万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

「上皇」では政治的地位となるのでは?

2017年03月22日 15時35分34秒 | 日本政治
退位後「上皇」、敬称は「陛下」=有識者会議で専門家見解
 天皇譲位(退位)問題をめぐっては、有識者会議において、退位後の呼称を「上皇」とする案が浮上していると報じられております。しかしながら、この案には、幾つかの問題点があるように思えます。

 第一の問題点とは、日本国の歴史を振り返りますと、「上皇」とは、極めて政治的な地位であることです。今般、招聘されている有識者会議は、専門家から選任された方々とされておりますが、天皇の先代である「上皇」が政治を執る体制を院政と称したことは、日本国民の誰もが知っている歴史的事実です。院政が成立した背景には、日本古来の祭政二元体制があり、この時代、天皇が祭祀を司る一方で、「上皇」が政治を担う体制が成立しています。となりますと、現代という時代に「上皇」という地位を復活させることは、日本国の民主主義体制との間に摩擦が生じる重大なリスクがあります。

 第二の問題点は、仮に、特例法によって「上皇」に何らかの公的役割を認めるとしますと、憲法にも皇室典範にも存在しない全く新しい地位を法律によって制定し得ることとなります。法律が憲法を越える地位を創設する方式は、授権法を以って総統に権限を集中させたナチス・ドイツの手法を思い起こさせます。仮に、「上皇」という公的地位を新設するならば、憲法改正、あるいは、皇室典範の改正を要するのではないでしょうか。

 第三に指摘し得る点は、「上皇」の地位まで設けるとなりますと、国民に対する説明との間に齟齬が生じることです。マスコミ報道や世論調査によりますと、国民の多くは、譲位(退位)の意向について理解を示したとされていますが、仮に、この報道や調査結果が正しいとしても、それは、”高齢”に対する理解です。ところが、「上皇」を設け、しかも一定の公的活動をも認めるとなりますと、”国民の理解”の前提が崩壊します。

 第四に、戦後、日本国憲法の制定によって、「天皇」という地位にある者のみが、「日本国、ならびに、日本国民の統合の象徴」という公的役割を担うように定められておりますので、「天皇」以外の「上皇」は、象徴であるのか、何であるのか、その役割が曖昧であることになります。

 第五に、’近代皇室’は、明治時代に新たに作られたといってよい存在であることから、安易に、古代より続く歴史的天皇家に対して用いていた「上皇」という号を近代皇室に用いることには、違和感を覚える国民も多いはずですし、伝統的上皇の歴史的機能を考えますと、第一点として挙げた問題点も浮かび上がってくることになります。

 天皇譲位(退位)については不明な点があまりに多く、何らかの理由に因る”焦り”さえ感じられます。世襲という制度では、天皇であれ、君主であれ、公的な存在意義を失いますと、いとも簡単に国家の私物化を許す制度に堕しますので、天皇譲位(退位)には、より慎重な検討が必要なのではないかと思うのです。

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15 コメント

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平成院 陛下 (北極熊)
2017-03-22 17:01:59
確かに、上皇は天皇の上におわすという考え方だったのでしょうね。 時代背景は同じですが、権威を新しい天皇に譲った、ある意味「役割を終えた方」という意味合いから、通常は崩御後で無いと呼ばない漢風諡号「平成」を使って、「平成院」陛下とお呼びするのは如何でしょう?
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北極熊さま (kuranishi masako)
2017-03-22 21:18:59
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 現在の皇室と、江戸以前の皇室とでは、まるで別物ですので、敢えて今日、こうした歴史的名称を使う必要があるのか、疑問に思うところがあります。そして、何よりも、院政とは、歴史的には政治と権威の分離でしたので、権威の二重性というよりも、上皇の政治性が問題となりましょう。「上皇」の新設が民主主義に抵触するようでは、国民の多くは反対するのではないでしょうか。
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Unknown (神社百景)
2017-03-23 03:51:40
私も上皇という敬称に違和感を持っております。
譲位後に、政治に一切係わらないこと、宮中祭祀は対応必要な状況、という前提で決めるべきと考えます。
この種のことに、オフィシャルに通用する文章で意見表明するブロガーが少ないことが残念でなりません。
平川祐弘先生、「日本は天皇の祈りに守られている」を書いた松浦光修先生あたりがどういう見解なのか、知りたいと思っているところです。
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呼称は「平成天皇」「前天皇」でよろしいかと (gateway)
2017-03-23 06:01:59
昨今の皇室内廷の動きを見ていますと、何が何だかもうハチャメチャですね。
事態は、自爆テロ攻撃を繰り出す皇室内廷と、肉を切らせて骨を断つ作戦の政府内閣との死闘に向かうと思います。
ただ、政府にとって皇室問題はさほど優先度が高くないようです。
政府としては既に覚悟は決まっている、迷いはないといったところでしょうか。
倉西先生のお書きになる記事はとても勉強になります。感謝申し上げます。

