万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

台湾問題の平和的解決-急ぐべきは台湾の法的地位の確定

2022年12月16日 10時51分45秒 | 国際政治
 今日に至るまでの歴史的な経緯を調べてみますと、台湾には、独立国家としての要件を揃えていることが分かります。今日の国際社会における独立国家の要件とは、(1)国民、(2)領域、(3)主権(政府と対外政策の権限とに分ける場合も・・・)のおよそ三者となりますが、台湾は、何れもこれらの条件を満たしています。そこで、台湾の独立国家としての法的地位について、それを擁護してみたいと思います。なお、ここで言う‘独立’とは、中国からの独立ではなく、国際社会における独立主権国家としての法的地位を意味しています。

 台湾の国民につきましては、中国本土(中華人民共和国)とは、その民族的な構成も歴史的な形成過程も同じではありません。中国本土では、稲作系の漢民族がマジョリティーでありながら、随、唐、元、清など遊牧系の異民族が支配した王朝が長く続き、各地に少数民族が多数居住しながらも、一先ずは、漢民族系の国家として自己認識しています。一方、台湾は、オーストロシア語系の人々が原住民であり、漢民族系の人々が大陸から移入したのは17世紀以降に過ぎません。しかも、その契機となったのは、オランダ東インド会社が遂行した植民地政策としての開拓移民奨励策です。中国と台湾ともに今日では中国系住民が多数派を構成し、字体に相違があるものの中国語を国語としますが、そのDNAの由来も歴史も大きく異なっているのです。なお、台湾では、17世紀以降の移民の子孫である本省人はホーロー人と呼ばれ、全人口の凡そ77%に当たりますが、福建省に多数居住する南方系古代閩・越の末裔ではないかと推測されます。

 それでは、領域はどうでしょうか。こちらの方も、中国本土の王朝が台湾を領域としたのは、清朝が直轄地とした1683年から下関条約によって日本国に割譲した1895年の僅か212年間に過ぎません。‘中国4000年の歴史’からしますと一時的な領有に過ぎず、中国の‘固有の領土’ではないことは明白です。しかも、台湾を版図に組み入れた清王朝は女真族が明を滅ぼして開いた異民族王朝ですので、台湾には漢民族によって支配された歴史もないのです。なお、中華民国も台湾を国際法において正式に領有した事実はなく、台湾に国民党軍が最初に上陸したのは、第二次世界大戦後に戦勝国となった連合国が日本領に派遣した占領軍としてのことでした。

1949年10月には、本土から追われる形で蒋介石総統が首都を台北に移し、同島の領有を宣言しますが、台湾は、今日まで法的には帰属未確定地のままとされています。何故ならば、1952年のサンフランシスコ講和条約によって日本国は台湾を放棄したものの、同条約は、台湾・澎湖諸島がどの国に帰属するのかを敢えて記さなかったからです。言い換えますと、この‘無言’は、米英仏共に台湾の中華人民共和国への帰属を否定したことを意味します。もっとも、講和条約による日本国の放棄によって無主地となったと解すれば、台湾は、無主地先占の要件(1.先占の主体は国家、2.先占の客体は国際法上の無主地、3.国家による領有の意思表示、4.実効的占有)を全て満たしている独立国家と言えましょう。

  以上に国民と領域について見てきましたが、最後に、主権について考えてみることとします。蒋介石総統率いる国民党が台湾に政権を移したのは、国共内戦において共産党に敗れたからです。内戦において敗北した勢力が、他国において亡命政権を維持することは珍しいことではなく、蒋介石総統も当初は一時避難的な目的で台湾島に渡ったのでしょう。実際に、その後も同総統は中国本土の奪還を諦めてはおらず、1965年には、米軍の協力の下で「国光計画」に基づく急襲作戦が試みられました。因みに、台湾による大陸奪還は、中国が核保有並びに運搬手段を獲得するまでがタイムリミットであったとされています(このため、70年代以降は断念・・・)。

もっとも、他の一般的な亡命政府とは異なり、国民党政府は、避難先が第二次世界大戦後の台湾、即ち、連合国の占領地であったという幸運に恵まれています。しかも、同地には占領軍として既に国民党軍が進駐しており、かつ、同大戦にあって同盟を結んでいた軍事大国アメリカの後ろ盾がありました。国民党政府は、いわば、‘連合国’の庇護を受ける亡命政府でありながら、占領地にあって日本統治時代の行政機構等も利用できましたので、同政府は、国家の政府として容易に実効支配を及ぼすことができたのです。

以上より、台湾は、国際法において自らを独立した主権国家であると主張する法的根拠を十分に備えていることは明らかです。議論すべき問題が残されているとすれば、(1)第二次世界大戦後の台湾の領域は無主の地とみなすべきか、連合国による占領地とみなすべきか、(2)国民党政府の存続を、国際社会(少なくとも西側諸国)における事実上の国家承認とみなすべきか、それとも、今後の国際司法機関による法的地位の確認を要するのか、(3)国民党一党独裁体制から体制移行し、民主化した現在の台湾は、国民党側の主張でもあった「一つの中国」の主張をなし得るのか・・・といった問いがありましょう。

何れにしましても、これらの問題の審議を含め、いずれかの国際司法機関にあって台湾の法的地位の確定作業が行なわれれば、台湾問題はおよそ平和的に解決されることとなります。このことは、同時に、中国による台湾併合の正当性を失わせることを意味しましょう。仮に、中国が、台湾の主権国家としての独立的地位に異議を唱えるのであるならば、同裁判において反訴するか、国際司法機関に台湾の領有権を確認するための裁判を新たに起こすしかないのではないかと思うのです(つづく)。

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