万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「日本の不動産に1兆円」-投資ファンドはグローバリストの先兵?

2025年01月20日 11時58分12秒 | 日本政治
 「日本の不動産に1兆円」とは、昨日1月19日付の日本経済新聞の一面に掲載されていた記事の見出しです。同記事の内容は、アジア系投資ファンドのPAG(Pacific Alliance Group)が、今後3年間において1兆円規模の日本国内の不動産投資を予定しているとするものです。

 PAGは、不動産や未公開株等を主たる投資先とする代替投資会社と称される投資ファンドの一種あり、プライベート・エクイティ・ファンドとも呼ばれるものです。プライベート・エクイティ・ファンドについては、債務不履行の窮地に陥った貧困国から同国が発行した公債を買取り、債務削減交渉を拒絶して容赦なく債務返済を迫る行為がこれまでの問題視されてきており、この側面だけを見ましても、全てではないにせよ、投資ファンドというものの植民地主義的な行動パターンが伺えます。

 さて、PAGの歩みをみますと、同社は、まさしくグローバリズムの発展と軌を一にしています。同グループは、2002年にイギリス人のクリス・グラデル氏等が設立したパシッフィック・アライアンスを前身としており、2010年に不動産部門の投資ファンドであり、ジョン・ポール・トッピーノ氏が代表取締役社長を務めてきたセキュアード・キャピタル・ジャパン(1997年設立)と合併し、同年、共同創設者となるウェイジャン・シャン(単偉建)氏もプライベート・エクイティ部門を設立し、PAGに加わっています。現在、クリス・グラデル氏、ジョン・ポール・トッピーノ氏、並びに、単偉建氏が共同創設者とされ、同グループの株式の過半数もこれら三者によって所有しているとされます。

 PAGは、香港に本社を置き、東京、上海、ソウル、シンガポールにも支店を設けていますので、紙面に見られる‘アジア系ファンド’という表現は、その地域的な投資ターゲットに起因します。今般の対日投資では、その説明に当たったのはトッピーノシ氏であったのですが、本社が香港ということもあり、中国との関係が極めて深いことも、同グループの特色です。共同創設者以外の幹部の顔ぶれを見ましても、姓名をから判断しますと、9人の内6人は中国系のようです。そして、ここで注目されるのは、同グループの代表取締役会長である単偉建氏です。

 香港に本社がありますので、多くの人々が、単偉建氏は香港系の中国であり、元より西欧の価値観に馴染んできた人あろうと想像することでしょう。ところが、経歴を調べてみますと、この人物像は音を立てて崩れてゆきます。同氏は1954年に北京市で生まれており、文化大革命の嵐が吹き荒れる時代に中国本土で育っているのです(同時期には、内モンゴルに下放されている・・・)。習近平国家主席とは、同世代となりましょう。1975年には北京に戻り、対外経済貿易大学で学ぶのですが、その後アメリカに留学し、サンフランシスコ大学を経て最終的にはカリフォルニア大学バークレー校でPhD.を取得しています。1987年からは、ヤング・プロフェッショナル・プログラムのメンバーとして世界銀行の投資部門に勤務し、ペンシルバニア大学で6年間教鞭を執った後、1993年から1998年までの期間はJ.P.モルガンに活動の場を得ています(マネージング・ディレクター兼中国担当責任者の職も兼任)。

 ここまでの経歴を見ますと、投資畑一筋で生きてきたようなイメージを受けるのですが、日本国内ではあまり知られていないものの、同氏は作家でもあります。2019年に出版した、自らの自叙伝とも言える『Out of the Gobi: My Story of China and America』をはじめ、『マネー・ゲーム』や『マネー・マシーン』といった多数の著作もあります。しかも、大英博物館の理事を務める文化人でもあり、どこか、‘グローバルな人脈’を覗わせるのです。加えて、同氏は、現在、香港証券取引所の国際諮問委員会の委員であると共に、アリババ・グループにあって社外取締役をも勤めてもいます。

 PAG、並びに、同氏の背景を探ってゆきますと、そこには、中国共産党、香港、イギリス、アメリカ、世界銀行、ユダヤ金融財閥、証券取引所、プロパガンダといった、東インド会社をも彷彿されるようなグローバリズムのキーワードが至る所にちりばめられていることに気付かされます。そして、PAGの日本国内での‘ミッション’が、データセンターの開発用地の確保や日本企業が保有する社員寮等の買取である点を考慮しますと、同社の投資によって、日本国内における‘デジタル支配’が強化されると共に、取得後の転売を含め、中国人をはじめとした外国人による日本国の土地所有が加速されることとなりましょう(地価高騰にも拍車をかけ、一般の日本国民には手がとどかないものに・・・)。

 投資ファンドの役割がグローバリストの先兵であるとしますと、グローバリズムの侵害性について議論を深めると共に、日本国政府は、こうしたファンドの活動に対しては法的規制を課すべきなのではないでしょうか。そして、この現実を目の当たりにしますと、政治家やメディアが煽る米中対立もどこかお芝居じみて見えてくるのです。

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