万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

神はトランプ前大統領に味方したのか?

2024年07月25日 11時48分28秒 | 統治制度論
 次期大統領選挙の遊説中にあった7月13日に、トランプ前大統領が銃撃された暗殺未遂事件は、直後にガッツポーズをもって自らの無事をアピールしたことから、同候補のへの支持率を跳ね上げることとなりました。物理的な抹殺を狙う暗殺という暴力手段にも屈しない不屈の精神をアメリカ国民に見せつけたからです。トランプ前大統領の当選が確定したかの勢いを前にして、同事件の責任を問われている現職のバイデン大統領では選挙は勝てないと判断した民主党陣営は、急遽、現職のバイデン大統領からカマラ・ハリス氏に取り替え、マネー・パワーを動員し、総力を挙げてハリス候補を推しているようです(バイデン大統領の撤退は、本人の意思によるものかどうかは不明・・・)。

 ハリス氏が正式に民主党の統一候補者として指名されているわけではないものの、ロイター社やAFP社等の世論調査によりますと、現状にあっては、トランプ前大統領とハリス候補との支持率は逆転し、後者がリードしているともされます。もっとも、過去においてマスメディアがヒラリー・クリントン氏優勢を報じつつ、トランプ前大統領が勝利した前例もあります。マスメディアがマネー・パワーの世論誘導・情報統制機関と化している現状からしますと、同世論調査の信憑性は疑わしいのですが、日本国内のメディアも手の裏を返すようにハリス氏推しに転じていますので、グローバルレベルで巨額の‘選挙資金’が投入されているのでしょう。そもそも、どちらが優勢であれ、数パーセントの僅差で両候補の支持率が拮抗する選挙戦の構図自体に、どこか、不自然さが漂っているのです(不正選挙を誤魔化しやすい?)。

 さて、以上に述べてきたように、トランプ前大統領暗殺事件は、大統領選挙に民主党陣営の候補交代という多大な影響を与えたのですが、トランプ大統領の支持率が上昇した理由は、冒頭で述べたガッツポーズの画像のみではありません。もう一つ、要因を挙げるとすれば、それは、同候補の‘生還’が奇跡的であったことです。仮に、銃弾が僅かでもずれていれば、また、トランプ前大統領が首を斜め方向に傾けなければ、‘トランプ元大統領暗殺事件’として歴史の教科書に記されることでしょう。命が助かる確率は決めて低く、このため、神意によってトランプ元大統領の命が救われたとする見方が生じたのです。

 “神の御業”説は、アメリカにおける一大新興宗教団体にしてトランプ陣営の支持団体でもある福音派の信者の人々の信仰心を一層高めたことでしょう。その一方で、一般の国民に対しましても、一定の心理的な影響を与えたことは想像に難くはありません。何故ならば、トランプ前大統領は、‘ディープ・ステート’の名をもって、アメリカを裏からマネー・パワーでコントロールしようとする世界権力を批判してきたからです。‘ディープ・ステート’と言えば、グローバリズムの強力なる推進によりアメリカの中産階級を破壊した‘元凶’と見なされていますし、戦争ビジネスの最大の受益者でもあります。かつ、エプスタイン事件に象徴されるように人身売買、麻薬、汚職といったあらゆる犯罪の総元締めとも目され、嘘か誠か、しばしば秘儀的なカニバリズムも指摘されています。いわば、陰謀の巣窟にして悪魔的な存在として一般的にはイメージされていると言えましょう。

 アメリカの歴代大統領の大半が‘ディープ・ステート’の手先であり、同勢力に抵抗する大統領が暗殺などで排除されてきたとすれば、トランプ前大統領は、初めてその存在を認め、同勢力との戦いを表明した大統領と言うことになります(もっとも、アイゼンハウアー大統領が軍産複合体として示唆・・・)。トランプ前大統領に‘正義の味方’、あるいは、‘悪党に戦いを挑む英雄’の役割を期待するのは、今日、誰もが制御できない魔物と化した世界権力への批判の裏返しでもあります。言い換えますと、少なくない人々が、トランプ前大統領に、巨悪と戦う‘アメリカン・ヒーロー’のイメージを重ねているのです。

 今般、奇跡的に一命を取りとめたトランプ元大統領に神意が現れたとする見解は、トランプ大統領自身が神の如き不死身の存在であるというよりも、同氏を生かしめたのは、とりわけ民主党内に巣くっている‘ディープ・ステート’の成敗を神が望んでいる印、ということになりましょう。同見解に従えば、神が求めるトランプ元大統領の役割とは、人類の奴隷化を目論む拝金主義の権化でもある世界権力からアメリカ国民を救い出すことであり、それ故に神のご加護があったということとなるのです。

 神の存在証明が極めて難しいように(現在に至るまで誰も成功していない・・・)、今般の暗殺未遂事件における神意の証明も、殆ど不可能なことなのでしょう。しかしながら、トランプ元大統領に対する国民の期待がサタニックな‘ディープ・ステート’との戦いにあるとしますと、今後の同氏の言動は、支持率に少なくない影響を与えるかも知れません。仮に、巨額のマネー・パワーに籠絡され、その掲げる政策も軌道修正されてディープ・ステート寄りとなるならば、上記の神意説は急速に萎み、期待は落胆に変わるからです(なお、ハリス氏の夫はユダヤ系であり、トランプ前大統領にもユダヤ人脈が付いている・・・)。

 大統領選挙に関する主たる報道内容の一つが両陣営への‘寄付金’となる今日、果たしてアメリカ大統領選挙の結果が判明する日は、民主主義を巧妙に腐敗させるマネー・パワーから解放される日となるのでしょうか。本当のところは、アメリカを含め何れの諸国にあっても、マネー・パワーが事実上、決定権を握ってしまう現行の選挙制度こそ、国民が真剣に考え、全ての候補者が自らの具体的改革案を示し、見直しを急ぐべき最大の政治課題なのではないかと思うのです。

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