万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米価高騰は国会で調査を-国政調査権の行使

2025年01月31日 10時52分57秒 | 日本政治
 米価高騰は、川柳にも詠まれて話題になるほどの国民の関心事となっています。昨年秋の収穫時期を過ぎても価格が下がらないのですから、この先を案じる国民は少なくないはずです。高止まりどころか、さらなる値上がりを予測する声もあり、国民の不安は募るばかりです。しかも、米価高騰の原因やメカニズムにつきましては、政府からの国民に対する明確なる説明もないのです。

 このため、マスメディアであれ、ネットであれ、様々な憶測が飛び交うこととなりました。本ブログでも、先物取引原因説を唱えたのですが、詳細な情報も専門知識も欠ける上に、昨年春頃から始まる農林中央金庫の巨額損失、大阪堂島商品取引所での先物取引の復活、SBI証券の参入、買い占めの誘発など、関連性が強く疑われる一連の出来事からの推測に過ぎません。国民生活に直結する大問題でありながら、国民の誰もが、何故、お米の価格が上昇し続けているのか、その理由を知らないのです。

 政府は、食糧の安定供給について責務を負っていますので、主食である米価の高騰は、農政の問題、つまり、政治問題でもあります。ところが、現状を見る限り、日本国政府は、説明責任の無視に加え、何らの効果的な対策をも打たずに今日に至っています。米価高騰が始まってからかれこれ半年以上の月日が経っているにも拘わらず、どうしたことか、放置状態が続いているのです。昨今、ようやく政府備蓄米の放出を検討に至ってはいるものの、政府は、黙認状態を続けるのでしょうか。

 政府の不作為は、国民に対する統治責任の放棄であり、怠慢を理由とした行政訴訟が起きてもおかしくはないのですが、先ずもって問題となるのは、冒頭で述べたように米価高騰の原因が不明である点です。否、様々な説が飛び交い、原因が不確かである状況を利用して、政府が対策を怠っている節もあります。その一方で、この原因不明の状況は、別の解決手段に訴えるチャンスともなり得ます。それは、国会による対応です。

 国会と言いますと、憲法において立法機関と位置づけられているため、衆参何れの国会議員であれ、法律の制定や改正に専念しているというイメージがあります。それが、たとえ法案の採決に際して議場で一票を投じるだけであっても。しかしながら、議会には、一般的に国政調査権という権限があります(日本国憲法では第62条)。これは、議会が政府をチェック(制御)する権限であり、政府や行政機関に何らかの不正や違法行為等が疑われたり、国民の利益のために必要とされる場合、議会は、当該問題について厳正なる調査を実施することができます。諸外国では、より中立・公平性を確保し、客観的な立場から調査が実施されるように、専門家から構成されるオンブズマンを設けるケースもあり、重要な議会機能の一つに数えられています。

 国政調査権を行使するならば、最も標準的な方法は、衆参何れであれ、農林水産委員会が同調査を担うというものです。現在、衆議院の同委員会では40名の議員がメンバーとなっており、参議院では20名ほどです。これらの委員を務める議員が、率先して米価高騰の問題に対処すべきなのですが、現状にあって、政府の怠慢を追求することも、自ら対処しようとする姿勢を見せないところに、与党であれ野党であれ、今日の日本国の政治家の無責任さが伺えます。

 また、国会として米価高騰問題を扱う第三者委員会を設けるという方法もありましょう。これは、上述したオンブズマン形式に近いのですが、複数の専門家を委員として任命し、広範な調査権を与えるというものです(調査結果に基づき、具体的な対策についても提言権を与えることも・・・)。国会議員には内外からの圧力がかかりますし、利権も絡むことがありますので、中立公平な調査を実施するには、農林水産委員会よりも特別に調査委員会を設置する方が適していますし、国民も調査結果に対して信頼を置くことでしょう。

 今般の異常なまでの米価高騰は、複合要因説が唱えられるほど、不透明感が漂っています。国民の多くが不信感を抱いているのですから、政府のみならず、国会も、即、対応に乗り出すべきなのではないでしょうか。国会もまた沈黙を決め込んでいるとしますと、国民の政治不信も米価と同様に上がり続けるのではないかと思うのです。

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