万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

排出権不況の予感

2007年12月21日 21時20分49秒 | 国際経済
 地球温暖化対策の一環として、排出権市場の整備が世界各国で進められており、日本国でも、金融市場の競争力強化の文脈において、設立の検討が進められている”総合取引所”に併設するという案が検討されているようです。すなわち、証券、商品、ならびに排出権の各市場が融合し、投資資金は、これらの間を即時かつ自由に移動できることになるのです。果たして、この結果、経済はどのような影響を受けるのでしょうか。

 資金を自由に移し替えることができるようになりますので、確かに、金融機関にとりましては、メリットはありそうです。その一方で、製造業や消費者にとりましては、あまり歓迎すべき事態にはなりそうにありません。何故ならば、民間における排出量の削減が困難な状況にあって、排出権の将来的な価格上昇が予測されているからです。需給関係から生じる値上がりに加えて、これを好機と排出権の先物市場に投機資金が大量に流れ込むとなりますと、価格上昇に歯止めをかけることは難しくなります。かくして、石油や穀物価格と同様に、必要経費(損金)となる排出権価格の上昇は、企業収益を圧迫し、経済全体にマイナス要因として働くことになるのです。

 排出権不況は、以上のメカニズムを通して容易に発生しそうです。やがて、それは、融資の焦げ付きや倒産などの増加により、金融機関の利益をも脅かすことになりましょう。こうした事態を防止するためには、何らかの制度的な工夫が必要なのではないか、と思うのです。

 

 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コソボ分割は可能か? | トップ | たかが民族、されど民族 »
最新の画像もっと見る

国際経済」カテゴリの最新記事