問題として表面化しており、DXやGXといったテクノロジーの普及がこれを支えています。私的独占が自由主義を蝕んでいるのであり、この現象に注目すれば、今や資本主義や資本家は、マルクスが生きた19世紀のように、搾取的なシステムをより広範囲に、つまり、グローバルに構築しようとしているように見えるのです。言い換えますと、広義の「資本主義」には私的独占も含まれているのであり、自由は自由でも、何らの制約なく資本家がマネー・パワーを発揮し得る極少数の人々の‘自由’なのでしょう(むしろ、新自由主義と表現した方が適切かも知れない・・・)。

 マネー・パワーが猛威を振るう由々しき現状からしますと、同記事の筆者のように、「資本主義」や資本家を‘必要悪’として擁護できるのか、と申しますと、この見解には疑問があります。誰もが否定し得ない‘自由’という価値を持ちだして、悪徳資本家、つまり、今日の強欲で無慈悲なグローバリスト達まで十把一絡げで擁護しようとしているにように見えるからです。因みに、今年の6月18日、ロイター社は、かの米投資大手ブラックストーン社が総額2756億円をもって日本国内で電子漫画配信サイト「めちゃコミック」を運営しているインフォコムを買収する旨を報じています(TBOの期間は7月31日まで)。同記事の筆者は、漫画家であるさくら剛氏なのですが、背後に‘資本家’の陰を疑うのは、的外れな推測なのでしょうか。

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