今般の異常なまでの米価の高騰は、マネー・ゲーム化を伴う投機が絡んでいることは、多くの国民が、薄々気がついているのではないかと思います。一年の間に2倍まで跳ね上がるのですから、単なる供給不足では説明が付かないからです。マネー・ゲーム化については江藤拓農林水産大臣も、昨夏の大阪堂島商品取引所における米先物取引の復活には触れないもの、言及しておりますし、農家の証言やメルカリでのお米の出店などが見られますので、流通過程において高値誘導の買い占めや転売が発生していることは確かなのでしょう。その一方で、安過ぎた米価や政府の減反政策を真の原因として指摘する見解もあります。
近年、確かに米価は安値が続く傾向にあり、その収益性の低さが稲作離れを加速させる原因ともなっていることは、理解に難くありません。農家の大多数が、毎年の赤字を他の収入、あるいは、副業等で補いなら水田を維持している、つまり、原価割れの状態であったとしますと、高騰以前の安価な米価が適正価格とは言えないことは確かなことでしょう。しかも、しばしば指摘されているように、農協が農家の足元を見て安値で買い叩いているとしますと、これも批判を浴びて当然のことです。ところが、近年の米価の動きも政府の農政も、どこが不自然なのです。
減反政策は2018年に既に廃止され、価格形成については基本的には市場の取引に任されています。農家を廃業に追い込んでいるのは、安値が続いている米価とも言えましょう(休耕田や耕作放棄地の増加・・・)。つまり、減反政策の廃止後も、お米の生産量は下げ止まらず、作付面積も減少しているのです。市場原理に委ねるならば、供給量の低下は価格の上昇をもたらすはずです。もちろん、消費量、即ち、需要の減少が供給の減少を上回っているとする説明もありましょう。教科書的な説明では、やがて均衡点でバランスするはずなのですが、米価の低迷状態が続いていったのです。
その一方で、政府は、食糧安全保障を目指す、あるいは、お米の消費拡大を促進するとしながらも、実際には、米作農家の経営や生活を安定させるための政策は殆ど実施していません。このため、米作農家の高齢化と後継者不足が相まって、将来的にはさらなる水田の荒廃も予測される状況に至っています。農家の苦境を放置した政府の農政の失敗が今日の米価高騰を招いたとする説には、一理はあるのです。
それでは、何故、政府は、米価の安値を放置したのでしょうか。その理由として考えられるのは、保守政党のイメージとは裏腹に、自公政権の実態とは、グローバリストの傀儡にして新自由主義政権であったことに求めることができるかもしれません。日本国政府は、表向きは日本の農業を護るとしながらも、本心では自国の食糧安保や食料自給率などは眼中にはなく、グローバリストが求める方向に日本国の農業を転換しようとしたと推測されるのです。グローバリストは、農産物を含むあらゆる産品のグローバルな生産・販売体制の構築を目指していますので、日本国のお米も日本国民の食卓ために生産されるものとは見なしてはいないことでしょう。つまり、日本国のお米の生産量は、輸出品として全世界の富裕層の需要を満たす程度でよいのであって、大多数の一般日本人消費者は、安価なお米、あるいは、小麦粉を海外から輸入すれば良いと考えている節があるのです(漁業にあっても、海外輸出が拡大するにつれ、海に囲まれた国でありながら、国内では魚介類の高値が続いている・・・)。
かくして、日本国政府は言行が一致せず、口では日本の農業を護ると言いつつ、実際にはお米の輸出を促進しようとしたため、国内ではお米不足が懸念される状況にありながら、海外では日本国内よりも安価で日本米が販売されるという、本末転倒な事態が発生したのではないでしょうか。そして、岸田政権下にあって開設を許可され、海外の投機家等にも開放されている先物市場こそ、日本国の米価格形成に介入する窓口となった疑いも否定はできないのです(減反政策、安価な米価、先物市場の開設は、見えない糸で繋がっているのかも知れない・・・)。かくして日本国の農政によって最も利益を得たのはグローバリストであり、日本米の海外輸出に成功すると共に、金融面でも、米価高騰は投機的な収益拡大のチャンスともなったのでしょう。
仮に、上述したシナリオにおいて米価高騰が仕組まれていたとすれば、次なるグローバリストのステップは、日本国への海外産米の輸入拡大への道を開くことです。すなわち、お米不足や米価高騰を理由に、安価なお米を海外から輸入を拡大させるというものです(日本国民の間から輸入拡大を求める声が上がれば最も都合が良い・・・)。‘上げるだけ上げて落とす’がグローバリストの基本戦略の一つですので、今後、米価が暴落するシナリオもあり得ましょう。つまり、暴落が起きれば、日本国の農家の多くが経営困難に陥ります。否、意図的に暴落を起こさずとも、関税率が大幅に引き下げられたり、完全に自由化されれば、時間の経過と共に海外米との価格競争に負けて、日本の農家は淘汰されてしまうことでしょう。今や日本国の農政は、このままグローバル路線を進むのか、それとも、保護主義を選択するのか、という、重大な岐路な岐路に立たされていると思うのです。