今般の米価高騰の背景として、政府による食料品の輸出促進政策が指摘されています。新型コロナウイルス感染症の拡大に直面していた2020年3月、安倍政権下において日本国政府は、日本産の食品の輸出を促進する方針を表明します。以後、自公政権は、お米を含む農産物や食料品の輸出を後押しすることとなります。内外において日本食品展示会も開かれ、2023年7月には中国の上海でも開催されました。
この流れにあって、2021年11月に、家具の製造・販売を主たる事業としてきたニトリホールディングスは、ホクレン農業協同組合連合会と共同で北海道産のお米である「ななつぼし」を中国に輸出する計画を発表します(中国の国内価格の10倍の価格ともされるので、中国人富裕層向けの輸出・・・)。ニトリは家具事業者ですので、農林水産省がこの種の異業種参入を許したこと自体が驚きでもあるのですが、同社が扱う製品の大半は中国から輸入されているため、空きコンテナの活用方法として考案されたようです。
最初の年の輸出量は55トンとされていますが、同社による対中米輸出に対しては、目下、国民から厳しい視線が向けられています。同情報はXにおいて拡散され、その他の‘売国疑惑’も重なって、ニトリ製品の不買運動にまで発展する事態ともなりました。もっとも、同情報は、上述したように2021年におけるものですので、今日に至るまで同事業が継続されているのかは不明です。仮に、米価高騰を受けて輸出を停止した、あるいは、既に同事業を終了済みであるならば、ニトリは、その旨、日本国民に対して説明すべきとも言えましょう。それができないともなりますと、同輸出を許している日本国政府、並びに、ニトリホールディングス社が、国民から批判を浴びても致し方がないのかもしれません。自らの事業が、供給不足に拍車をかけ、米価高騰を引き起こす一因ともなっているのですから。
ニトリによる対中米輸出の問題は、価格形成に対する輸出入の問題を端的に表してもいます。価格とは、一個人の問題ではありません。‘適正価格’というものが、生産者と消費者双方の生活が安定的に維持され、双方共が納得し得るレベルの価格を意味するならば、輸出入による供給量の増減は、この国内で成立している需給のバランスを壊してしまうからです。言い換えますと、‘適正価格’とは、国民の生活レベルと不可分に結びついており、ひとつの経済圏としての国を枠組みとして成立しているとも言えましょう。このことは、バランスの崩壊にあって‘誰か’が犠牲になることを意味しますし(自由貿易理論では、劣位産業の淘汰としても説明される・・・)、利害関係をめぐる国内的な対立要因ともなりかねないリスクともなります。
例えば、供給不足にも拘わらず、海外にお米を輸出した場合、それによって最も利益を得るのは輸出業者です。そして、輸出向けのお米を生産する農家もまた、国内販売での従来価格よりも高値で販売できますので、米輸出事業の利得者に名を連ねることとなりましょう。ただし、国内向けのお米を生産している農家との間には、心理的な溝が生じるかも知れません。その一方で、一般の消費者にとりましては、上述したようにエンゲル係数が上昇し、生活が苦しくなるのですから、輸出事業には反対の立場となります。加えて、他の消費財を製造している企業等も、消費者の予算配分が食料に偏りますので、景気の低迷という負の影響を被ります。
「適正価格」、あるいは、均衡点への回帰策として、輸出で減少した供給量を輸入によって増やすという方法もありましょうが、同政策をとりますと、食糧自給率がさらに低下し、政治的課題とされてきた食料安全保障の実現は遠のきます。他国への食料依存は、平時にあっても国際社会にあって自国の立場を弱めますし、有事に際しては、‘兵糧攻め’という手段を相手国に与えることにもなりましょう(海上封鎖によってお手上げ状態に・・・)。
大阪堂島商品取引所にて米先物取引を開始させたSBIホールディングスにしましても、今般のニトリホールディングスにしましても、グローバル時代にあって、全世界で突如として出現した‘新興財閥’という共通点があります。既得権益を打破し、民間の活力を活かす新たな時代の起業家というイメージが拡散されてきたのですが、今日では、国民生活を破壊しつつ、一民間企業が政府と癒着して暴利をむさぼる政商のイメージにすっかり代わってしまっています。こうした連動的な動きの背景には、世界経済の一体化を目指すグローバリストの戦略の存在が推測されるのですが、少なくとも、日本国政府もニトリホールディングスも、日本国民に対して説明責任を果たすべきですし、お米の輸出や先物取引については、価格形成への影響によって全国民に影響を与えるのですから、重要な政治問題として解決を図るべきではないかと思うのです。