万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自由主義経済と企業の独立性―奴隷制度との比較

2024年08月08日 10時41分55秒 | 国際経済
 今日、多くの人々が、自分たちは自由主義経済の中に生きていると信じ込んでいます。しかしながら、株式システムを見る限り、そうとも言えないように思えます。自由という価値が実現するためには、各々の主体の独立性を要するからです。この自明の理からしますと、株式システムに最も近いのは、奴隷システムではないかと思うぐらいです。何故ならば、以下に述べるように、両者には幾つかの共通点があるからです

 第1の共通点は、両者とも、‘もの’ではないにも拘わらず、所謂‘物権’が設定されていると見なされている点です。奴隷の所有権が奴隷主にあるように、企業も株主に‘所有権’があるとする見方が一般的でした。何れも、お金を出して‘買った人’が、所有者であると見なされてきたのです。英米系の企業文化に顕著な株主所有の考え方は、今日、若干の修正が試みられていますが、企業という存在が、株式の発行によって売買の対象となる点においては変わりはありません。

 第1と関連して第2に、奴隷主も株主も、一端、買い取って権利を得た以上、奴隷や企業に報酬を払う必要性も義務もありません。如何に前者のために後者が懸命に働いたとしても、無報酬なのです。企業に至っては、株主に対して配当金を支払い続ける法的義務さえ課されています。

 第3に、奴隷主は自らの思いのままに奴隷を他者に売却することができますし、株主も、何時でも、自らの判断で所有している株券を売却することができます。売却に際しては、奴隷や企業の意思は、殆ど考慮されないのです。このため、奴隷は他者に売り飛ばされたくなければ、奴隷主に尽くして気に入ってもらわなければなりませんし、今日の企業も、自社株の売却を恐れて株主への配当率を高めたり、その要求に応じたり、株主サービスを拡充せざるを得なくなります。

 第4に、企業も奴隷も、その価値は、市場における売買によって決定されます。相対取引による売買もありましたが、奴隷制度が一般化していた古代にあっても、奴隷市場という奴隷の売買が行なわれる市場が存在していました(古代ギリシャではロードス島など・・・)。奴隷達は、生まれたとき、あるいは、捕縛された時から価格が決まっていたわけではなく、その属性や能力等によって値踏みされ、競売などにかけられて取引されたのです。一方、今日の企業も、証券市場による投資家等の評価が企業価値を決定しています。今日、証券市場への上場は事業成功の証の如くにお祝い事ですが、企業の売買市場への‘売り出し’という見方もできないわけではありません。上場時に高値が付けば、同企業は多額の資金を調達できますし、市場にあって自社の株価が上がれば企業価値も上がり、当該企業にとりましては喜ばしいことではあります。しかしながら、公開後にあっては、実質的な株価上昇の利益は、それを売却することができる株主が享受するのです。

 そして、第5の共通点を挙げるとすれば、全てではないにせよ、奴隷にも企業にも、自らを解放する手段がないわけではない点です。古代ギリシャでは、借金が返せなくなったために奴隷となって自らを売った債務奴隷の場合には、債務の返済によって奴隷身分から解放されました。また、奴隷契約の場合には、契約期間が満了すれば、晴れて自由の身となることができたのです。それでは、現代の企業はどうでしょうか。自らの自由の身とする方法が全くないわけではありません。例えば、日本国では2009年に解禁となった自己株式の消却です。株式の消却は、自らを買い戻すことを意味するからです。そして、もう一つの方法が、昨日の記事で述べた株式の社債への転換なのです(他にも多くのアイディアがあるかも知れない・・・)。

 株式会社の制度は、オランダ東インド会社を起源とするとされますが、400年以上にわる歴史があり、今日の最も基本的な企業モデルの地位を確立したとはいえ、最も望ましい企業形態であるとは言えないはずです。それが上述してきたように奴隷制と似通っており、かつ、グローバリストの世界支配の手段と化している現状を見れば、なおさらのことです。固定概念から離れ、否、洗脳を解き、株式制度の問題点を十分に知り尽くした上で、より人類にとりまして望ましい形態を見出することこそ、現代に生きる人々の使命なのではないかと思うのです(つづく)

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