万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米価高騰は農政改革と関連するのか?

2025年02月03日 12時21分14秒 | 日本政治
 多くの人々にとって、経済の仕組みが複雑に感じられ、分かりづらいのは、国民に公開されていない情報があまりにも多いからなのではないでしょうか。現実には、国民の目には見えないところで、教科書に記述されている範囲の知識や情報を遥かに超えた活動が幅広く行なわれているのですから。

 例えば、今般の米価高騰を見ましても、日本国民の多くは、何故、かくも米価が高騰するのか、その理由が分からない状態に置かれています。その理由は、お米に関する生産から小売りまでのあらゆる段階に加え、金融まで関わる不透明な部分、即ち、‘謎’が多いからです。例えば、日本農業協同組合(農協)や農林中央金庫(農林中金)の問題は今に始まったことではありませんが、外国債権の投資の失敗で生じた凡そ2兆円ともされる農林金庫の損失は、一体、どのような経緯で生じたのかも、謎の一つです。同金庫は、米国債を中心に外国債券を運営してきたと報じられていますが、大量の米国債を保有しているとの説が正しければ、円安によってむしろ含み益も生じているはずです。また、他の金融機関では米国債保有を理由とした巨額損失のお話は聞きませんので、農林金庫のみがかくも巨額の損失を被ったことに首を傾げざるを得ないのです。

 この件に関しては、同巨額損失を受けて、農林水産省の有識者検証会が、農林中金のリスク管理体制を問題視し、理事会への外部有識者の参加等を提言しています。同提言の内容は、巨額損失の再発防止策なのですが、ここで思い起こされますのは、小泉進次郎議員が農水相を勤めていた際に、農協の解体を主張していたことです。確かに、農協の存在にも多々問題があるものの、その一方で、この改革案、どこか、小泉純一郎首相が断交した「郵政民営化」に伴う郵政事業の解体を連想させるのです。農協とは、今般の巨額損失事件の発生現場となったように、貯金、融資、各種保険をも扱う金融部門を含む総合事業体です(農産物の集荷事業も、郵便物の集荷に類似している・・・)。総資産が100兆円を超える巨大なる機関投資家でもあるのです(貸出金残高約18兆円、預金残高約60兆円)。

 郵政民営化については、郵政事業の金融部門を海外の金融勢力に明け渡したとする批判もあり、小泉政権が、国民の利益を慮って行なったのかは疑わしいところです。今般の農水省の有識者検証会が、外部人材の登用に加え、安定よりも利潤重視の方向にポートフォリオの見直しを求めたのも、それが、さらなる‘日本国の金融市場の開放’を意味するからなのかも知れません。海外、つまり、金融勢力であるグローバリストの利益が絡みますと、何故か、政治・行政サイドの動きが素早くなるのです。問題視されているのは、米価高騰ではなく、農林中金の巨額損失なのですから。

 このように考えますと、先の自民党の総裁選挙にあって、背後から支援していた小泉進次郎氏が敗北したことから、グローバリストは、農林中金への内部への浸透、あるいは、別の方向からの‘農協解体’に作戦を変えたとする推測も成り立つように思えます。今後、今般の巨額損失や米価高騰の責任を問われる形で、農協の解体、あるいは、分割を求められるという展開もあり得ないわけではありません。そして、この改革の対象は金融部門に限られるわけではなく、その先には、小泉元農相の方針の如く、輸出可能な米作への転換という目的も含まれているとも推測されましょう(当初の目的は、米価引き下げによる輸出競争力の強化であったものの、今日では、国内の高価格を維持しつつ、別ルートで海外への輸出が拡大しているらしい・・・)。

 先ずもって、農林中金の巨額損失は、何故、発生したのか、その詳細を解明する必要がありましょう。そして、それは、単なる一金融機関の運営失敗に留まるものではないように思えるのです(つづく)。

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