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陛下が二人になりそう? (あずみ渚)
2017-03-23 08:11:01
おはようございます 
週刊誌情報ですと、今上陛下が摂政ではなく譲位に
拘るのは東宮夫妻が情けないのでそのサポ-トの為
と書いてありました。
だとすると権力権威の二重化になりそうですね

それにしても北朝鮮をはじめとする問題山積みの政府
に対して貴重な時間を盗る生前退位問題
今上陛下に対して甚だ疑問がつきません

オランダ女王は退位後、王女の名称に戻られました
今上陛下も退位後 いっそのこと 明仁親王にお戻りになられ美智子様と御一緒に隠岐の島あたりにお住まいを移されたらよいかと思います
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神社百景さま (kuranishi masako)
2017-03-23 09:20:57
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 有識者会議では、譲位後の活動については、外交儀礼的な役割を残すべきとの意見もあったそうですが、天皇に対しては、憲法上、政治的権能を有さないとする制限があるものの、この制限が「上皇」に及ばないとなりますと、むしろ、政治的リスクが高まります。昨今の皇室の不自然な動きにより、国民の多くも政治的リスクを認識してきておりますので、ブログ等での意見表明なども増えるのではないかと期待しております。
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gatewayさま (kuranishi masako)
2017-03-23 09:32:20
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 動けば動くほど、これまで取り繕ってきた仮面が剥がれ落ちていっているように見えます。皇室が自発的に作戦を練っているとしますと、その姿は国民にはおぞましく見えますし、何らかの勢力に操られているならば、国民からの信を完全に失います。新たに姿を現した”活動する皇室”に、国民の多くも、戸惑っているのではないでしょうか。
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あずみ渚さま (kuranishi masako)
2017-03-23 09:38:35
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 表向きの理由は高齢であり、その実、真の理由は別のところにありますので、かくも未練がましく退位後の特別待遇を求めているのではないかと疑っております。また、国際情勢が緊迫しているからこそ、国内的な混乱を引き起こしたり、政府の足を引っ張るために、敢えて、この問題が持ち出されている可能性もないわけではないのです。国民は、表面ではなく、その背後に注意を払うべきではないかと思うのです。
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では何があるのですか (Unknown)
2017-03-24 05:30:58
退位した天皇の呼称は千数百年、上皇です。変えるには、国民の80%以上の暗黙の同意が必要でしょう。古来から、あるものは、そのまま続けたほうが良いのです。
明治以来の天皇制とそれ以前の天皇制は、変わったところもあれば、同じところもあるでしょう。違うと思うのは、あなたの偏見です。
社会には秩序と言うものが一番重要なのです。アメリカには、いや、西洋には、この感覚が乏しい。だから、イラクもアフガンもリビアも秩序を形成できず、ヨーロッパは難民で自ら秩序が崩壊しそうです。あなたが嫌うかもしれないモンゴル帝国も秩序を提供できたから、あの広大な領域を支配できたのです。隊商は自由に交易できたでしょう。
敗戦しても秩序が残ったのは天皇家のせいです。日本の秩序の根源なのです。東宮家へのあなたの猛批判は秩序破壊をする過激派です。
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Unknownさま (kuranishi masako)
2017-03-24 08:00:26
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 私は、Unknownさまとは、いささか違った見解を持っております。上皇では院政を思い起こし、政治色が強い、というのが、国民の共通認識なのではないでしょうか。代案といたしましては、宮号でもよいのではないかと思います。

 また、明治維新を境といたしまして、天皇制が変質したのは、私の偏見ではなく、事実なのではないでしょうか(明治憲法下の立憲君主制は、西欧からの導入…)。
 また、戦後に起きまして、日本国を纏める上で昭和天皇の果たした役割は評価されるべきと思います。しかしながら、今日の皇室を取り巻く状況を観察しますと、日本国の秩序を皇室が率先して破壊しているように見えます。自由恋愛、先祖不明の妃(おそらく朝鮮半島系…)、犯罪、不道徳、不品行、創価学会・・・といった変化が皇室に起きているにも拘らず、国民に尊敬を求めたり、秩序を維持するための求心力となることは、最早、不可能です。皇室が劣化した以上、国民は、より良き秩序こそ目指すべきと思うのです。
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